「とれじゃーはんたー?」
なんだそれ?と首を傾げる長髪の青年。
その傍らにはウルフ型のモンスターと大差ない一匹の狼が座り込んでいる。
アイテムが詰まった皮袋を肩から下げ、青年の目の前にいるとあるギルドの一員がぽかんと口を開ける。
「トレジャーハンター。あんた知らないのかい?」
「なんだよ山篭もりでもしてたのか?」
「いんや、ちょっとばかし新聞を読んでない期間があっただけだ」
それで、それはどこのギルドなんだ?と問えば又もや呆けた顔をされ、長髪の青年ユーリは傍らにいる相棒へと可笑しなこと聞いちまったか?と声を掛ける始末だ。勿論その相棒の脳にはトレジャーハンターが一体なんなのか?と言う情報は既に記憶済みなので、ちゃんと聞いてなかったお前が悪い。と言いたげにそっぽを向いた。
「トレジャーハンターってのは魔導器以外のお宝を探してる組織だよ」
「組織?ギルドじゃねーのか?」
「ああ、そんでもって帝国の駒。って訳でもない」
トレジャーハンターは独自の組織。ギルドや帝国と言った機関が全く関わっていない新しい組織だ。
彼は続ける。
トレジャーハンターとは、魔導器以外のお宝。つまり過去の人間達が残していった遺跡や産物を発掘しているのだと言う。エアル使えない今の時代では魔導器はただのガラクタと化した。魔導器に価値の合った時代は終わりを向かえ、今や過去の人々の歴史へと目が向けられるようになったのだ。
この世界には開拓されてない地は腐るほどあり、その中に眠る遺跡は未だに手は付けられていない。ユーリ達一行が数年前に寄った遺跡もその一つであり、世界が変わる中で人々の考えも変わって行ったのが今だ。
魔導器の時代は終った。だが、なぜ魔導器と言うものがつくられ、過去の人間達はどうやってそれを作り上げたのか?
過去の産物へとなったそれに興味を示す人々が増え、魔導器の歴史そしてこの世界の過去を知りたいと言う考えに至る様になる。
そこで生まれたのがトレジャーハンター。
遺跡を調べ過去を知り、それを知らせるのが仕事との事。
と言うのは表向きで、探究心に擽られた若者が集まった組織だと彼は言う。
が、そんな事では収入らしきものは一切無い。みつけた遺産を売って生活しているのかと問えば「残念ながら、提供先には美術館がある」と答えた。
「美術館??」
「ほら少し前に帝国の貴族通りにできた建物だよ」
貴族達が興味ほいで見に来るんだと。といえば金の流れにユーリは納得する。
つまりだ、美術鑑賞。という貴族特有の見栄の張り合い&自身の博識自慢がトレジャーハンター達の収入源になるらしい。
魔導器はとても貴重でそれこそ大金を積まなければ手に入らない代物だ。が、動かない魔導器に価値はない。それは貴族達にも当てはまり、魅せるだけのアンティークは今は道端に転がる小石程度にまで下がる。そこで彼らが目に付けたのがトレジャーハンター達が発掘した宝となる。
割れ埃被り泥まみれの皿であろうと、それが過去の神殿で使われていた産物だと知れば相手に自慢できるアイテムとなる。割れた皿、先の欠けた箸、真っ二つに折れた額縁。なんであれ『過去の人々が使用していた』『×××の神殿でみつかった』と言う単語が付けばお宝認識される。
そのお宝を鑑賞すると言う事はそのお宝の知識があると言えよう。
「あの割れた皿はかつて神殿にいたと言われる神々が使用していたもの」
「あの折れた箸は、遠い昔異国から渡ってきた異人が置いていったもの」
「あの割れた額縁にはその地を治めていた王の肖像画が嵌められていた」
なんて様々。
そんなもの発掘した場所を詳しく調べないと分からないのだが、貴族達は我先にとその情報を欲する。
あそこの貴族よりも早く情報を売ってくれ。×××××払うから誰よりも発掘して欲しい。
金が積まれれば積まれるほどトレジャーハンター達の動きはよくなり、発掘し依頼主へと届けるたびに大金が貰える。仮に依頼してきた貴族が要らぬ、と言ってきた場合でも美術館に売れば美術館側から大金がもらえる。
なにせ新しいお宝が発掘されたと流せば、大勢の貴族達が押し寄せる。それはトレジャーハンターに渡した金額の倍の収入。
いや、そんな事はどうでもいい。
「んで、そのトレジャーハンターがどうしたっていうんだ?」
「彼らの護衛には普通キャラバンが付いてるんだが、今回別のトレジャーハンターのパーティへ行っちまって人手が足りないんだ」
「そこで凛々の明星、ユーリさんへ変わりに依頼したんだよ」
「うん?きゃらばん??」
それすらも知らないのかよ。と言う単語が目の前の二人から発せられた。
「キャラバンの説明は僕からします」
そんな三人の中へと入ってきた第三者の声。
ギルド二名とユーリの間に立つのは一人の青年だった。
歳はリタより少し下だろう。少年とは言いがたい大人びいた雰囲気だが、顔つきは青年とは言えない若々しさがる。迷彩柄のワークキャップを被りその上からは、二種類のゴーグルが鈍い輝きを放つ。
薄いモーブ色の髪は綺麗に整えられ、僅かに伸びる襟足は柔らかなウェーブを描く。動きやすい作業着は所々汚れており、腰元には沢山の器材を収納するポーチが吊るされている。
「始めましてギルド凛々の明星のユーリさん。ですよね?」
「そういうおたくは?」
「ボクはトレジャーハンター総司令長補佐のラヴァエルといいます。今回の護衛依頼の雇い主です」
雇い主?
振り返れば先ほどまで話していた男性の一人が首を振る。自身への依頼。つまりユーリの目の前に居る彼こそが、話の中心人物だと言うこと。
「ラヴァエルさん、いつからこちらに?」
「ここに来る前に別のギルドに、途中まで護衛を頼んだのです。」
まぁ、ここでしか送ってもらえなかったんですけどね。困ったように頭をかく姿に彼ら二人はまた無理をして!と少し怒った様子だ。
「途中まで護衛?」
一人蚊帳の外状態だったユーリが声を上げる。
「はい。ダングレストまで護衛をお願いしたいんです」
本当はダングレストまでの護衛依頼をしていたのですが、別の発掘チームにそのキャラバンは行ったのだと。
ラヴァエルと名乗った彼の説明ではこうだ。
トレジャーハンターは遺跡や神殿調査を行うものの、向かう途中や遺跡内部には魔物が生息する。彼らの作業の邪魔をしないように護衛そして町へと送り届けるのが先のキャラバンだと言う。
仕事内容はギルドの傭兵と差ほど変わりないが、トレジャハンターの荷物を送り届けると言う内容をメインにしており発掘品の扱いはとても丁寧だ。また人も同様だ。同行中の世話は彼らキャラバンが行う。栄養有る食事に医療に関わる知識がある為すぐに診てもらえる。そしてなによりキャラバン隊員全員が馬鹿力を持ち、瓦礫の撤去の手伝いをもしてもらっている。
が、そのキャラバンはギルドや帝国ましてやトレジャーハンターと言った組織より小さな集まりだ。各地に点在するトレジャーハンター一人ひとりに同行することは出来ず、組まれたハンターのチームにキャラバン員は班を組み同行する。
勿論同行するには発掘可能性が高い場所へと向かう場合。目ぼしい物がない場所ではキャラバンの同行許可は下りない。途中まで自身、つまりラヴァエルと共にいた発掘を終えたキャラバンだが、休憩場所として寄った町で別のトレジャーハンターのチームと遭遇した。
話を聞けばそこより先の森の中で未だ手の入ってない神殿をみつけたとのこと。
神殿の入り口は大樹の根元にあり、キャラバン員の力が必要との事だった。始めは軽い調査で傭兵をメインとするギルドに依頼したが、トレジャーハンターの発掘品と入るであろう大金によって来たギルドだと知り、契約をきったのだと言う。
ラヴァエルとて新しい遺跡が見つかるのはとても嬉しい、が今しがた発掘してきた品物を持ったままそのチームに参加する訳にはいかないのだ。キャラバンとはどういったものを運ぶか?どのルートを通って極力品物に衝撃を与えずいくか?と相談し、それにあった入れ物しか持って来ていない。
つまい発掘品が入る数が限られている。
故に彼は自身が持っても大丈夫な発掘品を持ち、ダングレストまで送ってもらうキャラバンをそのチームへと入ってもらった。
が、ダングレストまで行くキャラバンはその町にはいなかった。確かに何人かの班で構成したキャラバンはいたが、既に予約済みでこれからハンター達と合流するところだと言う。せめて、隣の町まで共に行ってくれるギルドに同行すれば目の前にはダングレストがみえる。ギルド拠点へと戻るその人たちに護衛がてら付いていけば先はなんとかなる。
「んで、そのダングレストが目と鼻の先だから、戻ろうとした俺に声をかけた。って訳か」
つまりそういうことだ。
トレジャーハンターは言わば発掘者だ。
そんな彼らが魔物相手に片手剣を振りながら片手岩を削る分けない。魔導器なきいまの世であればなお更。
発掘しかできない彼らには魔物相手できる実力者が必要になる。
断る理由はない。何せユーリ自身も今からそのダングレストに戻るところだ。
依頼されていた魔物討伐も終え、数ヶ月前に立てたばかりのわれ等がギルドアジトに帰るだけ。それに今日は皆が帰ってくる日でも有る。
土産話には丁度いい。
「構わないぜ。ダングレストまで、だろ」
「はい!宜しくお願いします!」
嬉しいのだろう。ひまわりのように笑った顔は幼く、頭首の少年にそっくりだった。
「それじゃ、ユーリこの人お願いします」
「発掘品に目がない人だから、いざとなったらそういった物遠くに投げたら犬のように追いかけるさ。うまく扱えよ」
「もう!!だれが犬ですか!!」
ワハハとラヴァエルの背中を叩いた二人のギルドメンバーは片手を上げて去っていく。
彼らの口ぶりからすると以前何かのトラブルに巻き込まれたのだろう。もしかしたら始めに怒っていたのも一人でよくやっているのかもしれない。
「それじゃあよろしくな。ああ、悪いけど俺は価値有る品とか良くわからねーから、荷物預けられても丁寧にはできないぞ?」
「大丈夫です。壊れないようにぴったり布で包んでますし、なによりこれはそう簡単には壊れないはずです」
そう言っては腰元から下げる一回り大きなポーチを叩く。
その表情は自信満々で、絶対的な安心があるのだろう。
「そんなに大事なもの腰から下げて大丈夫か?」
「はい、先ほども言いましたがそこまで弱いものでもないんです」
ちょっと見てみますか?
その言葉に流石のユーリも胸が躍る。みてもいいのか?と落ち着く声だがその瞳は少年のようにキラキラ輝いている。ハンターは構いませんよ!とポーチの鍵を何度か上下に回す。ダイヤル式のロックでつい最近市場に回り始めた手動の鍵だ。魔導器なしでつかえるちょっと機能性ある鍵。なんていままで思いもよらなかった。
「はい、これです」
そんな事を考えている間に鍵を外し終えた彼がそれを広げる。
どれどれ?と身を乗り出せば傍らで控えていた相棒も一緒に動き出す。
彼が取り出したのは一枚の黒い板。サイズは書籍サイズも有りながらその厚さは酷く薄い。
覗き込むユーリとラピードの顔が僅かに写る込む。一人と一匹は自分達の写るそれが変わった色の鏡としか認識できない。表面は黒の板が貼らさっており、裏面は銀色一色でよく分からない模様が彫られている。
「なんだこれ?」
これが発掘品なのか?と呟く。ユーリには黒と銀の板が張られている板にしか見えない。勿論それは誰がどう見ても同じな意見であり、これを見に貴族達が大金を積んで見に来る感覚がさっぱり理解できない。
ユーリの表情を見てラヴァエルは分かっていた。これは誰から見ても二種類の板が張られた板だと。
そう、それが動くまでは。
「ボク、これをみてある仮説が思い浮かんだんです」
彼は動かした。
ユーリが覗くその目の前で板の上部から飛び出る小さな突起物に触れた。
途端に黒い板は変貌する。ユーリとラピードが写る黒は消え、まるで海底から空を見上げるかのような景色が底に描かれる。
見たことの無い何か。そして板の中に広がる海底の景色は見事に切り取られてをり、ユーリは咄嗟にここか海の中ではないのかと顔をあげた。だが、木も人も建物もそして息をしている。つまりここはうみのなかではない。
視線の先でラヴァエルが無邪気な少年のようにわらった。
「これ新種の魔導器なんかじゃないかって思ってるんです!」
彼が持つ板の中は相変わらず海の底を映していえる。だが水上の波は動かず。まるでその板の世界だけが止まっているようにみえた。
了20160704
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メジロ