一緒にいたいのよ



「ごめんごめん、すっかり忘れてた!」

あははは、と清々しいほどの笑顔でこう言うヴィクトル。
ユーリの眉間の皺がどんどん寄せられていくのが分かった。







リンクサイドでヴィクトルに、さっそく約束のことを話したユーリ。
それに帰ってきた答えは、実に、実にヴィクトルらしいもの。

「でも俺すぐ忘れっぽい性格って知ってたでしょ?」とあっけらかんと言うヴィクトル。

そう、世界に名を馳せているヴィクトル・ニキロフは、こういう人なのだ。

「あぁ……嫌ってほどにな……」
体をプルプルと震わせて何とか怒りを鎮めようとしているユーリに、わたしは思わず同情してしまう。

「でも約束は約束だ!新しい振り付けを考えてもらうぞヴィクトル!一緒にロシアに帰ろう!」

バッと手を振り上げ力強く言ったユーリに、隣にいた勝生さんの顔が少し曇ったのが分かった。

きっとヴィクトルと離れ離れになることを考えたのだろう。
一目見ただけで分かる。勝生さんは、きっとヴィクトルの大ファンだ。
そして、そんな自分にとっての神様のような存在が自分を認めてくれただけで、勝生さんは救われているのだろう。

でも、わたしもできればヴィクトルにはロシアに帰って欲しかった。

じゃないとユーリが帰らないとも思ったし、何よりきっと彼は今でも現役として全然通用するから。
今辞めたら勿体無いな、と純粋に思った。

だけどこれはわたしが口を出すことではない。
滑るのは彼らで、これからを決めるのも彼ら自身だから。

うーんと考え込むヴィクトルに、2つの顔が覗きこむ。
1つは自信に満ち溢れたエメラルドグリーン、そしてもう一つは不安そうに揺れる黒色。

「よし決めた。俺のショートプログラム用の曲で、明日から二人に振り付けをする」

ニヤリと笑って、まるで二人を試すかのようにヴィクトルはこう言った。

「はぁ?!こいつと同じ曲かよ?!」と、ついさっきまでヴィクトルを連れて帰れると確信していただろうユーリも、驚きの声をあげる。

「いや、この曲はアレンジ違いのものがいくつかあって、どれを使おうか悩んでいたところだ。もちろんそれぞれ別のプログラムを考えるよ」

ハテナを増やす二人と、もちろんわたしも置いてけぼりに、ヴィクトルの瞳はどんどんと輝いていく。

「1週間後に発表会をしよう。どちらがより観客をビックリさせることができるか勝負だ!」

ビシッと二人を指差すヴィクトル。
………少しの沈黙。突然の提案に、わたしの脳みそはやはり置いてけぼりのままだった。

「落ち着いてよ!負けたら罰とか僕嫌だよ」

案の定勝生さんは手を胸の前で振り、NOの体制を作る。
それはそうだよね。
いきなり発表会とか、もしもわたしが当人だとしたら絶対嫌だと思うから。

でも、もう一人の怖いもの知らずのジュニア上がりは違う。

「ヴィクトルが勝ったほうの言う事をなんでも聞く!それならやるぜ!」

ニヤリとした笑顔のままでヴィクトルに指を指すユーリ。
…どうしてそんなに自信満々な顔をしているんだろう。

もちろんそんなユーリに、ヴィクトルの気分もどんどん上がっていく。
目をキラキラとさせたまま「いいね!そういうの大好きだよ!」と声高々に言った。

そして待ってましたと言わんばかりに、そこにやってくる三人姉妹。

こうして、突拍子なロシア人によるアイデアで、温泉on ICEの開催が急遽決まったのだった。







その後、勝生さんの温泉兼自宅に案内してもらった。

「クソボロい家だな。俺の部屋どこ」

そこでポロリと言ったユーリに、わたしは思わずズッコケそうになる。

「ユーリ!只でさえわたしたち迷惑してるのにそれはない……」
「だって本当のことだろ」
「そうじゃなくて!」

勝生さんに謝ろうと必死で頭を下げる。
ホントにユーリは遠慮というか、そういうのが圧倒的に足りない。

家に泊まるの?!と驚く勝生さんに、ユーリは一人だけヴィクトルの側にいるのはズルいと言う。

「俺もここにいる、いいな?!」

………そんな言い方だったら、誰もいいえとは言えないよ。

勝生家に対する申し訳無さに、わたしは思わずため息を吐いてしまう。
そうすると「いいけど…君はどうするの?もう空いている部屋ないんだ」と、逆に勝生さんがわたしに聞いてきた。

わたしの心配もしてくれるなんて、何て優しいんだろう。勝手に押しかけてきたのはわたしたちの方なのに。

「わたしは大丈夫です。どこか近くでホテルとか、宿とか探してみます」
「え、本当に大丈夫なの?」
「はい。ええと……どうかユーリの面倒、みてやってくださ……痛ぁっ!」

そう言って勝生さんにもう一度頭を下げると、後ろから後頭部にチョップが落ちてきてわたしは思わず叫んでしまった。
こんなことをするのは、あのプラチナブロンド以外誰もいない。

「ユーリ!もうさっきから…」
「何バカ言ってんだよ。お前もこっち!こんな家に俺一人置いて行く気かよ!」

そう言って奥の部屋にわたしを連れて行くユーリ。「ちょっ、ユーリ!」と叫ぶわたしの声を、どうやら彼は聞いていないみたいだ。いや、聞こえているけど無視をしているのだろう。

「温泉最高だよ〜」と、後ろからヴィクトルの呑気な声が聞こえる。
「他人と一緒に風呂なんか入れるか!」と怒鳴り、わたしを部屋に連れ込んでピシャリと襖を閉めるユーリ。
だけどその後すぐに彼のお腹が盛大に鳴り、わたしたちはお風呂と夕ご飯を頂くことにしたのだった。



(ねぇヴィクトル……あの二人、仲良しなの?)
(勇利、君はあの二人がそれ以外にどう見えるんだい?)
(女の子のほう、常に腕引っ張られている……よね)
(………ユーリもまだまだ子どもだからなぁ)






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