フェチ

「何かもう…バレそう…、しんどい…。」

げんなりした宮村の髪や服は何故か少し湿っていた。事情を聞けばレミに水を掛けられたらしい。タオルを借りて拭いたらしいがやはり脱がずに乾かすにも限度があるらしく少しでも乾きやすいようにと、たまたま廊下で会った俺と付き添いの石川は屋上の風に当たりに来ていた。

「しんどいそしてあつい。」

やっぱりと思ったのは俺だけではなく石川もらしい。真ん中に挟んだ宮村を哀れむような目で見ていた。そもそも自業自得と言えば自業自得なのだが。

「やっぱ見えちゃうもんなの?ワイシャツだと。」
「うん…きびしい。でもまぁここまで来たら卒業までがんばる。」
「よくやるわ…。」
「思ったんだけどさーこういうの着れば?」
「ベストか、路線は悪くはねえけど…。」
「うん…腕がね。」

昔は上半身に留まっていたものも聞けば腰付近にまで伸びているらしい。宮村は全く懲りていないようだ。それにしても普段一見温厚である宮村がピアスやらタトゥーだと言うものは、慣れている俺たちは違和感がないがあまり知らない奴からしたらものすごいギャップを感じるのだろう。俺からしてみれば面倒なのだから隠すのをやめて仕舞えばとなんとも無責任なことを思うが、宮村からすればその反応を想像するとやはり隠すしかないのか。

「セーラー服は着るのになぁ…。」
「は!?」
「あれは違う!!」
「え、宮村どういうこと!?セーラー服着たの!?」
「違う!着たけど違う!」

動揺のし過ぎで否定の筈が肯定している。そもそも持っていること自体意味が分からない上に着たのか宮村。そしてなぜ石川は知ってるんだ。まさか宮村にそう言う趣味があったとは。いや実際は違うのだろうけれど、本当にそうだとしてもまあ人それぞれだと思うぞ宮村。どうしても似合わないとも言い切れないし進藤なんかは喜びそうだしいいんじゃないか。

「あぁ〜でも髪がなぁ〜…。あと、もすこし…肩くらい…耳が隠れるくらい…。」
「勝手にイメージすんのやめてくんない!?」
「わかった!じゃあ半年伸ばそう!」
「決めちゃったよ!何!?何でちょっとセーラー気に入ってんの!?」
「苗字もあとちょっとだけ身長低ければな〜。」
「低ければ?何だよ。その先を言ってみろよ。」
「その目やめて普通に怖い。」

真面目に嫌がる石川をからかっていれば話はどんどんと逸れて行く。ヒートアップする議論の中ギィっと軋む音が聞こえる。音を辿れば扉に太陽に負けない赤さをした仙石が居た。大方勉強の息抜きに来たのだろうに災難なことに宮村と石川は御構い無しだ。

「あっ会長!!」
「仙石!!」
「やっほ。」

室内から出て来たばかりなのに仙石の額には既に汗が滲んで居た。巻き込まれる面倒ごとを思ってのことだろう。案の定宮村と石川は仙石にセーラーかブレザーどっち派か迫って居た。どうなったらそんな議論に発展するのか一緒に居ても甚だ疑問である。

「あ、じゃあ俺ジャージで…。」

ジャージて、仙谷お前。

「なっなんだよう!!いいだろ体操着!!」
「仙石、正直に言ってみろよ…本当はスク水もだろ…。」
「えっそうなの!?会長、濃いよ!!」
「おっさんか!!」
「違うわ!!」

仙石の必死の否定も宮村と石川は聞き入れる気が無い。それにしてもジャージって、控えめなのか露骨なのかまた微妙なラインだな。

「そういう苗字くんは一体何なんだ!」
「俺?」

どうやら矛先は俺にも向くようだ。必死な形相の仙石は掴みかかってきてもおかしくない迫力がある。そんなフェチ如きでよくみんな必死になれるな。

「俺はー…特にこれと言って無いけど、まあどちらかと言えばブレザーかなぁ。」
「よしっ!!」
「苗字…分かってない、お前分かってないよ…。」
「ねえジャージ…。」
「何なのお前ら!」

必死か。フェチに必死か。ほらこっそり覗いてる堀さんも引いてるぞ。

「ハイソ!」
「ルーズソックス!」
「萌え袖。」
「「「苗字(くん)(名前)は!?」」」
「………タイツかな。」
「「「エッロ!!!!」」」