タネも仕掛けもございません 魔法使いは手品師と出会う



突然の男の出現に私が驚いている間に、門番のふたりとコハクが臨戦態勢をとっていた。しかし、その男に攻撃する意思はなさそうで、なんなら千空の口ぶりからすると本を出すぐらい有名な人らしい。

「どっかで見た顔だと思ったらテメーあさぎりゲンか…!」
「千空、知り合いか!?」
「いや、1ミリも知らねぇ。ゴミみてえな心理本書いてたマジシャンだ」
「メンタリストって呼んでよ。そんで、ゴミみたいはひどいね〜」
「誰…?」

残念ながらマグル界の、しかも日本の有名人は流石に私には分からない。しかし、マジシャンという単語には引っかかる。まさか本物の手品師とここで出会っちゃうとは。

村の人に魔法を隠すのは簡単だった。科学と魔法の区別がつかないから、何でも不思議なこととしてまとめて捉えてくれる。何より一番仲がいいコハクは細かいことを気にしなかった。21世紀の科学を知っているマグル相手の方が誤魔化すのが大変だというのに、最初に最強科学マンの千空と出会ってしまい、苦し紛れの言い訳としてマジシャンを名乗ったあとすぐ、本物のマジシャンと会うなんて、私も相当運がないようだ。

「レイラは千空と同じ復活者なのに知らないのか?」
「うーん、私イギリス育ちだから」
「イギリス?」
「えっと、国って概念がないか。ここからすごーく離れた遠くの村出身だったの」
「あれ〜君も復活者なんだ」

千空たちを放置してコハクと話していたところに割り込まれ、どきりとする。千空の話では、こちらが復活液を入手したかどうかは戦局を決める大きなカギになるはず。なのに、復活者である私がいると、千空が復活液=硝酸を完成させたことになっちゃう…?
誤魔化さないと、と逡巡している間に千空があさぎりゲンに言い放った。

「働かざる者食うべからずってな。ラーメン食ったやつには仕事があんだよ」

その言葉に、場所を変え再び製鉄チャレンジが始まった。ただ、残念ながらこのゲンって人、千空と同じか、もっと細い。あんまり戦力にはならなそう。
そこも含めて千空の作戦だったようで、製鉄で疲れたところで白状させようという試みは、上手くいったというか、本人が進んで司の仲間であることを暴露してきた。

自分が良ければいいとか、楽な方で生きたいとか、この人、3700年前なら絶対スリザリンに入るタイプだ。いや、スリザリンの人はこうやって自分の事しか考えてません〜とは言わないで、むしろ僕は皆の事を考えて正しいことを言っていますって顔して、最終的に自分と身内の利益しか考えてないんだよな。と、思わず脳内で他寮の悪口を言ってしまった。
脱線していた思考の中でふと別の考えが浮かんだ。この人も、司帝国の人も、大切な家族はいないのだろうか。大人は復活させないということは、イコール両親は復活させないということである。少なくともスリザリンの人は、身内を何より大事にしている人が多かった。


「この作業ドイヒーすぎじゃない?」
製鉄作業でこき使われたゲンは文句を言いながら木陰で休んでいた。何だかんだちゃんと手伝ってくれたところをみると、思ったより義理堅いのかもしれない。
とはいえ、司の仲間と確定しているわけだし、なかなか扱いが難しそうだ。と考えていたところで、スイカがお水を渡しに近づいていくのが見えた。敵かもしれないから気を付けて!と言いたいところだけど、こんな優しい子だから私とも仲良くしてくれるし、千空に協力してるんだよね…。
「わお、スイカちゃん?だっけ。ありがと〜。小さいのにドイヒー作業しててえらいねぇ」
「みんなのお役に立てるなら嬉しいんだよ!」
「そお?俺なんかもう手がこんなになっちゃた」
と赤くなったそれを広げるゲン。
「スイカも最初はそうなったけど、レイラが手品で直してくれたんだよ!」
ちょっと待って。
「へ〜〜〜レイラちゃんって手品できるんだ」
「そうなんだよ!レイラは手品師なんだよ!」
「へぇ」
一段低い声で返事をするゲンに背筋が凍った。
さっきまで張り付けたような笑顔だったのに、今は目が笑っていない。何かあったらスイカを守らないと、と近くで聞き耳を立てていたのが裏目に出た。びくり、と私の肩が震えたのを見てゲンが目を細める。
「いやーー手品師と会えるなんて光栄〜!しかも、さっきちらっと聞いちゃったけどイギリス出身なんだって?海外仕込みの本場って感じでかっこいいね〜」
薄っぺらい誉め言葉につぅと背中に汗が伝った。
「いや、あの、私は素人だから。プロと違ってお遊びというか」
「ふぅん、レイラちゃんの手品見てみたいな」
語尾にハートがつきそうなぐらいの声色なのに、何でこんなに怖いんだ。ごくりと喉を鳴らす。
「すごいんだよ!火をつけたり、ものを宙に浮かしたり!遠くのものを呼び寄せたり!巫女様の病気も治しちゃうんだよ!」
「スイカ!ストップー!!」
無邪気なスイカの興奮した声に、冷や汗がとまらない。もう、無理だ。これ以上ここにいたらボロがでる、と思い「お水、今のでなくなったよね?汲みに行こ!」とスイカを連れて逃げるようにその場を離れた。

作業に戻った時、意図的にゲンから離れた場所に位置どった。コハクは察してくれるのが上手いから「ゲンと何かあったのか?」と小声で心配してくれたので、何でもない旨伝えたけどいまいち納得していない様で、「何かあればすぐに言うんだぞ、私があの軽薄男を倒してやる」と言ってくれた。…頼りがいがありすぎる。

発電所を作ろうということになった途端に雷がきそうな天気になり、超特急で準備しているところで、マグマ達がやってきた。村で一番扱いに注意が必要な人物だ。どうしよう、と皆に緊張が走ったところで、「仕方ないなー」といいながら前に出るゲン。「花束くれない?スイカちゃん」という声に、混乱する。この人は何をしようとしているの?

「戦争より花でしょ」

なんて気障なこと言うんだこの人は。びっくりした。日本人ってもっとシャイだと思ってた。
なんて思ってい矢先に、それをみた。
これが、手品というものか。

手品師を名乗ったはいいけど、実はあまり見たことが無かった。更に正直言にいうと、マグルが魔法の真似事をしているだけだろうと高を括っていたところがあった。なんて恥ずかしい。
「…すごい」
表情とか、視線の誘導、はったりの言葉でああやって人を操れるんだ。千空の科学と同じで、マグルが考えた魔法以外の力に、また私は魅せられていた。

感動している暇はなくマグマが去った後は山の上に上って雷を待ち構える。その作業中、私の頭の中は先ほどの千空の言葉がずっと残っていた。
「やるじゃねぇか、インチキマジシャン」
インチキマジシャン。それは、私の方だ。花を隠す手さばき、言葉で、視線で相手の心理を誘導するスキル。ゲンは、あの技をきちんと身に着けたプロだ。私はただ手品師を名乗っただけの偽物だ。

うん、魔法は封印した方がいいな、しばらくは。と私は決意した。自分以外の復活者が増えてきた今、それが一番安全だ。
無事電気を手に入れた後、最近ルリのところへいけていなかったので、回復魔法をかけにいった。ルリはひと騒動あったことを聞きつけていたようで、ひどく心配していた。コハクの事も含めて大丈夫だよ、と伝えたけどこれがただの気休めにならないか心配だ。ゲンの立ち位置によっては司帝国との全面戦争も考えられる。
その帰り道、倉庫の前にゲンがひとりでたっていた。昼間の件があるから、出来れば2人っきりで顔を合わせたくはない。でも、この距離で無視して倉庫に戻るのも無理がある。と思ったところで向こうから話しかけられた。

「レイラちゃん」
「…なに」
「さっきスイカちゃんに聞いたんだよ。他にも色々できるって」
スイカああああ。脳内で頭を抱える。いや、この人はそういう話術のプロだから、素直なスイカからは簡単に情報を引き出せてしまうのだろう。スイカは何も悪くない。ただ、この状況はまずい。
「そんな大掛かりなマジック、舞台装置がないとできないよね。しかもそれ、千空ちゃんが村に来る前の話なんだってね。どうやってやったのかなあ?」
にこにこと笑顔なのに、圧を感じてしまうのは私が勝手に後ろめたく思っているからだろうか。背筋つぅっと冷や汗が走る。嫌な感じだ。探るような目線が居心地が悪すぎる。
ええい、話術で適うわけがない。どうせ魔法なんて分かるわけないんだから、堂々としてよう、と開き直った。
「ゲン、あなたも手品師ならわかるでしょ?手品の仕掛けは自分から言うもんじゃないよ」
「そうだね。からくりを聞くのはマジシャンとしてのプライドがすたるし?今度見せてよ。ちゃんと見て、ネタを当てて見せるからさ!」
いや、そんな約束♪みたいに言われても。この人、実は結構楽しんでるな?急にスパイだってばらすし、マグマを追い払うのに協力してくれたし、全然真意がみえてこない…。
とにかく、絶対にゲンの前で魔法を見せないと心に誓った。千空は使えるものは使う、というスタンスだからバレたらこき使われたり実験に付き合わされそうだし、何なら魔法を科学で分析し始めそうだけど、この人にバレたらどうなるのだろう。
「ねぇ、レイラちゃんのこともっと教えてよ」
え、と考え事から我に返った瞬間、ずいっと顔を覗き込まれていて思わずのけぞる。近い…!さっと距離をとって睨めば、にっこりと微笑まれた…。なんなの、もう。

もうこれ以上一緒にいても余計なことを言わされそうだと思い「少なくとも、科学王国の味方になってくれなきゃ手品を見せる機会なんてないからね」と釘をさした。そうだ、今人類の希望である千空の命はこの人の手中だ。お願いだから、千空を選んでほしい。
「あらら、そう来るか〜それは約束できないね〜」
「じゃあ手品もなしだよ」
ちぇーと拗ねてみせるゲンは本当に食えない男だ。答えが返ってくるかは分からないけど、先ほど思ったことを、一応伝えたくなった。
「ねぇ、本当に皆の石化解かなくていいの?私はイギリスにいるパパとママや、友達と会いたいし、あんな猫じゃらしラーメンじゃなくて、ちゃんとしたラーメンとか、他にも食べたいものたくさんあるよ。そういうの全部、千空が死んだらなくなっちゃうんだよ」
ゲンは私の言葉に表情を変えることはない。ただ黙って聞いてる。
「私にゲンを強制できる力はないけど、千空を選んで欲しいな」
嘘。本当は強制できてしまうかもしれない。それは、3700年前には使ってはいけなかった呪文。使ったら即アズカバンの強力なその魔法を、杖なしの今、どこまでの効力で使えるかは分からない。
でも、本当に最悪の場合は使わなきゃいけないのかもしれない。お願いだから、使わせないでほしい。ぎゅっと手を握りしめて、そうなる未来を想像する。嫌だ。魔法は、そんなことに使うためにあるものじゃない。だからやっぱり、この人には千空を選んでほしい。最後にゲンの顔を見て力なくほほ笑んだ。もう私からは言うことは無い。返事を待たずに倉庫へ上った。

そうやってゲンを残して去った事を、私はすぐに後悔することになった。
「なに…、これは」
私が倉庫に戻ってそれ程経たずに、外から大きな音がした。真っ先にコハクが倉庫を飛び出し、後を追う様に皆で駆けだしたら、槍が胸に刺さり、血を流して倒れているゲンがいた。
「どう見ても即死だ。誰がこんなむごい…」
「っ…」
怖い。さっき話したばかりのゲンから流れる大量の血に、背筋が凍る。
「まて!」
千空の冷静な声に皆が振り向く。
「血のり袋のガードだ!」
「…なんと!」
「クククやるじゃねぇか。骨の髄までマジシャンだよテメーはよ!」
4人がかりでゲンを倉庫に運ぶ。幸い命には別状はなさそうだった。でも、この怪我でゲンが司のところへ戻れないと、千空が生きているとバレてしまう。バレないまでも、何かあったと思われて増援が来たらおしまいだ。それだけは阻止しなければ。クロムと倉庫の漢方で必死に手当てをするも、出来ることは限られている。後は自然治癒に任せないといけない。呼吸に合わせて上下する胸元を見ながら、唾をのむ。素人目でも分かる。これは、1日2日で治る怪我じゃない。

一通り治療が終わった後、コハクとスイカ、そしてゲンがいると流石に倉庫が狭すぎるということで今日はクロムも村へ帰った。
千空が用を足しに倉庫から出た時に、私は行動に移した。ゲンの顔をそっと覗き込めば、寝てはいるが、呼吸は浅くその顔が苦痛に耐えるようなものだったのでいたたまれなくなる。仕込みがあったから一命を取り留めたものの、相当重症だ。

「さっき見せる予定はないって決めたばかり何だけどなぁ」
小さくぼやいて、覚悟を決める。この人にはやってもらわなきゃいけない事がある。もう一度顔を覗き込み、呼吸を確認する。寝てる、よね?
「エピスキー」
呪文を唱えた瞬間見える範囲の大きな傷口がしぼんでいくのが分かった。良かった。ちゃんと効いた。安心して胸をなでおろしたところで、千空が梯子をのぼってくる音がする。
「見張りごくろうさん」
「ううん。大分ましになったように見えるけど」
「んなすぐ治る傷じゃねーよ」
突っ込む千空の顔も大分深刻そうだ。そりゃそうだよね、自分の命運がかかっているんだもの。
「ごめん、先に寝てるね」
今日は色々あって疲れた。主にゲンのせいなんだけど。兎に角、呪文も効いたし一晩寝たらゲンも回復するだろう。千空ならゲンを説得する事ができるだろうか。眠気でふわふわする頭で今後のことを考えるも、耐えられなくなっていつの間にか眠りに落ちていた。


翌朝起きたら、ゲンの姿が消えていた。



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(走るリズムに合わせて、傷口がズキズキと痛む。こんなの現代じゃ絶対あり得なかった。やっぱりこの原始の世界、ドイヒーすぎるでしょ、と毒づく。それでも。昨日見たあの電気の光は、すごかった。希望の光だ、と柄にもなく思ってしまった。あんなの見せられたら、どっちにつくかなんてもう、わかりきってる。
それだけじゃない。怪我して寝込んでいた時、レイラちゃんが何か呟いた途端、急に体が軽くなって呼吸がマシになった。
「手品なんて、大ウソつきだね」
レイラちゃん、色々気になるじゃない。マジシャン&メンタリストとして絶対種明かしさせてみせる。
千空ちゃんの科学力、レイラちゃんの秘密、科学王国は魅力ばかりだ。だから、今は自分の身体に鞭打って、ひたすら走るしかないのだ)

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解せぬ花