魔法界から個性社会へ 02




「えぇ、劣っておりますよ。非魔法族の技術は日々発達しております。特に携帯電話でしたでしょうか? 両面鏡がなくともあのように離れた場所から話ができるモノが私が生きている時代に開発されるとは思いませんでした。しかも持ち運びできますしね。携帯電話が誕生した頃は両面鏡の存在が非魔法族に漏れたのかと、重要情報の漏出が問題視され、中々の騒動になりました」
「は? 両面……何?」
「両面鏡です。対となる鏡を持っていればお互いに話せる魔法道具です。便利ですよ。私もよく使います」
「うわぁ〜。もう私、思考放棄するわ〜」
無理と言い切った家入は乾いた笑いをするしかなかった。鏡で話せるなんて意味がわからない。呪術界はイカれていないとやっていけないが、魔法界はまた違った意味でイカれている。こちらの物差しで測ってはいけないのだ。だってそもそも物差し自体が異なるのだから。



「まず私ども魔法使いの歴史から掻い摘んでお話をいたしましょう。私たちは古来昔より存在しており、その昔は非魔法族――あなた方で言う非術師ですね。彼等と協調しながら日々生活をしておりました」

今でこそ魔法使いと言う呼び方が定着したが、呼称は特に重要ではない。祈祷師、陰陽師、巫女、シャーマン、神官。様々な呼称が為されてきた。要は普通の人間とは違う能力を持つ輩を全般的に指していたのだ。その中には当然呪術師も含まれており、昔は一緒くたにされていたと現在の研究では考えられている。
人は神を崇めて崇高してきたが、神は必ずしも救ってはくれない。祈りも当然届かないことがある。ではそのような時、だれに助けを求めて救ってもらえばいいのか。答えは簡単である――人ならざるモノの力を持つ者たちに数多の人間は救いを求めた。
彼等はそんな者たちに快く応じ、力を貸した。ある者には薬を、ある者には呪いを、そしてある者には祝福を。そのように2つの人間は生きてきて、そして歴史を紡いできた。
だが非魔法族の人口割合が多くなり、技術を身に着けた時、彼等は嫉妬し、羨望した――何故そのような特異な力をお前たちだけが持っているのだと。神は何故我々に与えなかったのかと。
それからはもう歴史は皆が知る通りになった。迫害や差別が起こり、そして魔女狩りに発展した。自分が持ち合わせない力を持つ者に人間は力を振るい、そして排除しようとした。
確かに魔法使いは特異な力を持ってはいるが、人口の割合は少ない。多勢に無勢、このままでは我々は排除され続けるだけだと魔法使いは考え、そして1689年に国際魔法使い機密保持法が制定され、1692年に正式に施行された。

「奇しくもこの年、アメリカでセーレム魔女裁判が起こりました。20数余名の女性が犠牲になり、うち本当の魔女であったのは数人のみです。残る方々はヒステリック騒動に巻き込まれたただの不運と言えるでしょう。以来魔法使いは完全に表舞台から姿を消し、非魔法族と袂を分かちました」

仮に魔法の存在が表に出ても記憶を消し、痕跡をかき消した。そのように徹底して、二度とあの歴史を繰り返さぬために自分たちの身は自分たちで守ろうと決心した。そんな先人たちの努力の末、表舞台から完全に魔法使いの存在は消えた。おとぎ話だと幼子にははしゃがれ、憧憬を抱かれる存在になった――本当に実在しているとは知らず。

「あなた方が非魔法族の歴史にどれほど精通しているかは存じませんが、時々妙な出来事があるとは思いませんでしたか? 例えば鎌倉時代、蒙古襲来の折なぜか神風と呼ばれる強風が吹き荒れたこと。何故江戸幕府開幕の際、天海は特異的な形を江戸に形成したのか。それは四神相応と呼ばれる古代中国から渡来した魔法術の一つに準じたからです。まぁ、それを確立したのはかの安倍晴明ではありますが」
「……まるであの安倍晴明も魔法使いだったと言う言い方ですね」
「えぇ、事実我々の歴史では彼はそのように位置づけられています。むしろあのような大それたことをしておいて陰陽師など……結局人間とは体の良い肩書きを求め、当てはめたいと思うのですよ。あなた方も私が魔法使いだと知らず、斯様なことを成したら気味が悪いとお思いになるでしょう? ですが魔法使いだと知ったらどうです? 少しは不気味さも消えるのでは?」



「ではご教授いただければ解決いたしましょう。呪いの解呪もあると聞きますが、日本魔法省には陰陽術に特化した部署もございます。彼等は古来の呪術に精通しておりますから解呪も行えるかと。もちろん事故処理はお任せいただければと思います。専門の修繕部署がございますから崩壊した建造物等はすぐに修繕できますし、万が一非魔法族に現場を目撃されても忘却術士の手で記憶を消せばいいだけですので」
「……狂ってる」

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解せぬ花