屋上での件

「あっ。」
「どうしました?」
「んー?あぁ、いつものあれか。」

ふと屋上から見下ろすとそこは人気の少ない校舎裏。にもかかわらず二人の女子と男子が向かい合って立っていた。何を喋っているか分からないし男子の方が誰かも分からない。けれどこの光景はほぼ毎日見るものでそして女子も見慣れた姿であった。所謂告白現場。している側は知らないがされている側の女子生徒は紛れもなく苗字名前である。

「付き合うのかなぁ…。」
「いや、断ったっぽいぜ?」

落ち込みながら去って行く男子生徒の姿を見る限り山本の言う通り彼女は彼を振ったのだろう。

「何だあの女。」
「あの女って、獄寺くん苗字さんのこと知らないの?有名なのに。」
「興味ねえっす。」
「才色兼備、文武両道。性格も良くて欠点無しの完璧女子。振られた男の数は並盛の男の数。学校に限らず並盛一モテるって噂だぜ?」

山本の言うことは紛れも無い真実であった。そして入学当初から彼女に告白するものは後を絶えず、未だ受け入れられた者は居ない。噂では遠距離でとんでもなくイケメンの彼氏でも居るのでは、なんて言われている。

「ふーん……才色兼備だがなんだか知らねえが、あいつこっち見てねえか?」
「えっ!?」

獄寺くんの言う事に驚いて再び見下ろすと確かに彼女はこちらを向いて居た。しかも何故か手を振って。

「…手、振ってる?」
「振り返したら?」
「お、俺が!?」

並盛のマドンナである彼女とろくに会話もしたこともなければ皆んなにダメツナと呼ばれる俺に接点はない。両隣にいる女子にも人気な山本や獄寺君ならばいざ知らず。

「返してやれって。」
「え、うわ、ちょっと山本!?」

そんな俺の考えは山本達に通じず何故か俺の手が山本によって振られて居た。きっと彼女が振り返してほしいのは俺なんかじゃないはずなのに。

もう一度言うが彼女は才色兼備、文武両道。性格良しの完璧女子である。好きどうこうは置いておくとして山本も一目置いているのだ。多少の例外があるとは言え殆どの男子は彼女に恋をする。そして俺も例外になれない一人だった。ただ違うのは俺には彼女に告白する勇気もないということ。



「告白すりゃいいじゃねーか。」
「リ、リボーン!?どこから来たお前!!てか今なんて言った!?」
「告白すればいいだろ。お前あの女子のこと好きなんだろ?」
「そりゃ可愛いしいい子だし…って違う!!」
「何だツナそうだったのか?」
「ま、まあ見てくれは悪くなさそうだからボンゴレの妻としては良いんじゃねえっすか…。」
「二人も何言ってんの、告白なんてしないからね!?」

冗談じゃない。今まで何人の人間が振られていると思っているんだ。この学年に止まらず学校、いや並盛中の男子はイケメンだろうとことごとく振られている。万が一も何もある訳がないのだ。振られるぐらいなら遠くから眺めているだけで良い。彼女はあまりにも自分と住んでいる世界が違う。それでも彼女に告白すると言うのなら。

「いいから当たって砕けてこい。」
「うわぁっやめっ…!」

こちらを向く銃口は不本意ながら見慣れたもので、自称凄腕ヒットマンで家庭教師であるこの赤ん坊から逃げることはできないのだ。それでも今回ばかりは事情が違う。

「ッチ…。」
「あっ、ぶなかった…!」

未だ一度も認めて居ないボンゴレの血を引き継いだ証の超直感にこの時ばかりは感謝した。なけなしの自分の運動神経でも何とかギリギリ避けることが出来た。ある種嫌な成長である。

「ダメツナのくせに避けてんじゃねえぞ。」
「今回ばかりは駄目なんだって!」
「何が駄目なんだ、俺が納得する説明してみやがれ。」

普段避けることなんてしない(出来ないとも言える)俺が初めて避けた事が余程リボーンは腹が立つのか割と本気で怒って居た。証拠に未だ銃口は此方を向いているが弾が死ぬ気弾である気がしない。間違いなく今装填されているのは実弾だ。撃たれると間違いなく死ぬやつだ。

「俺、苗字さんのこと本当に好きだから!」
「……。」
「だから死ぬ気弾に頼りたくないんだ…もちろん撃たれたとしても俺の意思である事に変わりは無いけど、何かに頼って告白なんてしたく無い。誠心誠意、自分の意思と勇気で気持ち伝えて…それで振られたいから……。」
「ツナ…。」
「10代目…。」

俺らしくもない臭いセリフで場はよく分からない空気になってしまった。自分で思い返してもカッコつけすぎたと思う。しかも振られる前提だ。

「お見それいたしました!!」
「カッコいいぜツナ!そこまで本気だったなんてよ。」
「ちょっとは成長してんじゃねえか。」
「えっ?」
「じゃあ善は急げだな!」
「応援してます!」
「さっさと行ってこい。」
「話聞いてた!?」

告白する勇気なんてない。するなら自分の力でしたい。コイツらの耳に入ったのは自分の力で告白がしたいと言うところだけ。さっきしないと叫んだのは一切合切忘れられて居る。山本と獄寺君はキラキラとした目で心から応援してるのが見て取れる上にリボーンは行かなきゃ殺すと目で訴えてる。さっきより状況が悪化してる気がするのは気のせいだろうか?まだ死ぬ気弾の勢いで告白してた方が、なんていつもの弱気が頭を過る。

「どうせ告白するしかねえんだ。振られるのは変わらないんだから行ってこい。」
「そうだけどもう少し前向きに応援しろよ!」

けれどどうせコイツらから逃げる事なんて出来ないのだ。やらせると決めたらやるまで終わらない。このまま言い合いをしたところでまた振り出しに戻るのは目に見えて居る。逃げ場などこの家庭教師が来た時から俺にはないのだ。

「…分かったよ。告白、する。」