神野の悪夢編 06




黒い霧が晴れた先は、廃れたプレハブ小屋の中だった。

取り敢えず、起きてる奴等で気絶している連中を起こすことにした。

トガたちは普通に手で肩を揺すったり、頬を軽く叩いたりして、優しく起こしていた。

死柄木も、黒霧の肩を足で揺すって起こすという雑なやり方だが、協力していた。

しかし、協調性が皆無の荼毘に至っては、誰も起こさず、早々にポケットからスマホを取り出していた。

見ているのは音からして、オール・フォー・ワンとオールマイトたちの戦闘の生中継だ。

他の者たちも、荼毘に倣(ナラ)い、勝手知ったるなんとやらというように、椅子や机や床に偉そうに腰を下ろし、スマホを取り出し、生中継を見始める。



『君が怖いのは、この生き物だろう?』



オール・フォー・ワンの話の流れ的に、摩耶の怖いものを召喚したらしいが、画面には何も映っていない。

だが、生中継を撮ってる撮影者たちや、画面に映っている人々の恐怖に慄(オノノ)いた声や、顔を真っ青にして後退る摩耶の様子。

そして、後退しながらも必死の形相で、自身の声や音をメガホンのように増幅させる増幅呪文を使ってまで警告を発する彼女の声が、スマホ越しによく響き渡る。



『全員、口を閉じて!何が起こっても、口を開けるな!口から魂を吸い取られ、死よりも惨い姿になりたくないのなら!!』


「「「「?」」」」



何かが起きているが、何が起こっているのか分からない。

この生中継を見てる人々も、敵連合と同じで訳が分からないだろう。

ただし、画面越しでは、摩耶と深い所縁(ユカリ)のあるヒーローの卵2人とヴィラン1人の計3名の人物を除いて。


だが、それも数分間だけの話。

本来なら、いや、“本物”なら、マグルに姿は見えない。

だが、個性により100体以上に増えた複数の個体の“偽物”たちなら…話は別だ。



『腐敗した灰色の肌で、黒いローブを常に被った死神のような姿。』

『最も暗く、最も穢れた場所に蔓延り、凋落と絶望の中に栄え、周囲の幸福や希望を餌として吸い取り、深い憂鬱と恐怖、過去の悲しい記憶をもたらす。』

『挙句の果てに、死の接吻(セップン)を施して、魂を吸い出して空っぽの殻の廃人にしてしまう。 世界で最も忌まわしい闇の生物……―――――吸魂鬼(ディメンター)。』



「…気色悪ィなァ。」



荼毘の呟きに、敵連合の仲間たちが全員、同意を示す。

しかし、そんな感想を呑気に言えるのも、画面越しという安全地帯に居るから出来ることだ。

敵連合が、画面から流れる事件の顛末を見届けようと、スマホを凝視(ギョウシ)する中、2人だけがピリピリと苛立っていた。

戦いの舞台から強制退場させられた事に死柄木と荼毘から不満の気配がありありと感じるが、その不満の大半は、心配によるものであると言った方が、正しいのかもしれない。死柄木はオール・フォー・ワンのことを、荼毘は摩耶のことを、案じている。



「(────見ててイライラする。)」



ガリガリと、スマホを持っていない方の手で、痒みを訴える首を掻く。



「(────あァ、ムカつくなァ。)」



ブローカーの義爛から支給されたスマホを持つ手に思わず力が籠もり、ミシッと音を立てる。

体温も1度上がるような、そんな錯覚。そんな中、スマホの画面越しに、泣きそうな顔をしたお前と目が合った気がした……―――――。。。



「黒霧、俺をここに飛ばせ」



荼毘がスマホ画面を指差す。

そこは彼らが先ほどまでいた場所だ。



「しかし…」



戸惑う黒霧に、荼毘は「早くしろ燃やすぞ」と脅しをかける。



「正気か!?」「イカレてるぜ!」

「本気か荼毘!?1人でも捕まると全員が危なくなるんだぞ!!」

「うるせェな、お前等から燃やしてやろうか。」

「燃やすな!あのなぁ〜〜〜〜〜〜〜、」



トゥワイスとMr.コンプレスが慌てて距離を取りながら、ブツブツと続くお小言を荼毘に言う。



「おい、リーダー」



死柄木が苛立たしげに首を掻きむしった。

すべてはボスたる死柄木の決定で決まる。



「頼むよ」



荼毘の頼みに対する、死柄木の答えは……―――、



「5分だけだ。」

「それでいい。」

「行くぞ、黒霧」

「死柄木弔!」

「早くしろ、殺すぞ」

「畜生!俺、入る組織、間違ったかなぁ!?」



普段の余裕をかましたMr.コンプレスのその声がらしくもなく、慌てたように焦ってるのを横目に、黒霧が繋げたゲートをさっさと潜って行く荼毘。

その後に死柄木も続き、最終的には、なんやかんやで全員がゲートを潜ってしまうことになり、黒霧は終始、困惑していたが、ゲートを閉じていく。










―――― ★ ――――











吸魂鬼が摩耶の頬をつかみ、ゆっくりと、まるで愛(イト)しむように顔を上げさせて、フードを被った顔を摩耶の方に下げて、まさにキスをしようとしていた。



そのさまは、簡単に手折られ、摘まれる脆い花のようで……―――――、



「(違う、違うだろ。お前は、お前だけはッ―――――、“ニセモノ”じゃないんだから!!)」



そうこうしてる間に、ディメンターが、摩耶にキスをしようと、距離を更に詰めかける。

その瞬間、荼毘は、頭の中で、大切な何かが焼き切れるような、強い衝撃を受けた。



「(気安く触ンな。汚ぇその手で障ンな。お前のじゃねえよ。俺のそいつに、俺の、俺のーーーー)」



そして、それは、ほぼ反射的にだった。

気付いたら、荼毘は摩耶とディメンターの間に割って入るように、個性を奮って、吠えていた。



「ザマァねぇなッ!尋木 摩耶!!」



摩耶の目の前が熱い蒼に埋め尽くされた。

ゴウ、と遅れて聞こえる風の音が辺りを包む。



「!!」



その時、この世のものとも思えない美しい調べがあたりを満たした……。

摩耶はそれが何の調べか分かっていた。これまでの生涯で2回しか聞いたことはなかったし、ダンブルドアが亡くなってからは3度目があるとは思えなかったが……不死鳥の歌だ……。

摩耶にとって、それは希望の調べだった……これまでの生涯に聞いた中で、最も美しく、最も嬉しい響きだった……その歌が、摩耶の周囲にだけではなく、体の中に響くように感じられた……。



摩耶に、ダンブルドアを……延(ヒ)いては、魔法界を思い出させる調べだった―――――。。

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解せぬ花