勘違い男

「宍戸ー!!」

恐らく今の俺の顔は真っ赤で眉は吊りあがりいかにも怒っている顔だろう。俺はそれでも言いたい。声を大にして言いたい。

「俺は怒ってる!!」
「お、おお、見りゃわかるけどよ。」

コート付近でストレッチをしていた宍戸の元へ着替え終わったばかりの俺は部室から猛ダッシュ。何故なら怒りの矛先は宍戸に向いているからだ。しかし当の本人は何もわからないと言った顔。俺はその顔を見て更に頭に血がのぼる。

「俺がなんで怒ってるのか分かってる!?」
「知らねえよ。」
「あぁ?」
「何、俺がなんかしたわけ?」

俺の右手は我慢するあまり震えている。が、我慢の限界だ。俺の右手は宍戸の脳天に向かって真っ直ぐ落とされる。

「っで!!」
「何かじゃねえよ!!お前、お前俺が部室の冷蔵庫に入れてたプリン食っただろ!!」
「はぁ!?知らねえよ!!」
「お前俺が朝あそこにプリン入れてたの見てただろ!宍戸しかあそこにプリンが入ってることは知らねえんだよ!」
「お前のって知ってる俺がわざわざお前のプリン食うかよ!」

仕返しと言わんばかりに迫り来る右ストレート。頭に血が上っている俺はとっさの判断ができずにモロに当たってしまう。

「テメエふざけんなよ!!」
「こっちのセリフだわ!!だいたいプリン一つごときで騒ぐなんて激ダサなんだよ!!」
「プリンはプリンでも最近出たお店の並ばないと買えない一個300円のプリンだぞ!!」

ヒートアップする言い合いと殴り合い。思えば思うほどプリンへの欲望が溢れる。朝一で並んでようやく買えて今日の部活が終わった後に食べようと思っていたのに。一口ぐらいなら宍戸の野郎にもあげようかと思っていたのに。

「お前本当許さねえ!!俺のプリン返せ!!」
「だから俺じゃねえって言ってんだろ!!」

あまりにも頑なに認めない宍戸。そもそもこいつなら往生際が悪いなんて激ダサなはずだ。それなのに認めないのは本当に違うのか?いやでも俺のプリンを知っているのは宍戸しか…。

「2人ともまた喧嘩?飽きないねえ。」
「「滝。」」
「今度は何が原因?宍戸?」
「おいっ!」
「宍戸が俺のプリン食べた。」
「俺じゃねえってば。」

宍戸がそう言うと滝は顎に手をやり何か考える仕草をした。こいつは本当にそう言うポーズが様になるなあ。

「プリンって冷蔵庫に入ってたやつ?」
「え、」
「あれ名前のだったの?食べていいと思って食べちゃった。ごめんね。」
「あ、うん、滝ならいいよ。美味しかった?」
「うん、また店教えてよ。」
「いーよー。」

そっかー、滝かー。滝結構甘いもの好きだもんなー。そりゃ美味しそうなプリンが冷蔵庫にあったら食べちゃうよなー。俺も冷蔵庫に美味しそうなプリンが入ってたら気にせず食うもん。仕方ないなー。

「おい。」
「何、まだ宍戸いたの。」
「俺じゃなかったな。」
「で?」
「謝ることあるんじゃねえのか?」
「……。」

「ごめんちゃい!」
「おいこら待て!」


「…仲良いなあ。」