「………あ?」

午後を告げるチャイムがなり、昼からの演習に備えて腹を八分目まで満たせるメニューを考える。あれか、あれかと考えながら鞄を漁るが目当ての物は一向に手に当たらない。まさかと思いながら鞄の大きく広げ覗き込むも見当たらない。

「………。」

財布忘れた。

昨日の夜、ババアにパシらされてコンビニに行って帰ってきて机の上に置いた事は直ぐに思い出せた。だから何だ。腹は満たせない。タイミングが悪い事に、いつも勝手に付いてくるクソ髪供は担任に呼び出されて今は居ない。デクに借りを作るなんざ死んだほうがマシだ。だからと言って他のクラスの奴らに借りるのも癪だ。あてがないわけではない。他クラスにはなるが、面倒な奴に変わりはないが他の奴らよりは幾分かマシだ。背に腹は変えられない。午後は演習なのだから早く腹を満たさないと、空腹でクソみたいなパフォーマンスになるなんざ許されない。俺はスマホで素早く文字を打ち込み、目的の人物に送信する。

『金持ってこい』



「あら、出久。久し振りね。」
「名前ちゃん!?雄英だったの!?」
「聞いてなかったの?」
「…教えてくれると思う?」
「それもそうね。」

連絡して数分後、相手は躊躇いなく開かれた扉から現れた。が、扉の前に居たデクと話し始めて一向に来やしねえ。

「エッッッッッ!?」
「何、あの美人!?」
「緑谷とめちゃ仲良さげだけど!!」
「こ、恋人とか!?」
「え、エロくね?」

BOOOOOOM!!!!!!

「なっ、何だよ爆豪!!!!」
「うるさいわよ勝己。」

「「「「「「!!!???」」」」」」

「かっ、………!?」
「何、どういう事!?」
「緑谷ぁっ!!」
「あ、うん……爆豪名前ちゃん。かっちゃんの双子のお姉さんだよ。」
「勝手に答えてんじゃねえぞ!!」
「爆豪が双子ぉっ!?!?」
「言われてみれば似てなくも…?」
「いや似てない、オーラが真逆だって。」

好き勝手に喋る連中に構ってる暇などない。遅くなるほど食堂は混む。

「どけっクソデク!!テメエもチンタラしてんじゃねえぞ!」
「わっ!」
「は?誰がテメエよ。」

デクを押し退け名前の手を掴み食堂に行こうとする、がいくら進もうとしても微動だにしない。寧ろ俺から掴んだはずの手は逆に掴まれミシミシと鳴りながら鈍い痛みがする。

「おい、早くメシ…。」
「誰に口聞いてんの?」

女とは思えないほど底冷えのする低音にさっきまで煩かった周りは静まり返っていた。ここで俺が女とは思えねえ声だな、なんて言えば俺の昼飯は無くなるだろう。

「アンタが、財布を忘れたから、わざわざ、私が、来てあげたの。それが?出久を押し退けて、私をテメエなんて呼ぶわけ?ねえ勝己?」
「………、行くぞ名前。」

そう言うだけで睨んでいた目は消え笑い出すもんだからタチが悪い。

「それじゃあA組の皆さん、出久も、また今度。」



「「「「「「「流石は爆豪の姉!!!!!」」」」」」