神野の悪夢編 09
「弔を宜しく頼むよ。」
「言われなくても、そのつもりよ。」
拘束され、摩耶の横を通り過ぎる時、オール・フォー・ワンが摩耶に“頼み事”をする。
彼からの最後の皮肉なのだろうが、さして気にせず、間髪入れずに、摩耶は言い返す。
「負けたよ、オールマイト。実に醜い足掻きだった。しかし、君は間違えたよ。戦いの果て、弟子に寄りそう道を望んだ。君は離れ時を見誤った。死に時を失った。」
オール・フォー・ワンは、摩耶の次に…いや、最後に、オールマイトへ声を掛ける。
「先生というのは弟子を一人立ちさせる為にいる。頼りにしてきた師が手の届かぬ場所へ去り、彼は憎悪を募らせる。彼は真に先頭を歩んd」
バーン!!
数人が悲鳴をあげた。
オールマイトを含め、何人かのヒーローは、敵襲かと振り返った。
がしかし、振り返り、身構えるより早く、2つ目のバーン!!だ。
そして吼(ホ)え声が響き渡った。
「だぁーらっしゃい!!」(訳:黙らっしゃい!!)
オールマイトが急いで振り返ると、摩耶が鬼の形相で、杖を上げ、まっすぐに純白のクズリに突きつけている。
※クズリ:【悪魔のクマ】の異名を持ち、「とにかく性悪な動物」と表現されるほど獲物を執拗に追い詰める狡猾さを持つ肉食獣。
移動牢(メイデン)の扉の前の地面で、ちょうどオール・フォー・ワンが入れられようと、立っていたあたりに、片方の前足の欠けた白いクズリが震えていた。
現場に、恐怖の沈黙が流れた。摩耶以外は身動き1つしない。
「オール・フォー・ワンは!?」
「このクズリは一体?」
「触らないで!」
摩耶が叫んだ。
白いクズリを、近付いて捕獲(?)しようとしたヒーローは、面を食らって、その場で凍り付いた。
摩耶はドスドスと足音を立てながら、白いクズリに向かって、歩き出した。
クズリはギャーギャーと怯えた声を出して、摩耶に尻尾を向けて、前足の片方がない3本足ながらも、サッと逃げ出した。
「そうは問屋が卸さないわよ!!」
摩耶がまた吼え、杖を再び純白のクズリに向けた。
クズリは空中に2、3メートル飛び上がり、バシッと地面に落ち、反動でまた跳ね上がった。
「2度と―――そんな―――ことは―――言うな―――!」
摩耶は低く唸り、白いクズリは何度も地面にぶつかっては跳ね上がり、苦痛にキーキー鳴きながら、だんだん高く跳ねた。
「鼻持ちならない―――臆病で―――下劣な行為ばっかりで……―――、」
純白のクズリは脚や尻尾をばたつかせながら、なす術(スベ)もなく跳ね上がり続けた。
「お前が―――師を―――語るな!」
摩耶は白いクズリが地面にぶつかって跳ね上がるたびに、一語一語を打ち込んだ。
「もしや―――、尋木少女!」
「何かしら、オールマイト。今は懲罰(チョウバツ)の最中なのだけれど?」
摩耶はクズリをますます高く跳ね飛ばしながら、冷静を装い、比較的、落ち着いた声で返事をした。
「もしかして、その白いクズリは…―――、オール・フォー・ワンなのかい?」
「That's right!」
「Oh my goodness!!」
オールマイトが驚きや焦りでそう叫ぶと、ボロボロの体で、摩耶に駆け寄り、羽交い締めにする。
オールマイトに続き、他のヒーローや警察官たちが加わり、摩耶を落ち着かせ、説得を開始する。
そうして、暫くしてから、バシッと大きな音を立てて、オール・フォー・ワンが再び姿を現した。
いまや顔は燃えるように紅潮(コウチョウ)し、息を乱しながら、オールマイトにやられた時とは別の意味で、地面に這いつくばっている。
オール・フォー・ワンの卑しい笑い声は、当然、響くことはなかった。
- 136 -
*前次#
ページ:
解せぬ花