誤解

「で、何でこうなってるか宮村分かる?」

腕と足を組み威圧的な態度を取る俺の前で宮村は分かりやすく縮み上がって、目の前にあるジュースの水滴と同じように冷や汗を流していた。進藤は今回は俺寄りの傍観者でいるようで珍しく黙っていた。

「わ、分かりません…。」
「分かんないんだ。へぇ、俺も何でお前に嫌われたのか分かんないんだよね。」
「…え、嫌って……?え?」
「何で高校入ってから俺のこと避けてたわけ。」



俺と宮村は中学の頃、普通に仲が良かった。高校も同じところだと言うから俺は高校でも宮村と過ごしてたまに外で進藤も連れて、と思っていたのに。それなのに。高校に入ってクラスが分かれて、喋り掛けようとすると避けられた。何度か声をかけようとするも尽く躱された。それが意図的であることは直ぐに分かったが理由だけは分からなかった。俺は知らないうちに宮村に嫌われるようなことをしただろうか。1年も経たないうちに俺は諦めた。

諦めたけれど、宮村が俺にとっては大事な友人の一人で。納得できないものの俺は俺で新しい出会いがあった。けれど宮村は中学の時も遠くから見かけた光景。一人でいる事が多かった宮村だけど別に一人が好きなわけじゃないことを知っている。そして一年ぐらい前の時は一人でいるところばかり見ていた宮村の横に今は堀さんや石川が居て。俺は拒否されて宮村は一人になって知らないうちに宮村の周りには知らない人がいて。拒否された理由も何も分からなくて、無理矢理納得していたものの会えば疑問が再浮上して確かめずには居られなかった。

「俺、お前に何かした?」
「……。」
「…話したくもないほど嫌い?それならそれで何でそうなったかが分かんないんだけど。」
「嫌って、ないよ。」
「じゃあ何。」
「…俺のせいで、中学の時名前が色々言われてたの知ってる。」
「はぁ?」
「進藤も言われてたの知ってる。でも高校は進藤は八阪行くって言うからいいけど、名前は同じだし。また俺のせいで俺といると色々言われるんじゃないかって…,。あれも俺のせいで…。」
「…っ、バッカじゃねえの宮村。」

思わず手に力が入り手の中のジュースが空だった事に安堵する。ああもう宮村は本当馬鹿だな。優しすぎて空回りするのはこいつの悪い癖。

「あのね宮村。俺そんな程度の事で切られてハイそうですかって納得できるほど宮村のことどうでもよくないの。そもそも俺の問題は俺の問題であってお前のせいなんて事あり得ないんだからな。」
「苗字いっつも宮村の話すんだぜ?」
「っ進藤!!」
「怒ってるんじゃなくて拗ねてんだよこいつ。」
「名前…。」
「悪いかよ!だってあんだけ一緒に居たのにお前は簡単に…!」

暑くなったのを冷ますために進藤のジュースを奪い飲む。炭酸の刺激が脳を冷静にしてくれた。

「…はぁ…で、もういいんだろ別に。俺は周りなんて気にしないしお前も今は馬鹿みたいな事思ってない。つまりこれからは話しかけてもいいよな?」
「もももも勿論っ。」
「もぉ……俺がどんだけ寂しい2年過ごして居たか……。」
「ご、ごめんね。」
「いいよもう、だって避けてたのも宮村の優しさだろ。」

奪ったジュースを飲み干すとどっと疲れがやってきた。今までのすれ違いが解決した安心感もあるのだろう。ソファに凭れて外の景色を眺めて安堵感に浸る。進藤は嬉しそうな宮村をからかっていてその光景は中学の時を思い出させる。こんな日常が数年前は当たり前だったのに。

「そういや、堀さんとか石川とはどういう関係なの?クラスが一緒ってだけであんな仲良さげにはならないでしょ。」
「えっと…。」
「宮村の彼女。」
「エッ。」
「ちょ、進藤!」
「へぇ、成る程な。それで元々堀さんと仲良かった石川とかとも仲良くなったわけだ。」

馴れ初めやら色々根堀り葉堀り聞きたい事はあるけれど、それよりも宮村に彼女と言った特別な関係になれる人ができたことに微笑ましい気持ちになる。それにしても宮村が好きになって宮村を好きになった堀さんは一体何者なのだろうか。良い人では間違い無いのだろうけど。

「親離れする子を見送る気持ちが分かった気がする…。」
「分かる分かる!寂しいなぁ宮村に彼女なんか出来ちゃって!」
「お前と同類は嫌だなぁ。」
「苗字酷い。」
「二人とも何言ってんの…。」

心底呆れて引いた目を送ってくるが知らないふりをする。定期的に会っていた進藤は兎も角、俺は近くに居たにも関わらず独り立ちして社会に飛び込んで行く息子を見守っている様な気持ちなんだ。避けられていた時とはまた違う寂しさがある。

「良かったな、宮村楽しそうで…。」
「明日名前も生徒会室来る?」

今の俺の発言からどうすればそんな誘いが出るのだろうか。

「は、え?生徒会室?何で?俺悪い事でもした?」
「留年?苗字留年すんの?」
「お前と一緒にするな!いたって優等生だわ!」
「優等生はピアス開けない…。」
「宮村よりマシだろ。」
「そっ、そうじゃなくて、みんな生徒会室で集まるから。」
「みんなって…堀と石川以外もいるんだ?まさか生徒会の人らもいる訳!?お前の友人関係どうなってんの!?」
「気付かないうちにね…。」
「ふーん。まあ折角誘ってもらったんだから行くよ。堀さんと石川にも挨拶しときたいし。」
「いいなー片桐楽しそうで。」

そう言われた宮村は何処か嬉しそうで、今学校生活を楽しめているのだろう事が分かる。宮村がそう思えるようにしてくれたのは一体どんな奴らなのだろうか。