おはようから始めよう
    得意です

    「えっ!?」
    「すげえな!!」
    「チッ…。」

    三者三様の反応を示す彼らの視線の先は俺の手元にある一枚の紙に向いていた。それは数日前に行われたテストであった。

    「満点…名前頭良いんだ。」
    「数学好きなのか?」
    「勉強自体嫌いじゃないけど…中でも数学は好きかな。」
    「満点ぐらい本気出せば俺だって…!」
    「隼人、ここ途中の計算抜けてる。あとここで使うのは割り算じゃなくて掛け算だよ。」
    「方向音痴のくせに…!」

    方向音痴は関係ない、というか俺は方向音痴なわけではない。慣れてないだけだ。断じて違う方向音痴。

    「何でここまで頭いいのに道間違えるのかな…。」
    「あぁ、所謂俺、転勤族ってやつ。すぐ引越しするから道覚えるだけ無駄だし覚えなくなっちゃったんだよね。」
    「えっ、じゃあ並盛も…。」

    最後まで声に出されなかったツナの言いたい事は聞かずとも分かった。そして出会ってまだ短い俺が引っ越すと思うと寂しくなってくれるツナは本当に優しい。

    「そんな顔しないでよ。大丈夫、一応もうこの前ので最後って聞いてるから。」
    「そっか、良かった。」
    「じゃあ道覚えねえとな!いつまでも迷子になってちゃ困るだろ?」
    「迷子になんてなった事ないけど。」
    「何でそこは頑なに認めねえんだよ…!」

    だってバカみたいじゃないか。方向音痴。それにしても山本の言う通りここで長く生きていくのならばいい加減道を覚えなければならない。と言っても長い間道を覚えることをしていなかったせいで道の覚え方などすっかり忘れてしまった。さらに言えば毎日ツナ達と共に登下校しているし俺が道を覚えたからと言ってそれは変わらないだろう。つまり俺が今焦って道を覚えることにあまり意味はない、というか毎日歩いていたら流石の俺でも覚えると思う。

    「まぁそのうち覚えるよきっと。」
    「覚える気ないよね。」
    「迷子になっても知らねえからな。」
    「なんとかなるなる。」
    「危機感ないのな。」



    「それにしても何であんなに頭いいの?」
    「えー…凄い面白くない話になるんだけど。」

    帰り道部活に行った武は居ないがツナと隼人と俺と随分と見慣れた面子でいつも通り歩いていた。ふと気になったというようにツナは聞いてくるが本当に何も面白い理由はない。それとなくそう伝えるも気にしないから話してと目が語って居る。

    「転勤族って言ってたじゃん俺。」
    「うん。」
    「友達居なかったから暇だったんだよね。遊ぶほど仲良くないしすぐ引っ越すの分かってたから仲良くしようとしなかったから。勉強しかやることなかった。」
    「ぼっちかよ。」
    「獄寺くん!」
    「否定出来ないなぁ。でも今はもう引っ越す心配も無いし並盛いい人達ばっかりだから、仲良くしたいって思ってる。」

    ツナは言うまでもなく優しいし武も隼人もそれぞれの優しさがある。とても居心地が良いし好きだと思う。

    「ダメツナとは大違いだな。」

    不意に降りかかる声はさっきまでこの場には居なかったはずだった。一体どこから来たのやら。そしてなぜ塀の上なのか。まだ数度しか話したことのない彼は謎だらけである。

    「やぁリボーン。」
    「もう馴染んでるー!?」
    「うるせえぞ。」
    「っぅぶ!!」
    「10代目!!」

    俺の返事にやたらと驚いたのが癇に障ったのかリボーンの蹴りは綺麗にツナの顔に直撃した。なかなか良い運動神経を持って居るらしい。

    「着地まで綺麗だね。」
    「当たり前だろ。」
    「流石リボーン。」
    「分かってない名前!絶対何が当たり前で流石か分かってない!」

    大きな声を出すツナに再びリボーンの蹴りが繰り出される。赤ん坊の脚力とは思えないぐらい痛そうだ。

    「名前は頭が良ければ顔も良いしオマケに社交的、ツナもちょっとは見習え。」
    「確かにその通りだけど酷い!」
    「ツナは優しいから。」
    「そうですよリボーンさん!この野郎と同意見なのは癪だが……圧倒的に10代目の方が素晴らしい人間です!」
    「名前は良いやつだな。」

    そう言いながら俺の方に飛び乗るリボーンの傍、隼人が俺は…?と嘆いて居た。うん、さっきのは擁護しないぞ。

    「名前。」
    「何?リボーン。」
    「良いやつついでにツナに勉強教えてやってくれねえか。」
    「おい、リボーン!勝手な事言うなよ!」
    「獄寺は教えるの下手だし俺の言う事は聞かねえじゃねえか。」
    「そ、それは…。」

    さっき学校でちらっと見えたが確かにツナとそれに山本の点数は正直な話かなりやばい点数だった。どこぞの猫型ロボットアニメのメガネくん並みだ。それぐらいやばい。隼人は点数が悪いという事はないがリボーンの言うことを信じるならば隼人にツナの点数を上げる事は期待出来ないのであろう。ツナ本人も流石にこのままだとやばいのは分かってるのであろう。

    「てことで、頼めねえか。」
    「俺で良いならいくらでも。」
    「あ、ありがとう名前。よろしくお願いします。」

    項垂れている隼人の髪の隙間から鋭い視線が刺さっているのには気づかないふりで。とりあえず今日はこのままツナの家にお邪魔してテストの復習から始めるとしよう。

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