イカレ女記者役の夢主ver.(MHA:敵連合夢) 08
(side死柄木寄り)
オールマイトが教職に就いた。
世間はそれに持ちきりである。雄英校舎にはマスコミが群がり、今か今かとオールマイトの登場を待ち、オールマイトの授業を受けた生徒たちにマイクとカメラを向ける。マスコミの群れの奥で、死柄木は黒いフードを深く被った。
ここでの彼の目的は、雄英バリアを破壊すること。取材される生徒の中には、勿論、緑谷出久の姿もあった。死柄木とは真反対の立ち位置にいる、OFAの継承者。オールマイトの後継。一週目ではただただ奴を壊したかった。オールマイトも、緑谷も、そこに連なる全ての者たちも、全部。全て作られた感情だったのに、それが自分の意思だと思い込んでいた。が、二週目の今はどこか懐かしさすら覚える。ヒーローもヴィランもどうでもいい。死柄木の心臓にあるのは、スピナーたち連合の仲間だ。二週目ではあの家の住民と言えるか。
「お引き取りください。オールマイトは本日非番です」
イレイザーヘッドがそう言ってマスコミ関係者を追い払おうとしている。腑抜けたように見えるがクソゲーの原因となる人物だ。
それも、一週目の話だったな。一人のマスコミが踏み出したことで、雄英バリアが展開される。その後ろ姿に一瞬記者の女かと思ったが、奴はもっと雰囲気が気持ち悪いから違う。うるさいマスコミに混じって死柄木はゆっくりとバリアに近づいていく。そうしてバリアの前に立ち、ポケットに入れていた手を持ち上げて、触れた。
音はない。壁が崩れ、そこからレポーターたちが雪崩込んだ。
ーー後は、内通者がどうにかするんだっけ?
路地裏に入り込み、黒霧を呼ぶ。
「お疲れ様でした。死柄木弔」
「…ドクターの所に連れて行け」
「分かりました」
開かれたワープゲートをくぐる。死柄木の姿はゲートに包まれ、そのまま何事もなかったかのように消えた。
薄暗い鉄の空間。巨大なカプセルに入った脳無共に出迎えられる。中央では、椅子に腰掛けた小太りのドクター…柄木が、「また来たのか死柄木」と揚々としていた。舌打ちし、いつものように服を脱げば、死柄木の体に無数に刻み込まれた破壊と構築の傷跡が露になる。彼は緑の溶液が光る空のカプセルの前に立つと、呼吸器を付け、その中へと入っていった。
溶液が傷口に染み込む。呼吸器から睡眠薬の混じった空気が流れ込み、意識が薄くなっていく。暗くなる視界の中で、柄木が電子パネルを操作しているのが見えた。
「始めるぞ」
言外に「やれ」と言う。その途端、地獄のような激痛が死柄木の体を襲った。遠くで叫び声が聞こえた。それが自分自身のものだと理解するのに時間はかからなかった。ただ痛みと嫌悪が体を侵食する。脳から脊髄にかけて電撃が浴びせられ、別の何かに作り変わる。
絶叫する死柄木の容態を注意深く見ながら、柄木は楽しげな声を上げた。
「生きた人間を脳無にする…! これほど楽しいことはないわい」
最初、AFOからこの命を受けた時はそれはもう驚愕したものだ。この手術は死柄木が十分な恨みと憤りを溜め、激痛に耐えうるだけの執念を持ってから行う予定だった。念のために死柄木本人にヒアリングをしたが、AFOの言う通り、今やるべきだと納得させられた。
『ーーお父さんたちを身につけている時みたいに、あの家にいると腹の底から怒りが沸々噴き上がってくる。ずっと考えてたんだ。なんでこんなに苛立つのか』
あの時、薄暗い部屋の中で死柄木は確かに笑っていた。
『ムカつくんだよ。平和に生きて、まるでそこに悪なんてないように笑うあの女が』
数年前から死柄木が入り浸る屋敷。始めこそ死柄木の中の負の感情が薄れることを危惧していたが、予想に反して良い効果をもたらしたらしい。
『だからもう、壊そう。アイツに連なるもの全て。この社会の全てを。そうして絶望したアイツを、最後の最後で塵にする』
握っていたガラスコップにヒビが入り、中の水が溢れていく。声が上擦るのは興奮している証だ。死柄木の笑みは凶悪さを増し、溢れ出した気迫が部屋を飲み込む。悍ましい狂気を孕んだその表情に、柄木は確かにAFOの片鱗を見た。
「スクスク育てよ、死柄木弔。儂…いや魔王の、希望の光」
うっとりと死柄木を見つめる。気絶する暇も無く与えられ続ける痛みに、彼は体を反らした。本来ならば十ヶ月間連続で行わなければならないが、死柄木の強度ではいささか死亡確率が高い。そこで、一ヶ月間の改造と一週間のインターバルを複数回繰り返すことにした。こうすることで段階的に体を改造していくのだ。デメリットとして、インターバル中は脳無の力を行使することができない。しかし完成した暁には、魔王に連なる強者となるだろう。
「楽しみじゃのう」
彼の悲鳴をBGMに、柄木は機器の操作を続けた。
人生はゲームだ、なんてチープで馬鹿げた言葉をどこかで目にしたことがある。二週目の今はまさにそれで、死柄木は静かに高揚していた。
「それで、力が欲しいんだね? 弔」
「そうだっつってんだろ」
面倒くせえな。そう思いながら、死柄木は首の瘡蓋を掻き剥がした。
AFOは嘘を見抜く。自身に向けられた悪意が分かるのだ。それは一週目に複数の個性とAFOを付与された時に分かっている。小細工も、下手な演技も通じない。ならばどうするか。ヒアリングと称して彼の憎悪を確認しに来た柄木に向かって、死柄木は笑った。
「お父さんたちを身につけている時みたいに、あの家にいると腹の底から怒りが沸々噴き上がってくる。ずっと考えてたんだ。なんでこんなに苛立つのか」
ただ、事実を話せばいい。
「ムカつくんだよ。平和に生きて、まるでそこに悪なんてないように笑うあの女が」
思い出すだけで腹が立つ。あの女に幾度となく神経を逆撫でされた。あの女が家の所有者でなければ百回以上は殺している。
「だからもう、壊そう。アイツに連なる全て、この社会の全てを。そうして絶望したアイツを、最後の最後で塵にする」
可能なら本当にやりたい。殺してもカメラ片手にカサカサと這いずり回りそうなあの女が、果たして死ぬかは疑問だが、やれるものなら本気で殺したい。それほどまでに、あの女は気色が悪く、煩く、小賢しいのだ。
一週目と同じルートを辿ると、荼毘には言った。だが、別に全部同じにするとは言っていない。死柄木の目的は、一週目の最後に登場するチート(脳無化)を今手に入れること。複数の個性を所持できなくとも脳無のパワーがあるだけで何倍も攻略が楽になる。第一ゲームが終了しても尚AFOが生きていた時の保険でもあった。
ラスボスを殺す。
そのためなら、オールマイトすらも利用してやる。一週目の強化中と同じような激痛を感じながら、死柄木の脳はラスボス攻略へ向けて回り出していた。
(side女記者)
巷で噂のヴィラン狩りが荼毘と気づいても特にすることはない。全ては憶測の域を出ず、通報するほど社会や警察に恩はないからだ。
「着いたぜ」
住宅地の車道に伊口君が車を止める。私は俯く渡我ちゃんを気にかけつつも車を降りた。
「じゃ、またよろしく」
「おう」
ドアを閉めると、車が去っていく。ここには駐車場がないので車を置いておけないのだ。伊口君には用が終わったら迎えに来てもらう予定である。
目の前にある赤い屋根の一軒家は、渡我ちゃんの実家。彼女が高校二年生に進級して区切りが良かったため、一度訪れてみようと言う事になったのだ。緊張しているのだろうか。微かに震える渡我ちゃんの背中を摩る。
「無理はしないでね」
「ありがとうございます。…でも、きっと大丈夫です」
小さく頷いた彼女が家に入るのを、私は黙って見守った。けれど、玄関前で彼女が立ち止まりこちらを振り返ったので、やっぱり着いていくことにした。
「お邪魔しまーす!」
私の声が静かに響く。家の中に人はいない。返ってこない挨拶に渡我ちゃんは眉尻を下げた。ひんやりとした暗い廊下を二人で進んでいく。
「結構広いね」
「あのお家と比べたら小さいです」
「確かに」
小さく笑えば、渡我ちゃんも僅かに口角を上げた。リビングの前に立つ。
「渡我ちゃん?」
「……」
一歩後ずさった彼女は、息を飲み込むと、意を決したように扉を開けた。
「おー…」
そこはもぬけの殻だった。テーブルも椅子もソファもインテリアもなく、フローリングの上に埃が舞っている。
一枚の封筒。部屋の中央に置いてあった。
ここに来るのは、渡我ちゃんを引き取るための交渉をした時以来だ。あれからもう三年以上は経ってるのか。カーテンを開けると、庭の雑草が生い茂っていた。渡我ちゃんは封筒を開いており、じっくりと中に目を通していた。
一年ほど前だっただろうか。高校に進学した渡我ちゃんを引き取った二ヶ月後、親御さんが他所の県へ引っ越した。 キリが良かったのだと思う。連絡は私に来たのだが、渡我ちゃんに言うかはマジで迷った。でも言った。残酷だろうが、私には渡我ちゃんに一切を伝える義務があると思ったからだ。
「…捨てるんだね、全部」
そう言って、渡我ちゃんは中身を渡してくれる。素早く確認していくもその内容に額を抑えたくなった。
一枚目は、絶縁の意を含んだ手紙だった。要約すると、「自分たちはもう疲れてしまったから、どうか貴女はあの家で幸せに生きてほしい。最後まで、寄り添ってあげられなくてごめんね」だ。二枚目は、渡我ちゃんの戸籍に関すること。渡我の性はそのままでいいが、親御さんの戸籍は渡我ちゃんに追えなくなっているらしい。三枚目は、自分たちが死んだ場合の相続について。渡我ちゃんは原則受け取り禁止。葬式にも来ないでほしいそうだ。
さらに物議を醸す情報を補足するならば、渡我ちゃんのお母さんのお腹には、新しい命が宿っている。つまり、親御さんたちは新しい命と共に人生をやり直すつもりらしい。
「…ハグあげます?」
「貰います」
渡我ちゃんを抱きしめる。数センチ私の方が背が高い。視界は彼女のベージュの髪に埋まっていた。肩口が濡れていくのを感じながら、取り敢えず撫でてみる。渡我ちゃんの抱きしめる力が一層強くなり、首筋に小さな痛みが走った。
…こ、コイツ、どさくさに紛れて血ぃ吸ってやがる!!!
「…あ、あの、渡我さん?」
「今日だけだから」
「ならいっか」
マジでヴァンパイアみたいだなおい。事案にならないか心配だ。私が猥褻罪で捕まったらどうしよう。冷えていく首筋の感触にちょっと気分が悪くなりながら、私は遠い目をした。
渡我ちゃんの境遇について、なんとも思わない訳じゃない。けど、こういう系統の話は職業柄よく聞くし、特別酷いかと言われるとそうでもない気がしてしまう。
「…情報は、多面的である」
小首をかしげる渡我ちゃんに、続けて言う。
「悪意とか、迷惑とか、反省だとか、そういうのだけじゃない可能性があるって話」
それに、ただ嫌いだった訳じゃないと思うんだよね、親御さん。色々やってきたにしろ、渡我ちゃんの事を好きになりたかったんじゃないかなとは思う。でもそれは私の意見であり、憶測に過ぎないから、渡我ちゃんには話せない。
『普通の女の子でいさせられるか、ヴィランにしてしまうかは、全てお前にかかっている』
ふと、相澤さんの言葉が脳裏をよぎった。
…私にできるのは、渡我ちゃんの生活を保障することくらいなのにな。新聞記者にカウンセラーは向かないって。やっぱ、保護者って難しい。
泣き止んだらしい渡我ちゃんに、水筒とティッシュを渡す。素直に鼻をかんだ彼女は、何も言わずに私の手を握った。握り返して部屋を見渡す。封筒を回収した以上、この部屋にはもう用はない。渡我ちゃんの部屋には引越しの荷物を受け取る時に行ったし、あの時のままなら伽藍堂のはずだ。この家に来るのは今日で最後だろう。
「……帰ろっか!」
いつもの調子で言ってみる。
「まず車に乗ったら、伊口くんに好きな曲流してもらお。景色がいいとこ遠回りしてもらってさ! んで、帰ったら分倍河原さんに美味しいカップケーキを焼いてもらうんだよ。奴の作るアレは逸品ですからなあ!」
「…そうだね」
クスリと渡我ちゃんが笑った。それを見て、肩の力が一気に抜けた。
車を呼び乗車すると、渡我ちゃんの腫れた目に伊口くんが驚いていた。夕飯の席で普通に本人が話しているので、分倍河原さんも含めて事情は知っている。
「お疲れ」
たった一言。伊口くんはアクセルを踏んだ。
「……帰ったら、まずはただいまを言おうぜ、渡我ちゃん」
寄りかかってくる渡我ちゃんに、私は口の端を持ち上げる。
「そうしたら、分倍河原さんが出てきて、『おかえり』って言ってくれるから」
今はそれが、救いになったらいいな。
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(side他)
分倍河原の「おかえり」を聞いた時、渡我はすでに緩んでいた涙腺が熱くなった気がした。
「今夜はトマトシチューとハンバーグだ! 冷奴もあるぜ!」
冷奴は嘘だろうが、お願いすればきっと出してくれる。実家と違って、この家の中は暖かい。渡我は小さく息を吐き、詰まる鼻にティッシュを当てがう。記者の女は相変わらずの様子で分倍河原にほろ酔◯を強請っていたが、決めあぐねる彼に代わって伊口が呆れ半分に止めていた。以前、ほろ酔◯を飲んだ記者が、「◯ーメーハーメー!」と庭へ躍り出たかと思えば、両手を構えて「波ああああああああ!!!!」と大量のウサ公を放出していたのが懐かしい。伊口が怒り、分倍河原が爆笑して、渡我も笑った。
当時を思い出して、少しだけ胸が軽くなる。
「渡我?」
椅子に手をかけた伊口に、渡我は「なんでもないです」と言って自分の席に座った。
見上げれば曇天。
就寝時間になり、屋敷が寝静まる中、渡我は居間の縁側でぼうっとしていた。
ーー親に捨てられた。
夕食では無かった実感が、夜になって訪れる。だからだろうか、今日は上手く眠れなかった。ぼうっとしていると縁側と居間を仕切っていた襖が開く。分倍河原だ。彼は盆を持っており、そこには麦茶とゼリーが乗っていた。
「…仁君」
表情を落としている渡我に、彼はぎこちなく笑って隣に腰掛ける。煙草は持ってきていないらしい。
「俺もここにきた時、スピナーにこうしてもらったんだ。話ならいくらでも聞くぜ!」
「そうですか」
渡されたままに麦茶を受け取る。洗い立てのガラスコップはほんのり暖かい。揺らぐ水面を見つめて、渡我はポツリと呟くように口を開いた。
「…正直、ほっとしたんです」
何も思わないわけじゃない。けれど、この家で過ごし個性を受け入れてもらえた今、渡我にとってあの家はすでに過去のものになりつつあった。
数年前、家を出ると決めたあの日、渡我ははっきりと「ここにはいたくない」と言った。両親に受け入れてほしかった。押し込めてほしくなかった。記者と話す両親の言葉には、確かに渡我を心配する心があり、だから最後の最後まで迷ったのだ。
「パパとママが私を捨てたんじゃないの。私が、あの二人を捨てたんです」
だって、彼らは普通の人。渡我を受け入れられないくらいに、正しい人たちだったから。
コップを握る力が増す。水面に波紋が生まれ、自分の泣き顔が写った。
「……俺、中学の時にはもう親っつうもんはなかったんだけどよ。あったよ」
隣を見ると、頬を掻く分倍河原がいた。
「お揃いだ。おんなじなんだよ。だからまあ、大丈夫だ。心配すんな」
分倍河原が渡我の頭に手を乗せた。そのまま乱暴に髪を掻き回され、ポロポロと涙が散る。普段ならせっかく可愛くした髪型が崩れるから嫌なのだが、今は、その温度に触れていたかった。
腫れた目を冷やすために台所へ行くと、シンクでタオルを濡している伊口がいた。彼は渡我たちを見るなり気まずそうに目を逸らし、タオルを差し出す。
「使えよ。放っておいたら痛むぞ」
「お前もかよ。同士だな!」
「うっせ」
照れたように頬を赤らめつつ、伊口は渡我を見やる。渡我と分倍河原が来る前からいる彼に、渡我はふと聞きたくなった。
「秀一君のパパとママはどんな人だったんですか?」
「知らねえよ。俺親いねえし」
なんてことのないような彼に、渡我と分倍河原は目を合わせ、ドッと笑う。
「おんなじだね」
そう言って、渡我は目元を拭った。ひんやり冷えたタオルは、とても心地よかった。
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(side女記者)
私以外の三人が仲を深めた。
渡我ちゃんと実家に行った日の夜、三人が談笑していたのはみていたのだが、入るタイミングを逃したせいでスタンバッたまま何もせずに終わってしまった。両親いない組とか重いよ! 過去重いって!
ふと、死柄木と荼毘はどうだったかと思う。と言っても、彼らの過去も家族構成も知らない私には想像するくらいしかできない。
死柄木のお父さんはすぐキレそうだよね。死柄木、すーぐ「殺す」とか「壊す」とか言ってきたし。パールのようなものを振り下ろしてきそう。ヤンキーみたいだな。荼毘のお母さんは絶対黒髪の美人さんだ。一度加工アプリで奴の写真から火傷跡を消してみたのだが、どこのアイドルかと思った。あの顔だったらナンパも取材もし放題じゃないか、羨ましい。
あまりにも私が上の空だったからか、目の前にいた人物が小さく笑みを作った。
「聞いてます?」
上げた前髪、若さを誤魔化すための顎髭、つなぎのようなヒーロースーツ。極めつけの赤い羽。
「聞いてますよ、ホークスさん」
ウィングヒーロー・ホークス。若年にして事件解決数から支持率までトップを争う、今年のビルボードチャートでは上位を期待されている人物だ。人呼んで、「速すぎる男」。今現在、私を自身の事務所に呼んでお茶を振る舞ってくる彼が一体私に何の用かと言うと、最近巷を騒がしている「ヒーロー狩り」について個人的に聞きたい事があるらしい。
「それで、貴方にはこれを見て欲しいんです」
雑談もそこそこにホークスさんが取り出したのは、二枚の写真だった。一枚目の写真には、青い炎を放つ火傷まみれの男が。二枚目の写真には、数年前の写真だろうか。その男が私の家に入っていくところがバッチリ写っている。旧式の監視カメラ映像から切り抜いたらしく、所々ノイズが走っているが、普通に荼毘。こーれは隠せないわ。隠す義理もないけど。
「というわけで、お宅の息子さん」
「こんなデカい息子いた覚えありませんよ」
「…お客さんが、色々やらかしてるみたいなんですよ。彼の活動は九州にまで及んでいましてね。でも警戒心が高いからか、姿はこれしか確認できませんでした。本名、年齢、個性、性格、他にも色々。知ってる事を洗いざらい教えて欲しいんすわ」
お茶を啜る。美味い。
ホークスさんは飄々とした笑みをしてはいるものの、その目は取材対象を目にする私と同様に鋭く、しつこさを孕んでいた。こう言う時は、取材交渉のチャンスである。私はわざと仰々しく溜息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「別に教えても良いんですけど、やっぱり、私も知りたいですよねえ色々」
「あはは。あと一言多かったら隠蔽罪で豚箱に入れるとこでしたよ〜」
「何言ってるんですか〜。プライベートでしょー」
あはは、うふふ、と微笑み合う。この会話はヒーローホークスさんとでは無く、一般人ホークスさんとしていることになっている。回りくどく体面を取り繕うのは、彼にヴィラン狩りの情報を提供した人物、又は彼の調べ方が公にはできないものだからだろう。
本名不詳。新人にしてはスムーズなヒーロー入りに、卓越した個性の扱い。速すぎる男の名に相応しい身のこなし、巧妙に作られたようなヒーローとしての顔。私の予想では、公安あたりが動いていると思うのだが、こういうのは深く踏み込み過ぎてはダメなのだ。
両の人差し指と親指で額縁を作り、その中にホークスさんの顔を納める。
「いつか、貴方の本名をスクープしてみたいですよ、私は」
言外に、「こちらに干渉し過ぎたら有る事無い事記事にして週刊誌巻き込んで売るぞコラ」と脅してみる。流石に民間人にこう言われるとは思っていなかったようで、ホークスさんは目を丸めた後、「へえ」と細めた。沈黙が場を支配する前に、私は口を開く。
「ま、取り敢えずヴィラン狩りの名前は荼毘ですよ。歳は私の一個下。性格は飄々としていて掴み所も愛想もありません。個性は蒼炎だったかな。皮膚の耐久度的に結構制約があるみたいです」
ツラツラと荼毘について語っていく。私が知っている限りの話なので、捜査にはあまり使えないと思う。何故ならば奴は死柄木同様、マジで自分の話をしない。ホークスさんは調子よく相槌を打ちながら、頬杖をついた。
「…普通にしててもそれだけ知ることができるくせに、ちゃんと調べようとは思わないんすね。記者でしょ? 取材意欲とか湧かないんですか?」
「『来る者拒まず去る者追わず』なんでね」
「ブレませんね」
「ところでヒーローホークスの取材はいつ頃行えそうです?」
「ちょっとこれから忙しくする予定なんで無理っすねー」
「忙しく『なる』ではなくて忙しく『する』んですか! はーこれだからヒーローは!」
「いやあ申し訳ない」
悪びれる素振りもなく笑うホークスさんに、私は苦虫を噛み潰す。
「じゃ、他にありません? そういうの」
「オールマイトさんが雄英教師に着任されたとか、どうです?」
「それは出禁食らってるんですよ」
「…何やったんですかアンタ」
そう言って、ホークスさんは訝しげな表情を浮かべた。
取材交渉の一環でそうなっただけですが何か??
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