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3年になって少し。クラス分けの時マキオと一緒のクラスで人知れず喜んだ。うざいオレンジも一緒だったが知らない。やたらとマキオに懐かれてる進藤なんか知らない。とも言ってられず。

「進藤ー。」

ノートを忘れて教室に戻った進藤がなかなか来なくて、先生に頼まれて呼びに来たら進藤は宮村と喋ってた。

「川田!!」
「山じゃなかったら川ってそれ単純すぎるだろ。」
「アレー?橋つくっけ?」
「つかねーよ。」
「何してんの?」
「っ、」
「おー。」
「授業始まってるけど。」

そう言いながら戻るの面倒だななんて思ってたり。どうせ放って置けば誰かが荷物を持って帰ってきてくれるだろうし。何故か身を硬くしてる宮村と動く気のない進藤にどうしたものかと一先ず椅子に座る。

「何してんの?」
「駄弁ってたー、こいつと、えーっと。」
「お前宮村の名前も知らず喋ってたの?馬鹿なの?」
「そーそー!宮村!」
「えっ。」
「ん?」
「な、なんで名前知ってんの。」
「いや知ってるだろ普通に。」

クラス一緒なんだから。

「知らない進藤がおかしい馬鹿なの。」
「やばい馬鹿みたいな言い方やめて!?てか苗字だってクラスの女子覚えてないだろ!」
「俺は良いんだよ、俺は。」

話してたら進藤も授業に行く気を失くしたのか椅子に座っていた。

「宮村もいつまでも立ってないで座ったら?それとも今から授業行く?」
「いや、その…。」
「えー!?いいじゃん宮村もサボろうぜ!」
「無理強いすんなって。」
「だって今から行ったって面倒じゃん。」
「まあな。」

昼飯も食べた後のこの時間は何をするにも億劫だ。

「どーする?宮村は。」
「…俺も、サボろっかな。」

この日から俺たちは一緒にいる事が増えた。案外宮村は口が悪くて変で面白いやつだった。俺は考えたくない事から逃げる様に新しい友人といる時間を増やしていた。



「名前ってさぁ…。」
「うん?」

数ヶ月もすれば宮村は俺を名前で呼ぶ様になった。進藤も晃一と呼ばれていたが反応がキモくて結局進藤呼びに落ち着いたらしい。そんな宮村と進藤とファミレスで駄弁っていたら唐突に宮村は俺に何か話したい事があるのか。その割には言いにくそうに重い口を開いた。

「名前って谷原くんの事好きだよね。」
「ばっ……!」
「…は?」
「馬鹿、宮村!本当この子はもう!」
「進藤うるさい。」
「いやいやコレばかりは宮村が悪いからな!?大丈夫かー苗字。」
「…え?」
「あー、ほら苗字壊れちゃった。」
「なん、何で…。」

一体どこでバレた。別にマキオに変な態度をとった覚えも無いしそんな話を誰かにした事もない。何で。何で。何で。

「落ち着け苗字。」
「っ、は、はっ…、」
「ご、ごめん名前。そんなびっくりすると思ってなくて。」
「別に引いたりとかしてねえから。な?ちゃんと息吸えって。」
「………は、ぁ…。」
「落ち着いたか?」
「あぁ…悪い。」
「ごめんね名前、ただ本当に気になっただけなんだ。」
「……俺そんな分かりやすかった?」
「いや?俺はそれこそお前と付き合い長いから気付いたけど…。」
「俺は何となく…。」
「ま、マキオは…。」
「気付いてないだろ谷原は。」
「良かった……。」

マキオに気付かれたら、どうなる?友達じゃ居られなくなる。それどころか、絶対嫌われる。それは嫌だ。友達でいいからこのままでいいから、絶対マキオには知られたくない。

「頼む、他に言わないでくれ。」

そう言う俺に当たり前だろ、と流してくれて引く事もしない。俺は友人に恵まれている。

そう喜んでた俺はもう既に大事なものとすれ違い始めてる事に気付けなかったんだ。