タネも仕掛けもございません 魔法使いは手品師に怪しまれる
ゲンが消えたあの朝から時間は飛ぶ鳥を落とす勢いで過ぎ去っていった。
千空はあの日何も言わずに去ったゲンの事をちっとも心配していなかった。曰く「科学に興味ない奴じゃなきゃはなから手伝っちゃいねぇよ」と。
私も、多分彼は味方になってくれたんだと思う。そうじゃなきゃ、重症の中急いで戻る必要はない。ゆっくり養生しながら、次の偵察か、司帝国軍本体が来るのを待っていればいいのだから。
とはいえ、確証があるわけでもないし、回復魔法を使ったとはいえ怪我が完全に治ったわけでもない。傷が開いたら、道中なにかあったら、と心配事は尽きない。私は千空ほど楽観的には考えられなかった。
ただ、ゲンの事や司帝国の襲撃の心配をする余裕がなくなるぐらい、それからの科学王国は慌ただしかった。
ゲンを襲ったのがマグマだと判明したり、眼鏡やガラスの作成(スイカの素顔がかわいかった)、難関素材の硫酸ゲット(生死が関わるところだったので魔法を使いたかったのだけど、泡頭魔法は目に見えてしまうから使えないし、吸った途端に死ぬというのであれば回復魔法の出番はなかった)などなど、サルファ剤作成の準備は順調に進んでいた。
それなのに、どこか沈んだ気持ちの自分がいた。
やっぱり、マグル界で魔法を隠しながらサポートするのは無理があるのかもしれない。肝心なところで役に立てていないことで、少し凹んでいてた。もういっそ魔法使いってばらしてしまおうか、と何度考えたことか。
思考がネガティブに向かう度に、とにかく今の自分にできることを全力でやろう!と自身を奮い立たせて、科学クラフトの作業に全力を注いでいた。
千空にも「テメーよく働くじゃねぇか」と花丸をもらったので、ちょっと嬉しかった。単純作業は結構魔法でチートしているとこがあるので、そこは少しずるしているような罪悪感はあったけど、皆の力になれていることは素直に嬉しい。
そしてゲンが去ってから約1か月半後、そろそろ夜は冷え込み、木々の葉の色が変わり始めたころ、彼は戻ってきた。
それは科学王国メンバーがサルファ剤の最後の材料、アルコールをゲットするために御前試合に参加していた時のことだった。予想外の出来事が続きながらも何とかしがみつく科学王国メンバー、その最後の望みをかけた試合で、クロムがマグマ相手に粘っていた時。
「でもそんなんで火とかついちゃうの?ジーマーで」
最悪火がつかなかったら、もう私がつけてしまおう、そう覚悟を決めて唇を噛んだ瞬間、ふと聞こえた声に振り返れば、あの日ボロボロの姿で村を去ったゲンの姿があった。
「ゲン⁉どうしてここに⁉」
「いやまあ俺の近況報告より今はほら、クロムちゃんの事じゃない?」
そうだった。試合に視線を戻せばクロムはギリギリのところで耐えている、けれどもう長くは無理だろう。誰もが諦めかけただろうその後に、ゲンの時間稼ぎが上手くいき、クロムがマグマを倒して、科学王国メンバーが優勝することができた。それは嬉しい。
なのに、なぜ、その優勝者が千空なんだ。
嘘やん。
クロムが優勝してルリと結婚するという理想の終わりが見えていたのに…。
いや、千空が晴れて村の一員になれたから結果オーライなのか??
混乱したり反発したり、逆に祝いの宴だとか何とか皆が騒いでいる中、部外者だからとひとり村からは離れていくゲンの姿が目に留まった。その背中が小さく寂しげに見えてしまい、ついその背中を追いかけた。
「あれ、レイラちゃんはこっちでいいの?」
「んー私も一応部外者だしね」
「そういやそうだったね。というか、あまりにも自然に溶け込んでるから忘れちゃってたよ。トーナメントに出場する千空ちゃんはともかく何でレイラちゃんまで村に入れてるの?」
「えっと、私は村に来てから長いし、それなりに村の人と一緒に働いてきたから…?ていうか!」
苦し紛れの言い訳を半ば強引に終わらせて、話題を変える。
「怪我、大丈夫だったの?」
「ああ、なんとかね。ちゃんと次の日には無事司帝国についたよ」
「そっか…」
2日で東京まで行けたというのなら、エピスキーは効いていたのだろう。最近出番が無かった魔法が、誰かの役に立っていた事実を知って嬉しくなった。
「…良かった」
安心してそう呟く私の横顔を、ゲンが見つめていたことに気づかなかった。
「レイラちゃんは優しいね」
「へ?」
「ううん、こっちの話」
そう弾むような声で言うゲンに、私はどうしたんだ?と首をかしげた。
***
「あやかしやまやかしの類ではない!」
はい、あやかしまやかしの類は私です。
千空が石神村の長となった翌日、完成したサルファ剤をルリの元へ届けに行ったのだけれど、前の村長のコクヨウはいい顔をしなかった。
科学がなんたるかも分からないのだから、その反応は当然といえば当然。未知のものを人は怖がるのだ。魔法使いが過去迫害されてきた理由もこれだ。理屈に基づく科学ですらこの反応なのだから、理屈も無ければマグルには使うことができない魔法が理解されないのは、仕方ないのかもしれない。
そうは、思うんだけど。
千空をかばったコハクのセリフが耳にこべりついて離れない。魔法なんてあやかしまやかしの最たるものなんじゃないだろうか。やっぱり、魔法使いであることは隠していくしかないんだろう、と折角昨日のゲンのおかげで浮上していた気分がまた急降下していた。
悪意も何もない、一番仲の良いコハクが放った言葉だからこそ、余計に刺さるのかもしれない。
気を紛らわす為に、私はサルファ剤作成の作業にひたすら没頭していた。ルリの病気にサルファ剤は効くと分かったのだ。あとは毎日投薬していくだけだ。昨日、少しでも力になりたくて、クロムと一緒サルファ剤作りを手伝ったので、手順は覚えている。”化学”の方の科学の作業は、薬草学を思い起こしてなかなか楽しかった。
そうやって作業に没頭しているのに、ふとした時にコハクの言葉が頭をよぎってしまう。自分で思っている以上に、ダメージは大きかったのかもしれない。
「まやかし、か」
そう呟いた言葉は、誰もいない実験室に響いた。
と思ったのに
「あれれ〜レイラちゃん何か落ち込んでる?」
「…ゲン」
いつの間にか倉庫の入口に立っていたゲンが、にぱーとしたゆるい笑顔をこちらに向けていたので、なんだか肩の力が抜けてしまった。
「落ち込んでる、ってわけじゃないんだけど」
「けど?」
「私は何もできてないなって」
それを落ち込んでるって言うんじゃないか。自分でもおかしなことを言っているなと気づく。
「そお?」
今まさにお薬作ってるじゃない、と突っ込まれれば返す言葉がない。魔法の事を知らない人から見れば、そうなんだけど。
そっか。
私は、私の力が発揮できないことに落ち込んでいるんだ。ともすればこれはエゴなのかもしれない。私の、プライドの問題。
そう思うと、折角のお祝いムードの中ひとりで暗い顔していて、ゲンにまで心配してもらうほど態度に出ていた自分が急に恥ずかしくなる。
えぇ、私自分のことしか考えてないじゃん…。
行きついた結論が、あまりにも情けなさ過ぎて思わず項垂れる。
「千空ちゃんが言ってたよ、ルリちゃんが今まで生きながらえてこれたのはコハクちゃんとクロムちゃんと、それからレイラちゃんのおかげだって」
「え…?」
思わず顔を上げればゲンはぺらぺらと話を始める。
何でも、ルリは本当に危ない状態だったらしい。それを身体を常に暖かくしているとか、栄養のあるものを摂るとか、そういう基本的なことをちゃんとしていたからこそ今まで生きていたのだと。コハクの温泉運び、クロムの漢方、私の治療のおかげだと。
「ほら、レイラちゃんも役に立ってるでしょ」
「…うん」
自信たっぷりに目を細めて言うゲンに、思わず笑いがもれてしまう。そんなの、実際に私はここ半年ぐらいしか関わってないから、気休め程度の効果しかなかっただろう。ほとんどコハクとクロムの力だ。
でも、ゆるりと微笑みながらそう言ってくれるゲンに、ふわりと心が軽くなったのも本当だ。
「ゲン、ありがとう」
「それに、俺の怪我もね」
え。
笑顔のまま続けられた言葉に息が止まる。
「どういう、こと…?」
ばくばくと鳴る心臓が伝わらない様に自分を必死に抑えながら聞く。今、目を合わしちゃいけない。
「俺が出てく晩、看病してくれたでしょ」
ああ、そっちか。
思わず安心して息をつきそうになったのを慌てて押し止める。安堵したことを知られるのもマズイ。
「あれは、大したことしてないよ。治療もクロムの漢方使っただけだし、お礼はクロムに言ってあげてよ」
「まぁそういわずにさ、これ、ほんのお礼の気持ち」
と言って差し出されたそれは、見覚えのあるフォルムをした瓶だった。
「これは…?」
「コーラ。千空ちゃんに作ってもらったの」
マグルの飲み物だ。小さいころに飲んだことがあったような気がする。
「いや〜千空ちゃん、ホントすごすぎでしょ。この石時代でコーラよ?」
バイヤ〜、と楽しそうに話すゲンからコーラを受け取って口に運ぶ。甘くて美味しい。コーラの味は覚えていなかったけど、どこか懐かしい味がした。そもそも起きてから甘味類を食べるのは、これが初めてな気がする。口に広がる香りと甘さに、急に3700年前の景色を思い出し、目頭が熱くなった。
「そういえば、バタービールって何?」
「ぶはっ」
少しセンチメンタルな気分になっていたのに、ゲンの言葉に急に現実に連れ戻されて、思わずむせてしまった。貴重なコーラが!もったいない…。
「えっ!?何でバタービールの事!?」
「最初に会った時言ってたよね。俺がコーラ飲みたいなぁって言ったらバタービールの方がいいなって」
きょとりとした顔で聞き返されて、全身の力が抜けた。私が自分で言ってたのか…。
「名前の通りバター風味の甘い飲み物で、私の学校で大人気だったの。キンキンに冷やしてもいいし、冬は温めて飲めば体の芯から温まるの」
イギリスで、と言わないのは、そんなの聞いたことない、と言われたら困るから。あくまで学校の名物かの様にぼかす。
「ふぅん、飲んでみたいな」
興味深げに返すゲンに不審に思っている様子はない。
ごまかせた。よね?
***
唐突な襲撃に村はパニックに陥っていた。
ルリの治療が終わったと安堵したのも束の間、皆が落ち着く頃合いを見計らっていたゲンから、司帝国がこちらへ向かっている、という情報が入った。1度目の襲撃は何とか耐えたものの、2度目の襲撃はすぐだった。コハク、金狼、銀狼、マグマのバトルチームが何とか氷月という男を村の入り口で抑えたと思っていたら、それは誘導だったらしく、気づけば村からいくつもの火の手があがっていた。
私も咄嗟に近くにあった瓶を適当に手に取り消火に回る。今回ばかりは魔法は解禁だ。皆パニックで周りを見る余裕はない。瓶から水が出ているよう見える様に、うまく調整する。先ほどから瓶の体積以上の水が出ているけど、今そんなこと気にする人はいない。
まずは人命優先、それから食糧庫、とにかく、被害を抑えないと。必死で消火活動にまわっていた私は後ろから近づく気配に気づかなかった。
「邪魔」
後ろから聞こえた声に、反射的に振り向く。運動神経なんてちっとも良くないけど、奇跡的に避けられた。
心臓がばくばくしてる。後ろに立っていたのはピンク髪の女の子、手には松明。
この子が村に火を…?
その子は火を持ったままこちらに迫ってくる。刀類は持ってなさそうだけど、火だけでも十分武器になる。
危ない!そう思った瞬間無意識に呪文を唱えていた。
「プロテゴ!」
………やってしまった。
瞬間、見えないシールドにぶつかったかのように弾き飛ばされた女の子は軽やかに受け身を取りつつ、こちらを怪訝そうに見つめてた。
「…」
「…」
しばらくそのまま見つめ合う時間が続いた。しかし、不用意に近づくのは危険と判断したのか、その子はそのまま後退していった。
…ひとまず、終わったの?
3700年前にやったら退学ものの失態に力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
***
司帝国の人は去った。ただ、村の被害は甚大だった。もうすぐ冬が来るというのに。村の復興に加えて、春までに司帝国との全面戦争に備えて現代戦の要であるスマホを作らなくてはいけなくなった。これはまた忙しくなりそうだ。
…スマホ、実は良く知らない。電話は分かるけど、いまいち何が進化したのか分かってない。文章が送れるというのは知っているけれど。他にも写真撮れたりゲームまでできるらしい。…どうやって?
ここまでくると私の科学知識は村の人と同レベルになってきた。合点が言ってない顔をしていたのだろう。ゲンに「レイラちゃん感動薄くない?」と突っ込まれてしまったので、「千空のとんでも科学には慣れちゃったというか…」と返したら確かに、と笑われた。
千空が長になったことで、村一丸となってスマホを作りに取り掛かることができた。一気に増えたマンパワーはとても有り難かったけれど、それでもサルファ剤以上に複雑なスマホを作るには全然足りず、仕事はいくらでもあった。やってもやっても終わらない作業に、下手したら村人も辟易してしまいそうなところなのに、暖房を作ってくれる千空や良い感じに皆の士気を上げるゲンに、むしろ村はひとつにまとまっていっているような気配すらある。
それに、千空が電気を作ってくれていて本当に良かった。日の光が短くなるこの時期、作業が夜までできるのは助かる。
私は村の人と一緒に朝から晩まで作業をこなす日々を送っていた。
「千空、次私何やればいい?」
丁度今やっていた作業がひと段落したので千空の元へ新しい指示仰ぎにいった。渡された指示書に目を通す。これは…。
さっきゲンの叫び声が聞こえたマンガン電池もなかなか遠い道のりの作業だったけれど、これもまた同じぐらい大変そうだ。
「無理ならルリあたりに手伝ってもらえ」という千空に取り敢えずやってみるよ、と返事をする。とはいえこれは気合を入れないと、と身体を伸ばして大きく息を吸った。
よし、やるぞ!
****
(ゲン視点)
千空ちゃんから指示されたマンガン電池作成が、どう考えても1日で終わらないドイヒー作業だったので、これは一回一息つこう、と飲み物もらいにいくついでに千空ちゃんとクロムちゃんの作業場を覗きに行った。
「あれ、レイラちゃんは別のお仕事?」
「おお。やべぇ作業量だったぜ。ゲンのマンガン電池の比じゃねぇぜ、あれ」
千空ちゃん意外とドイヒーよね。女の子だからって容赦しないところが千空ちゃんらしいけど。仲間として頼っているということで、いい意味なんだけど。
当の本人は悪びれなく告げる。
「あいつひとりだと作業死ぬ程はえぇから大丈夫だろ」
「あ〜レイラ働き者なんだよな〜。ひとりの方が集中できるって言って夜勝手に進めてるけど、ありえねーぐらい早いぜ。ちゃんと寝てんのか、あいつ」
「鶴の恩返しかよ」
千空ちゃんの言葉に「つる?」と頭にはてなが浮かんでるクロムちゃん。流石の百物語にも鶴の恩返しは入っていないのだろう。
「ふぅん」
またレイラちゃんの不思議が増えたな。
***
「やっほーレイラちゃん」
「げ。ゲン」
「げって何。俺、お邪魔?」
千空に渡された鬼の様に地道な作業をしていたらゲンがやってきた。魔法で一気に片づけようとしていたのに。間一髪というタイミングの悪さに冷や汗をかいた。けらけらと笑いながら隣に腰掛けられてしまった。…これは居座るつもりだな。マグル式でやるのは勘弁してほしいなぁ。
「邪魔じゃないけど、作業に集中できないから帰って欲しいかな」
「ドイヒーすぎない!?俺レイラちゃんとお話したいんだよね」
「お話…?」
意図が掴めなくて困惑する。今はあまり居てほしくないことを伝える為に冗談まじりで厳し目の返事をしたのに、引き下がらないのはおかしい。人の機微に鋭いゲンのことだ。都合が悪いと分かったら、場を改めてくれそうなものなのに。
…何となく嫌な予感しかしない。
「いいけど、取り敢えず作業手伝って」
「レイラちゃんスパルタ!俺マンガン電池今日で何個作ったと思う!?」
「話しながら手動かせるでしょ」
少しでも向こうのペースを崩したくて、作業を押し付ける。魔法が使えない分効率が落ちるからせめて手伝ってほしいのも本音。ドイヒー!とわざとらしく涙を流しながらも材料に手を伸ばすゲンはやっぱりなんだかんだ言って良い人なんだよなぁと思う。
話、と改めて言われると少し身体に緊張が走る。何を言われるのだろう、と待ち構えていたら、ゲンは司帝国の話を始めた。あの日怪我をしながらも戻った後の事を。
「いやー俺が着いた瞬間、羽京ちゃんっていうバイヤーな弓使いに足元に矢撃たれてさ〜」
ぺらぺらと立て板に水の様なマシンガントークに耳を傾けながら作業を進める。
「トップ3って言われてるのがいてさ、そのうちの一人がこの前村を襲った氷月ちゃんなんだけど、その右腕にほむらちゃんっていう女の子がいて、これまたゴイスーでさぁ。まぁ村に火を着けたのはその子っぽいんだけど」
ああ、あのピンクの子だな。ていうかこんなに話してるのに、私と同じスピードで作業できるのがすごい。元々器用なんだろうな。あのマグマを追いはらった手品も、御前試合で咲かせた花も、魔法だと言われたら素直に信じてしまう程、すごかった。
「ほむらちゃんがレイラちゃんを前に逃げたって聞いたんだけど、何があったの?」
いつの間にかゲンの話をラジオの様に聞き流して作業に集中していた私は、最初の警戒を忘れていて、急に突っ込まれた爆弾発言に手が止まってしまった。
また!このパターン!
「逃げた…のかな。あれは。仕事が終わって帰っただけじゃないかな?」
「あと、レイラちゃんの消火活動すごかったって」
「…」
「消火栓もないし、消すの大変だよね。海から水を汲んでくるのも限度があるし」
「…」
…いや、もうやめて。私のライフはゼロです。
まんまと騙されて分かりやすい反応をしてしまう自分に心の中で頭を抱える。
いや、ゲンが優秀すぎるのだ。プロに心理戦で適うわけがない。
分かって聞いてる、この人。メンタリストでもマジシャンでもなくて名探偵なのでは?
でも残念ながらどんな名探偵が怪しんでも、魔法の証拠はでてこない。マジックと違って、種も仕掛けもない。だから多分、私から暴露しない限り、大丈夫。
でもじゃあ私ずっとこの尋問を受けるのだろうか。
…勘弁して欲しい。
「こんな細い手で、重たい瓶に水を汲んで何往復もできる?」
「…っ」
思わず遠い目をしていたら、突然手を捕まれ、顔を覗き込まれる。至近距離にあるそれに息をのむ。視線を逸らすことすら許されない程の距離に、私は逃げ場を失った。
ゲンの瞳に映った自分が、情けない顔しているのが分かる。
どうしよう。
こんなの、誤魔化せない。
「クロムちゃんがね、言ってたよ。夜に一人で仕事を終わらせちゃうって。鶴の恩返しみたいだね」
鶴の恩返し。
懐かしい、小さいころ日本の幼稚園か何かで聞いた気がする。どんなお話だったか、記憶は朧気だ。
「ね、布を織ってくれる女の人の正体は鶴だったけど、レイラちゃんの正体は何?」
吸い込まれそうな瞳に一瞬呼吸を忘れる。誤魔化す術もなく目を逸らした私は、もうやましいことがあると打ち明けたに等しい。ゲンは今、どんな表情で私を見ているのだろうか。
怖い。
そう思った瞬間、私の手首を掴んでいたゲンの手が離れた。
「ま、いいか。今その話をして完成が遅くなるのも悪いから、今日は勘弁してあげる」
へらり、と先ほどまでの真剣な表情から一転、気の抜けた笑顔して立ち去るゲンに、私はついていけず何も言えない。
「でもメンタリストの名に懸けて絶対いつか種明かしするからね!」
最後振り向き様に残した言葉に対して、私はしばらく経ってからようやく「やっぱり名探偵の間違いじゃ…?」と力なくつぶやいた。
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