タネも仕掛けもございません 魔法使いは科学使い見習いになった
「しゃぼん玉?」
クロムに引っ張られて、村の入り口である橋まで連れてこられた。そこには、探していたコハクと、コハクと対峙する様に槍を構えている金狼、銀郎、そしてしゃぼん玉を作って笑ってる知らない男の子がいた。
いや、どんな状況。
「おお、レイラとクロムじゃないか。ハ!探しに行く手間が省けたな。この二人が昨日話した者だ」
戦闘モードの金狼・銀狼をスルーして、コハクが私たちの事を見知らぬ男の子に紹介する。一方、クロムはクロムで、自分の事を天才妖術使いとか何とか啖呵切っている。…皆、お互いの話を聞こうよ。
「妖術だぁ?ほーん、じゃあ俺は千空。科学使いだ」
科学…。このしゃぼん玉といい、もしかしてこの人も石から復活した人…?
「あ、あのっ」
「妖術なら負けねぇ!!」
私の声は、クロムの勝負の申し込みの声にかき消されてしまった。…色々ややこしそうなので、一旦勝負がついて落ち着くまで待つかなさそうだ。決闘の為に場所を移動したと思えば、私の時と同じく、炎色反応を披露し始めた。…クロム、もしかしなくてもそれが最大の持ちネタなんだね?案の定千空?という人に一蹴されていた。算術勝負で千空が圧勝したところで決着が着いたようだ。よし、これで落ち着いて話ができるぞ!と思った矢先に
「まだ勝負はついてねぇ!」
「いや、ついてたぞ」
「負け惜しみは見苦しいぞ」
「もう勝負ついたんじゃないかなぁ」
「てめーもこりねぇなぁ。ったくしゃーねぇ。気が済むまで勝負してやんよ」
クロムの叫びと、冷静な突っ込みを入れるコハク、金狼、銀狼、千空。
「俺じゃねぇ!レイラ!妖術使いとしてのお前の力、見せてやれ!」
「えぇ!?」
待って、ここで私!?そんなピカチュウ君に決めた!みたいに言われても。傍観者につとめていたのに皆の視線が一気に集まって慌ててしまう。
「ククク、てめーさっきしゃぼん玉に反応してただろ。昨日コハクから聞いたぜ、てめーも妖術使い名乗ってるってなぁ」
いや、名乗ってない。名乗ってはないぞ?…あれ、名乗ってるのか?
「千空、レイラは君と同じ石からの復活者なのだ」
「そうらしいなぁ。てことは、てめーが使ってるのは妖術じゃねぇ。俺と同じ科学使いだ。そうだろ?」
「う、うん…?」
そうかな。いや、違うよ。話がややこしくなってきた。
「ちょっと待って。妖術とか科学とかは置いといて。コハクの言う通り、私は石から復活したの。あなたもなの…?」
先ほどまでの言動で、ほぼ確信していた。
でも、敢えて言葉で確認したい。問いかける声が震える。
ずっと不安だった。私ひとりだけ、変な夢を見ていたわけでも、異世界に行ったわけでもない。
私の人生は、ちゃんと現実だったことを、確認したい。
「あぁ。てめーと同じように3700年前に石化して、つい半年前に目覚めたばかりだ」
「3700年前⁉」
仲間を見つけた喜びも束の間、唐突に新たな情報がふってきて頭が混乱する。勝負もついたし、一旦お互いの情報を整理しよう、というこでクロムの倉庫で話し合う事となった。
***
「まず、てめーはいつ、どこで復活した?それが最重要事項だ。硝酸のありかが分かれば火薬作り放題、復活液作り放題、一気に勝機が見えてくる」
「ごめん。復活したのはあなたと同じで半年くらい前だけど、正確な場所は分からない。起きてからこの村にたどり着くまで2日ぐらいかかったかな…。でも、真っすぐ歩いてたわけじゃないから。それと、起きた時周りを散策したけど、近くに洞窟はなかったと思う…。コウモリも見かけてなかったはず…」
私の言葉に、千空が一瞬言葉を失ったのが分かり、申し訳なくなる。先ほど聞いた司という危険人物に勝つ為の有力な情報を得られると思っていたところで、落胆が激しいのだろう。
「しゃーねー。それだけの情報で、この人数で闇雲に探すのは非合理的だ。硝酸は諦めて他で勝負するっきゃねーか」
切り替えが早い人だなと思った。目的に真っすぐなだけかもしれないけれど、少しも惜しいという感情がない姿に、罪悪感が軽くなる。もしかして、私の罪悪感を減らすため、というのもあるのかもしれない。
「つーか、レイラ。どうやってこの村の一員になった?門番の2人が部外者禁止だって言ってただろ」
「そこは、ほら。日頃の行い?」
「ああ?んな非科学的なこと言ってんじゃねぇよ」
分かってたけど駄目だった。
やっぱり千空には適当な誤魔化しが効かなそうだった。さて、どうしたものか。正直世界が滅びたのであれば魔法を隠す必要もないのでは?と思っていたけど、先ほどの千空の話では、石化した人を復活させる方法はあるらしい。これからまた全人類を起こすのであれば、やっぱり無駄な争いを避けるためにも魔法使いは隠れていた方がいいだろう。
それに、科学絶対マンの千空に魔法がバレたら色々めんどくさそうだ。コハクの例もあるし、杖なしの今、オブリビエイトが使える保証もない。…あと、何となくだけど、千空にはオブリビエイト効かなそうだなと私の直感がいっている。
嘘をつくには、本当の事を少し交えるといいと、昔どこかで聞いたことがある。それを思い出しながら言葉を選んで話始めた。
「実際に住んでるのはこの倉庫だしね。村の住人にはなってないよ。妖術、もとい、あー…、なんだろ、手品?みたいなことしたり、村の仕事手伝ってたら、そのうち皆慣れてきてくれたよ」
「ほーーーーーん」
あ、納得してなさそう。まだ疑ってるな、これは。さっきから思ってたけど、この人表情でものを語り過ぎじゃないか?たすけてー。と視線を逸らしたところで、先ほどまで勝負に負けた事に落ち込んでいたクロムが会話に入ってきた。
「どういうことだよ。レイラはそんなに昔の人間だったのか」
「昔の人って…。いや、そうなるみたいだね」
なんたってホグワーツの歴史以上の時代を超えてしまったみたいだ。
「あ?話してなかったのかよ」
「石化から復活したってことは伝えてたよ。でも、私自身この世界が、時間が経っただけなのか、異世界なのか、そもそも日本なのかも分からなかったから…」
むしろなんで3700年ってわかったのだろうか。
「は!異世界なんてファンタジーじゃねぇよ。いや、石化してる時点で充分ファンタジーか?残念ながらここは間違いなく日本だ。コハクたちが日本語話してるのも証拠のひとつだろ。3700年は石化してる間数えてた。それ以外方法ねーだろ」
数えるってどういうこと。頭に疑問符が一気に浮かぶ。え、3700年ずっと数えてたの?改めて千空の規格外の頭脳に感心する。
「しっかし、コハクから妖術使いって聞いてたから俺みたいな科学マンを想像してたんだがな」
「ごめんね。私のはただの手品だよ。コハクやクロムが言ってた妖術っていうのも、花を出すとか、火を起こすとか、それぐらいのものだから」
期待させてごめんね。と言いながら、コハクには「お願いだから何も言わず黙ってて…!」と目で訴えた。察しの良いコハクはバレないようにこっそり頷いてくれた。くぅ、好き。一方、同じようにクロムに目線を送ったら「あ?なにいってん・・わああまてコハク何すんだよ急に!」とコハクにヘッドロックをかけられていた。ごめん、クロム…。
しかし、そうか。今の時代で魔法の事を知ってるのは私だけだ。マグル避けの魔法がまだ効いているのかは分からないけれど、ホグワーツとかホグズミードとか、魔法使いしか入れない場所で石化している人がいたとしたら、復活させられるのは私しかいない事になるんだ。じゃあ、私も千空と一緒に、何が何でも人類復活計画を成功させなくては。
燕が石化した時に他の鳥類は石化しなかった事を考えると、ケンタウロスや小鬼は生きていて、案外魔法の系譜は途切れていないかもしれない。そうなると、私の第一の目的は、イギリスに行くことだ。杖職人を復活させれば、魔法がちゃんと使えるようになるし!うん、今までの村で日々を過ごすだけの生活から、一縷の希望がみえてきた。
「私も、その科学王国に入れて…!皆を助けたい!」
「ククク…、前向きな入国希望者は大歓迎だ。てめぇ高校生だろ?科学の基礎が分かる奴はありがてぇ」
「うっ」
私が科学の科の字もしらないことを、千空はまだ知らない。
***
その晩、クロムのなぜなに科学質問室(命名・私)が夜通し開催された。いや、単にクロムが千空を質問攻めにしただけなんだけど。なぜ地球が回っているのか、宇宙とは何かぐらいなら知ってたけど、途中から目新しい話が多くなり、「流石…!」「知らなかった…」「すごい!」「そうなんだ〜!」とクロムと同じタイミングで驚く私、ただの合コンの女子だった。最終的に千空に「てめー俺と同い年だろうが。中学で何習ってたんだ」と呆れられてしまった。
「うぐ」
言い訳したい、したいけどできない。魔法の成績は決して悪い方じゃなかったのに、7ふくろう取ったのに…悔しい。でも、ただの頭が弱い人だと思われているのもあれなので、一応事実を交えてフォローさせてもらう。
「…中学は行ってないよ。小学校の途中でイギリスに移り住んだから。たまたま休暇で日本に来てた時に石化したんだ」
「見た目が日本人っぽくねーと思ってたが、ハーフか。じゃあてめーの家族はイギリスにいるのか?」
「正確にはクォーターかな。うん。私だけ先におばあちゃんの家に着いて、お母さんとお父さんは仕事を終わらせて後から日本に来る予定だったんだけど…」
会う前に石化しちゃった。
そう、だから私がお父さんとお母さんに会うには、やっぱりイギリスまで行かなくちゃいけない。その言葉を聞いて千空が少し寂しげに目を伏せた。彼のご両親は、近くにいるのだろうか。復活液さえ手に入れれば、彼は家族も友人も近くにいるのが、少しうらやましかった。
***
とりあえず村の人に認められる為に、ルリの病気を治すサルファ剤?抗生物質?を作ることになった。千空が作ったロードマップを見ると電気とか炭酸とか、名前は分かるけどどうやって作るんだ…?ってものが多くて、本当にできるのだろうか、と不安に思った。
最初の材料は砂鉄集め。正直、魔法を使いたい。身軽に動けるのがコハクだけで、私と男の子2人は休み休みの作業だった。…非力すぎる。何なら途中から参戦してくれたスイカが一番一生懸命やっていた。…ごめんね、後でお花を出してあげよう。
もうそろそろ日が暮れるから撤収しよう、という時、適当に誤魔化してひとりでその場に残った。よし、本気出すぞ。
「アクシオ、砂鉄!」
呪文を唱えたと同時に、辺りの砂鉄が集まってきて、そのまま持っていた磁石に吸い込まれる様にくっついた。おお、気持ちいい。
翌朝、追加で集めた砂鉄を千空に渡した。
「昨日あの後ちょっと集めてみたよ」
「こんなにたくさん!?ヤベー!レイラヤベー!すげぇ集めたな!」
「ククク、レイラてめぇ昼間手抜いてたな。やるじゃねーか!こんだけありゃ当分困らねぇ」
「あぁ〜まぁ昼間ちょっとサボっちゃったからね。ほら、前の夜ずっと千空に科学の話聞いてたから眠くって」
スイカみたいに頑張った訳じゃなく、魔法でチートしているだけなので、こうも素直にほめられると罪悪感がすごい。
この後、集めた砂鉄で製鉄作業が始まったが、これは無理だった。皆がいる前じゃ魔法使えないし、やっぱりこのメンバーでパワーがあるのはコハクぐらい。真っ先にスイカがダウンしてしまった。
「スイカ、やっぱりお役に立てないんだよ…」
「そんなことないよ。砂鉄集めはスイカが一番多く集めてくれたじゃない」
「でも、一生懸命風を送っても、スイカの手じゃ皆ほどの力にならないんだよ…」
しょんぼりとするスイカに、胸がきゅぅと締め付けられた。気のせいか頭の上の葉っぱもしおれている気がする。こんなに素直で良い子ががんばってくれているというのに!
すっかり擦れて赤くなってしまった手をとる。
「ね、こんな手になるまで働いてくれたたスイカに、皆感謝してるよ。スイカのお仕事でもないのに、他の人の為にってがんばれるのはスイカの一番素敵なところだから、もっと自信を持って」
「レイラが優しいんだよ…」
「ね、がんばってくれたご褒美におまじないをみせてあげる」
「おまじない?」
「うん、手を広げて」
素直に広げられた手を取り、「エピスキー」と囁いた。すると赤く擦り剝けていた手のひらが綺麗に治っていく。
「!?痛いのが治ったんだよ!?これも妖術っ、じゃなくて科学なの!?」
「えっと、」
スイカを元気づけたくて思わず魔法を使ってしまったが、これ以上妖術を使った事が知られると千空に怪しまれてしまう。
「手品、だよ」
「手品?」
「そう。科学とはまたちょっと違った、人類の技かな。千空は知らない技だから、私がこれをやったこと言わないでね」
「わかったんだよ!」
「約束ね」
興奮したスイカはぶんぶんと頭を振って頷く。これで大丈夫。かな?
***
今の科学王国では製鉄は厳しい、まず先に人を集めよう!という結論になり、元気になったスイカが「今度こそお役に立つんだよー!」と名探偵スイカになって集めてきた情報により、なにやらご飯を作ることになった。それはいい。それはいいんだけど、材料として千空に集めるよう言われたのが、なんと、猫じゃらし。え、これ食べるの…?百味ビーンズで変な味には多少慣れているとはいえ、美味しくなる気がしない。恐々とご飯づくりに協力していたら、途中から何を作るのか読めてきた。
何とか完成したそれは、ラーメンだった。猫じゃらしからラーメン!と発想にびっくりしつつ、見た目と匂いは現代のそれに近い。このストーンワールドで初めて食べるまともな料理…!と期待して口に運んだが、口に入れた瞬間、衝撃が走った。
「う……。ごめん、千空。これは正直…」
作った張本人の千空も同じ感想だった様で、どんぶりを持ったまま項垂れていた。
「あぁ。食えたもんじゃねぇな。イギリス人のレイラが言うってことは相当だな」
「イギリス料理全部がまずいわけじゃないからね!?」
千空なのに非科学的なこと言わないで!
「全くの非科学的な話じゃねぇよ。産業革命で食に重きをおかなかったからってのが通説だ。他にもインドや中国っつー美食国家から奴隷商売で料理を吸収したからオリジナル料理が育たなかったとか、ライバル関係にあったフランスが料理に力を入れていたから反発して質素なものを目指したとか、色々な理由が重なったんだよ」
「へぇ〜」
そうなんだ。知らなかった。本もなければスマホも無い世界なのに、3700年前より色々物知りになってきた気がする。全部千空のおかげなんだけど。
私と千空にとっては何とも言えないラーメンだったけれど、コハク達にとってはご馳走だったみたいで、すぐに量産して村の入り口まで配りにいった。今まで千空の事を警戒していた村の人達も匂いにつられてすぐに集まってきた。ご飯を一緒に食べるというのは、昔から友好の証と言われる様に、村の人から色々質問を受ける千空はすっかり村に馴染んでいるようにみえる。これは、作戦大成功では?
村の人と千空の様子を見て嬉しくなっていた私は、確かに気が緩んでいたのだと思う。
「飲み物も欲しくなっちゃうね〜コーラとか」
「私はバタービールが飲みたいなぁ」
きんきんに冷えたやつ。と、聞こえてきた言葉に自然に返してから気づいた。
今の誰?
「レイラ、離れろ!敵だ!」
コハクの掛け声と同時に金狼と銀狼が臨戦態勢を取る。私も声がした方へ振り向いた。
そこにはツートンカラーの髪の、見知らぬ男が立っていた。
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やっとゲンが出てきた〜〜!(最後だけ)
スイカ夢みたいになってしまった。スイカをぎゅっとしたい。
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解せぬ花