ささやかな愛を紡ぐ



ユーリのプラチナブロンド色の髪の毛は、サラサラしていてとてもキレイだ。

目にかかるくらいに伸びている前髪も、肩につくほどにある後ろ髪も、ユーリだったらなんでも似合う(ユーリ以外だったらちょっと想像がつかない)。

やんわりと髪を撫でてみても、とても柔らかいその髪を近くで見ても、たまに自分の黒髪が嫌になることもあるくらい。

後、彼の瞳の色。
エメラルドグリーンをした、とても綺麗で澄んだ瞳。

そのエメラルドグリーンと、プラチナブロンドと、真っ白な肌。
彼が『妖精』と呼ばれる理由そのものだと思った。







「ねぇ、ユーリ!お願いがあるんだけど……」

今日は、練習が切り上がったあと、これから始まる中国杯のショートプログラムをみんなで見ることになっていた。

その前に着替えを終えたユーリのもとにわたしはお邪魔していた。
真っ赤なパーカーを着てスマホを弄っているユーリ。
わたしの方を見ることもなく、「何だよ」と答えてくる。
俯くユーリからハラリと落ちている髪の毛は、やっぱりとても綺麗で。

………わたしはある作戦を実行に移し始めた。

「髪の毛結んでいい?ユーリの」

そう言うとユーリは特に嫌がるわけでもなく、「どーぞご勝手に」とわたしに軽く返事をしてくる。
男の人だったら髪の毛をベタベタ触られるのは嫌かもしれない。わたしも不特定の人に触られるのは嫌だから。
だけどユーリは別だ。
彼はいつも自分で髪の毛をくくるし、コーチやいろんな人にアレンジをしてもらっている。
もう彼にとって、髪の毛を誰かに結んでもらうということは、なんの抵抗もないことなのだ。

「じゃあこっち!こっちのベンチ座って!」
「あー、はいはい」

スマホをポケットにしまい、ユーリはわたしが指定したところにすんなりと座った。
……やけに今日は大人しいな。

「ねぇユーリ。何か考え事している?」

わたしは、ユーリの後ろに周り、髪を櫛でときはじめる。
彼が大人しいのは、極端に眠いか、極端に疲れているか、あるいは考え事をしているとき。
見たところ眠そうにはしていない。

「んー………豚のことちょっと考えてた」

豚?
一瞬誰だろうと思ったが、すぐに該当する人物が頭の中に過ぎった。
遠い故郷でわたしたちが出会った懐かしい黒髪を、思いだす。

「そっか…勝生さん、中国杯出るんだよね」
「あぁ。…まー別に豚が勝とうが負けようがどうでもいいけどな」
「そんなこと言って。気になってるんでしょ」

わたしが笑いながらそう言うと、図星なのかブスッと膨れるユーリ。
「黙ってさっさとやれよ」と言われるので、手をそのまま動かし始める。

「ユーリさ、フリーの時オデコ出してみたらどうかな?」
「デコ?」
「そうそう!この間のカナダ大会は編み込みしてたじゃん。後ろ髪、おろすんじゃなくて、あげてみるの」

わたしがそう言うと、ユーリが少し厭味ったらしく「あぁ、お前が来なかった大会か」と返してくるので、わたしは無視をして手の動きを進める。

あんまり上手くはできないけれど、なんとか編みこみをして、そして後ろ髪と前髪を一緒に束ねていく。

「………これ、女みてーじゃん」

出来上がった、オデコを全開にしたポニーテールに、ユーリが鏡を見ながらそう言う。

わたしは思ったより上手く行ったと満足気に頷き、ユーリと向き合う。

デコ出しで、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が両方見えたユーリは、本当に天使のようだ。

「うん!いい!似合ってる!」

わたしがキラキラとした顔をしてそう言うと、ユーリは少し顔を赤らめてそっぽを向いた。

「これも今しかできない髪型だね。さすがロシアの妖精だね」
「今しか………そっか」

今のわたしの言葉に何か思い当たったことがあったのだろうか、ユーリは少し考えるような仕草をする。

「でもこれ、何か頭がチクチクする」
「結構引っ張ってるからね。今日は一回解こっか」

「ポニーテール禿げっていうのがあるんだって」「マジかよ」といった会話をしながらゴムを取ると、パラリとプラチナブロンドが舞う。
相変わらず綺麗だなぁ。
わたしはそれを見ながら、次の作戦に移る。

「跡ついちゃったね。ハーフアップにしてあげる」

そう言ってもう一度ユーリの髪を弄る。
「それだったら自分でできる」「いいからいいから」と軽く受け流す。
相変わらず、髪をいじられる事に対して、ユーリは何も言わなかった。

いつもみたいに前髪が顔にかかっているユーリも、やっぱりカッコいい。

そう思いながら結んでいると、中国杯の始まりの時間が近づいたようだ。
LINEが鳴り、ミラから『待ってるねー』と連絡が来る。

「じゃあ行くか」

わたしが結び終わるのと同時にそう言って立ち上がり、荷物を整理し始めるユーリ。
わたしはその時間を使って、急いで自分の髪の毛を結んだ。

「おら行くぞ…………」

荷物を持ったユーリがわたしに振り返り声をかけたと同時に、わたしはピースサインをユーリに向けた。

――わたしの、小さな作戦完了。

「……」
「おそろい!えへへ」
「………」
「わたし、先行くねっ」
「は?!っおい、名前!」

ハーフアップにした自分の髪型をユーリに見せる。
でもやっぱり恥ずかしくて、驚いたように目を丸くするユーリから逃げるように部屋を出て行った。

自分のあまりに子どもじみた作戦に、苦笑してしまう。

……今回は恥ずかしくて逃げちゃったけど、もっと上手に驚かせてみたいなぁ。

驚いたときに瞠目する瞳から見えるエメラルドグリーンは、本当に綺麗だから。







――足早に部屋を出て行ったので、わたしは知らなかった。

「何だよお揃いって…………何でそんだけであんな嬉しそうな顔してんだよ……くそ」

ユーリがそう言いながら、顔を真っ赤にして蹲っていたことを。




(その後ミラたちに「可愛いことしてるねーバカップルさん」と、散々からかわれた。文句を言いながらもユーリは髪を解こうとは決してしなかったので、何だかとても嬉しくなった。)






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