高級食材

「誰かに彼氏のフリしてもらえば?」
「苗字は?カッコいいし。」
「ぇえ〜!?流石に色々申し訳なくない!?」
「名前なら良いって言いそうだけど。」
「じゃあトオル。」
「嫌がられるよ〜。」
「嫌がらないと思うよ?ちゃんと説明すれば。」
「う〜ん…。」
「じゃ井浦にする?」
「……ない。」
「ほらぁ。」
「あ、名前?もう帰った?まだ居る?うん、ちょっと来てくんない?はーい。」
「え、呼んだ?」
「とりあえずね、まだ学校居るから来るって。」



「で、何?」
「吉川さんが。」
「吉川さん?」

放課後、特に用もなくダラダラと勉強をしていたら宮村から呼ばれた。横の教室に行くと宮村と堀さんと吉川さん。混じってても違和感ないな宮村。

「ほら、ユキっ!フリとは言え苗字程のイケメンなんて2度とないわよ!」
「失礼過ぎない!?」
「マジで何の話?」
「えっとぉ……、その、告白をされたんだけど断りたいから、少しだけ彼氏のフリしてくれないかなぁって……。」
「俺で良いなら、別に良いけど。」
「本当!?」
「何で堀さんが一番楽しそうなの…。」

フリぐらい友達の為ならどうって事はない。寧ろ俺も変に女子に絡まれなくなるなら一石二鳥だろう。最低限の奴らにだけフリだと伝えれば何の問題もない。

「で、誰?」
「そうよ誰なのよ。」
「他クラス?」
「6組の…柳くん、確か。」

何の問題も。

「ん?柳?」
「そう。」

問題も。

「柳って…柳明音?」
「そんな感じだった気がするけど。」

問題しかない。

「や、やっぱ俺じゃない方が良くない!?」
「えっ何急に。」
「名前?」
「良いって言ったじゃない。」
「いや、俺だと不自然だからさ!!ホラ!!話すようになったのも最近だから!!石川とか!!そう、石川とかの方が良いって!!」
「それはそうなんだけど。彼氏のフリする苗字見たかったなー!」
「何それ…。」

彼氏になって欲しいとかじゃなくてフリする俺が見たいって意味不明が過ぎる。急に断った俺を怪しみつつも石川にしてもらう方向で進みそうだ。俺の不審な挙動の理由はまだ言えない。

「吉川さん。」
「んー?」
「頑張って、ってのも変だな…何って言えばいいんだろ。」

みんながみんな、好きな人と思い合えるわけじゃない。悲しむ人がそこに居て、それは仕方のない事で。誰も悪くないからこんなにも難しい。断る方だって苦しいのは知ってる。吉川さんは傷付けない断り方を考えた。それは彼女の優しさだろう。

「まぁ……、うまく行くと良いな。石川にちゃんとかっこいい彼氏のフリしろよって言っておいて。」
「名前からかっこいいって言われるとプレッシャーになりそう。」
「分かる。」
「なんだよそれ。」

石川に電話をしている宮村を他所に吉川さんと堀さんはきゃっきゃっと盛り上がっていた。

「あ、そういや柳くんちょっと苗字に似てるかも。」

その一言に思わず肩が跳ねる。まだ少し本当の事は隠したい。どちらにも。

「っ、へー…。」
「じゃあめちゃくちゃイケメンじゃない。」
「んー…。」
「何よハッキリしないわね。」
「胸焼けする…。」
「なんて贅沢な。」

思わず口から出たのは仕方ないだろ。だってあの顔だぞ。俺よりも整ったあの顔で言うか。気持ちは分からなくもないが。

「でも石川ならいいんだ?」
「いっ、いいの!トオルのがほんの少しかっこいいから!」
「へ〜!」
「私はユキの美的センスが気になるわ。」
「苗字!にやにやしない!あと堀にだけはそれ言われたくない!」