テトリス

「え、苗字帰んの?」
「当たり前だろ。別に家遠くないし泊まる理由も無いのに迷惑かけるだろ。」
「名前帰るの?」
「進藤の許可取れた?」
「それは取れたけど。」

宮村が進藤を泊める許可を取って来たから帰る用意をしてるとそう言われた。そもそも今日だって急に進藤に連れ出されたから泊まるつもりなんて無かった。

「名前も泊まって行きなよ。母さんにもそのつもりで言っちゃったし。」
「言っちゃったってお前さぁ。」
「苗字も楽しくお泊まり会しようぜ!」
「迷惑掛けてる自覚あるのかお前は!」
「まあ進藤がウザイのは置いておいて、俺何日も進藤と2人っきりとか普通に無理。」
「あぁ……。」
「酷くない!?」

しかし進藤と違って着替えも持って来ていないし宮村のは小さくて入らない訳で。

「やっぱ今日は帰るよ。何の用意もないし。」
「えぇ〜!?」
「進藤、迷惑掛けるなら帰るついでにお前を家に帰しても良いんだぞ?」
「スミマセンデシタ。」
「宮村も、学校の帰り様子見に寄るしさ。」
「じゃあ明日そのまま泊まれば?」
「そ?じゃあ明日は邪魔するわ。」

実際、進藤を置いていくことを心配してるかしていないかで言うと全くしていない。進藤は馬鹿じゃないし何より宮村が大好きな男だからちゃんと一線は見極めている。はず。多分。



「昨日はどうだった?」
「進藤マジでキモい。」

進藤が泊まって1日。約束通り、進藤の様子を見にいくために放課後になるとすぐ宮村の家に向かっていた。今日会った時から既に疲労が見えているがこのまま数日間宮村は保つのだろうか。

「ノート、進藤のと入れ替わってたし。」
「勉強したんだ?偉いじゃん。」
「八坂のノート見たらやってる所違い過ぎて意味分かんない。」
「まあアレでも頭良いからな。」
「ムカつく。」
「それは本当にそう。」

宮村の家に着くと既に進藤は居た。

「おかえり〜。間違って俺のノート持ってっただろ。」

そう言う進藤の手は恐らく宮村のノートであろうものを持っていた。採点済みで。

「あー…。」

パンっといい音でノートは宮村の手により投げ捨てられた。

「あーっ!!折角採点してやったのに!!」
「赤ペン先生かよおまえは!!これじゃ提出できないだろ!」
「問5は惜しかった。公式が間違ってたんだ。」
「可哀想に…。丁寧に解説まで……分かりやすいな、相変わらず。」

きちんと行われた課題はそのうち提出予定だったのだろう。無惨にもご丁寧に丸付けと解説がされ、とても提出できる状態ではない。いや、寧ろこの状態で提出すれば成績はともかくいつも真面目に勉強してるのが伝わるかも知れないが。

「あ、3日後出てくから。」
「………そう。」
「ふーん。」
「宮村プレステはー!?」
「ねーよ。堀家に寄付した。」
「太っ腹だなあ。」
「なんだよー!テトリスやろうと思ってたのに〜。」
「おまえ本当テトリス好きだな!!ちょっと飲み物取ってくる。」
「いてら〜。」
「…。」
「で、苗字さんはどうしたんですかー?」
「べっつに〜?ちゃんとケジメ付ける期限決めて進藤は偉いなぁ、と。」
「苗字が褒めてくれんの珍しいな!?まあ、俺も子供もっぽい所あったなって思うしね。」
「…もし上手くいかなかったら今度は俺の家来いよ。」
「苗字そんなに俺の事…!」
「マジうぜぇ…。」



夜、伊織さんの手伝いをしつつご飯を頂き高校生らしく勉強をしていると短い放課後はあっという間に過ぎる。

「俺とちかちゃんをまちがえたら落とすからな。」
「うぬぼれるな!!ちかとは似ても似つかぬわ!!」
「よ〜し、そのセリフ覚えとけよ…。てか名前は?」
「は?とっくに寝てるけど。」
「嘘でしょ!?早すぎない!?」
「床で1人広々としてるからぐっすりだよ。」
「普段の口の悪さが嘘のような静かさ。」

なんて言ってるのも知る由もなく。

「ちか〜。」
「死ねッ!!」
「ウッ……、は?何………。」

突然の打撃に目が覚めると腹の上には腕らしきもの。その先は布団に埋もれて分からないが十中八九、進藤だろう。折角熟睡してたのに。布団に乗ってきた進藤を思いっきりベッドの横に押し退けて漸く俺の平穏が戻ってきた。進藤を背にしてまたやってきた眠気に委ねた。