俺には弟がいる。顔も俺に似て悪くないし馬鹿でもない。まだまだ成長期の思春期真っ盛りで、反抗期突入中の弟だ。

「おかえり光。」
「……。」
「今日も遅くまでお疲れさん。頑張っとるなぁ。また試合あるんやろ?」
「放っとけや、関係ないやろ。」
「口悪いなぁ。」
「っさいなぁ…。」
「おかん帰んの遅なるって。生姜焼き作ったけど食べるか?先風呂入るか?」
「要らん。」
「動いたから腹減ってるやろ、ちゃんと飯は食えって。」
「要らん言うとるやろ。」

グゥ〜〜〜〜……

「ほら。」
「っホンマ、ウザいな!」
「おい、光!……出てってもうた。」

折角の顔を歪めて睨みながら扉は大きく音を立てて閉められた。こんなでも、嫌われてはいない筈なのだ。

「先輩……何でそれ俺らに言うんすか。」
「そりゃお前らが光の先輩だから。」
「先輩俺らと代被って内上にテニス部のOBでも無いやろ…。」
「四天の卒業生やねんから先輩やろ。」
「財前の兄ってだけで先輩面してくるぞこの人…そりゃそんなんやから嫌われんのやろ。」

夕方のファミレスで白石、忍足、一氏を呼び出して俺は事の真相(俺が光に嫌われているか否か)を確かめようとしていた。

「で、そこまで言われてよう嫌われてないって思えますね。」
「…謙也、部活の時の光ってどないなんや?」
「ん?まあ、生意気で俺らに対する敬意なんてもん見たことはないけど……先輩に対して程当たりはキツくないっすよ。」
「からかってるって感じで、可愛い後輩の範囲やな。」
「生意気やけどな!」
「やっぱ先輩嫌われとるやろ。」
「嫌われてない!」
「どっから来るんその自信。」
「だってな……、その日だって夜中リビング行ったら置いてた生姜焼き全部無くなっててん。捨てられた訳でも無かったし光が食ってくれたに決まってる。」

少し多目に残っていた味噌汁まで空になっていたのだ。本当に嫌いならわざわざ外に出て行った後に食わないだろう。

「それに弁当も毎日ちゃんと持って行って空にして帰って来るし。」
「えっ。」
「あの弁当先輩が作ってたん!?」
「あんた何でそんな変なとこ器用なん!?」
「財前の弁当ってあの…冷凍食品なし、だし巻き卵は冷めてもジューシー、ご飯はいつも女子用かってぐらいに飾られてるあの弁当か?あれを先輩が作った!?キショッ!!」
「そこらの男が作れるレベルじゃないっすわ。」
「食べ盛りの男子中学生だぞ!しっかりしたもの食べさせないと!」
「普通そうなると量ばっかやのにあんたのは質がおかしいねん。」
「男子中学生に食わすもんちゃうぞ。」
「でもちゃんといつも空になってんだぞ!」
「あ〜……。」
「何や一氏、何か知っとるんか。」
「いや、昼いっつもダルそ〜に集まるんやけど弁当開く時だけめちゃくちゃ楽しそうな気してたん気のせいじゃなかったんかなと。」
「確かに、いっつも美味そうに食ってるな。」
「金ちゃん取ろうとしたらめちゃくちゃキレとったな。」
「光………そんなに俺のこと………!!」
「いや料理だけやろ。」
「お兄ちゃんはウザくても美味い料理に罪は無いしな。」
「愛が重い。」
「てめえら今日は自腹な。」

山盛りだった筈のポテトは食べ盛りの中学生には全く通用しなくてあっと言う間に皿の上には何もない。仕方なく追加でもう一つ山盛りのポテトを注文するがこいつら一人一人メインも食べてる癖に、運動部は全くもって恐ろしい。

「でも真面目な話、嫌いじゃないとは思いますよ。けど冷たいんはしゃあないんとちゃいます?」
「え、白石、なんでか分かるんか?」
「俺上も下もまあ女やけど居るから何となく気持ち分からんこともないんすよ。上がやたらと構ってくるの恥ずかしいって今でも思う時あるし、逆に下に構い過ぎてウザがられる事もあるし。」
「難しい年頃やねんて。兄貴とかに構われるのうざい時は確かにあるけど、まあ嫌いとかやないねんなぁ。」
「そんなもんなんか。」
「うっ…俺もいつか弟にウザがられるんや…!」
「その内大人しくなるて、そもそも財前デレデレするタイプやないやろ。」
「白石…一氏……!」
「俺は?」
「忍足は役に立ってないから。」
「酷い。」

やはり俺は光に嫌われてなんてなかった。分かってはいたが他人に後押しされると自信にもなると言うものだ。

「て事で、白玉ぜんざいです。」
「はぁ?」
「好きやろ?」
「………まぁ。」
「食べる?」
「作ったんなら…しゃあないやろ。」
「!!い、いっぱいあるしな!」
「アホやろ、そんな作ってどないすんねん。まあ食うけど……………ん、うま。」
「!!」
「ウザ、こっち見んなや。」

「もしもし白石!?光がデレた!!」
『え、何したんすか!?』
「ぜんざい作った!」
『めちゃくちゃ媚び売ってるやないですか!』

「ほんまウザいな……何でこんなウザいのに料理出来んねん……。」