メジロライダー

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―――――ならば懺悔でもしてみるか?

そう呟いたそれの足元には、ボロボロに朽ち果てたなにかが転がる。

否。横たわると言ったほうが適切であろう。だがそれからすれば転がる程度の認識でしかなく、
横たわる。と言った人に対しての表現を否定する。
なにせ、それにとってはその程度の価値でしかなく、それはこの先一生認識を改める事のない事実。
人とし扱わずそこいらに転がる小石と同等の価値でしかない。

転がるなにかが震える。
カチカチと口元から零れる音に混じるのは恐怖の吐息。全身を守るように蹲るも、それには意味を成すことはない。
なにせその左手には、肉を、骨を、声を、生命を、未来をも断ち切りたと歓喜する獲物が存在する。

それは思考する。
なぜこうなった?何を間違えた??
自分達は何も間違えは犯してない。
この世界の為をおもってした事が、なぜこうも己が生命の危機に晒されているのか?

それは思考する。
間違えじゃない。間違ってなんかいない。
自分達は正しかった。自分達は正しい事をしたまでだと。
そうだ、間違ってなんていない。
こうなってしまったのは頭上のそれらのせい。それらが勝手に動き、考え、自分達の意に反したのがそもそもの原因で・・・・・

ーーーーーそうか。

獲物が喜びの涙を流すまでに時間はかからなかった。

* * *





「1人旅は危ないんじゃないの?」

そう告げた彼の向かいに座るのは1人の女性。
長い袖越しに器用にスプーンを持ち、今し方テーブルに並ぶられたスープへと手をつける。もぐもぐと効果音が出てもおかしくない位に膨らむ頬だが、そうでもないと言わんばかりに首を振ればいつの間にか頬は元に戻っていた。

ここはダングレストより西に位置する集落。魔物討伐を終えたレイヴンと森でであった女性。
両者はその集落の飯処にいた。

巣の前で立ち尽くす二人だったが突如として現れた彼女は、周りを暫く見回してはレイヴンを置いて森の奥へと進んでこうとする。
が、そこでながい袖で草を掻き分ける音で彼の思考は現実へと引き戻される。
レイヴンは慌てて彼女を止めた。何せ森の奥へと行こうとするのだ。未だに魔物が巣くう森で女性一人にすることなんて出来ない。このままでは魔物に襲われてしまうと判断した彼は、彼女をなんとか口説きこの集落へと共にやってきたということだ。

「(しっかし、よく食べるな)」

その口説き内容が花や飾り物ではなく食事を奢るという内容。
彼の中ではとりあえず軽くパフェを摘みながらの会話を想像していたのだが、彼女の中ではそうではなかったらしい。袖越しに次々とメニューを指差しまるで底なし沼の様に食事を平らげるその姿に、彼は驚くしかない。

だが、それでも彼女をあの森の奥へと進むことを止めることは出来たのだ。
女性に怪我を負わせるわけにはいかない。それが初対面の女性であれ、でだ。

その初対面の女性は、言葉を発する事をしなかった。否、発せ無い。が正しいだろう。
始め彼女に好み等を問うレイヴンだったが、目の前の彼女は首を横、縦の二つしか振らない。
いきなり現れた自分に警戒してるのではないかと思っていたが、どうやらそういった問題ではなかったらしい。
声が出せない理由は様々、声帯になにか問題があるのか声を発することにトラウマでもあるのか?それは数え切れないもので、彼は無闇に聞こうとは思わない。
目の前の彼女もそれを分かっているのか、レイヴンとのやり取りは思いのほかスムーズである。きっと慣れているのだろう。

この店にきてからまずは自己紹介をするレイヴン。
だが、彼女は答えなかった。首を上下左右にふることはない。
ただ、互いの間に置かれたテーブルの上で『好きに呼んでくれ』とだけ文字を書く。もしかして名前分からないのかい?と脳裏によぎった記憶喪失と言う単語だったが、『その方が面白そうだし』という文字で違う分類へと放り込まれた。

うんん?と首を傾げるレイヴン表情が面白かったのか、彼女はクスリと笑みを零し続ける。
『声は奪われてしまった』とーーーー
カリカリとテーブルを削るかの様な音だが、レイヴンは気にしない。寧ろ「奪う」と言う単語に今度は眉を寄せる。が伝えた本人は彼を気にせず、簡単に伝える。

『奪われた後はその人の術式で遠くの地へと飛ばされていた』
『暫く旅をし、やっとここに戻って来れた』
『相手の顔は覚えている。私はその声を盗った相手を探している』
『その先でーーーーー』

レイヴンとであった。

場所はあの森。彼女は自身の声を奪った相手を探し旅をしている。と、綴る。
彼女の指の動きは止まらない。

『旅の先々で私の名を問う人は多い』
『異なる人だが同じ事を繰り返していくと、どうやっても飽きが生まれる』
『その為私はコレを小さな楽しみとしている』
袖越しの指が止まる。
ふと顔を上げれば食事を終えた彼女が、分かったかい?と言っているかのような表情がある。
つまりはそういうこと。声を取り戻す為に旅をしてきた中での楽しみに、彼女は自身の名を付けてもらっているのだ。

「いやにならないのかい?中には変な名前付けてくる人だっているだろ?」

彼女の頭は左右に一回揺れる。

『どんな名前であろうと、そこで私を指す名はなんでも嬉しい』
との事だ。
彼は腕を組み考える。であったばかりの女性に名前を付けるなんて初めての事。
しかもそれが善悪の区別付かない無邪気な子供ではなく、世界の仕組みや流れ、そして旅の先々で見てきたであろう人の黒い部分を知る知識有る成人した人間。
ペットのような名前なんてつけるわけにもいかない。だからといって変に長ったらしい名前を付けるわけにもいかない。こう言った場面ではあのお姫様なら適切な名前を付けてくれるに違いない。

「(うん?お姫さん??)」

浮かんだのは数年前に共に旅をした箱入りお姫様。
彼女は城の中で沢山の本を読み込んでいたらしく、御伽噺と言った想像力はとても豊かである。
カロルと言う少年が立ち上げたギルド、これに立派な名前を付けたのもかのお姫様の知識からつけられたもの。ではその彼女であるならば、今目の前にいる彼女になんて名前をつけているだろうか?
彼女の見た目で花からとるだろうか?それとも羽毛を身に付けている事もあり綺麗な鳥類や古代名からなにか引っ張ってくるのも有り得るがーーーー

ふと、店内に置かれているある物に目が止まる。
それはピアノと呼ばれていた音楽をかなでる魔導器。
白と黒の鍵盤を押せば、魔導器内に蓄積されていた微量のエアルが周囲のエアルと共鳴し、音が鳴るというカラクリだ。
が、今やこの世界にはエアルは存在しない。
音を奏でる魔導器はただのガラクタと化したのだが、あのピアノと言った形の良い魔導器はアンティークの一つとして置かれているの所もある。

「(ピアノ・・・ピアノ・・・・)」

ピアノの他にも沢山の音を奏でる魔導器があった。それらは形が整っているのもあり、解体されずに保管する人も多い。ああ、そうだ。確かその中でもエアルを使わずに音を出さない変わった魔動機があった筈だ。
形や作りは魔導器と同じであるにも関わらず、エアルを一切使わず中のカラクリによって息を吹き込みだけで奏でられる楽器の魔導器。確か名前は

「フルート」

銀色の長いフォルムは魔導器に興味ない者ですら、目を引き寄せる位にすらっとしている。
シンプルな見た目でありながら中はとても複雑で、エアル無しでも澄んだ音色を奏でる。が、あれは音楽楽器の魔導器だ。こんな名前を彼女に付けるわけにもいかない。
付けるとしたらシンプルで且つ艶やかな名前が彼女に似合っていそうで・・・・
が、視線を感じたレイヴンの空気がかわる。

いや、
いやいや!
いやいやいや!!

確かに彼女は変な名前でも問題ないとは言った。そしてその流れで彼は暫く考え、目に付いた音楽魔導器の連想ゲームの先である物の名を零した。

フルートとーーーー

ガチガチに固まった真っ青の顔をあげる。
そこには誰でもない彼女が座っているのだ。

零れ落ちるように呟いたセリフは、向かいに座る彼女の耳に届くには十分。
あ、っと思ったときには遅い。
違うこれは、と言うときには彼女の表情は笑みで満たされており。
変える気ない?と聞いたところで、彼女の指はテーブルの上へでうごいていた。

『始めましてレイヴン』

『私の名前はフルート』




『以後よろしく』


悪戯が成功したようなその笑みは、年齢に似合わずとても晴れ晴れとしたものだった。



20160704


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