おはようから始めよう
    呼び出します

    ある日の応接室内。部屋の主人である雲雀恭弥の機嫌は最低最悪であった。



    「委員長、この書類お願いします。」



    「書類届けてきました。」



    「こちらが資料です。」



    慌ただしく風紀委員達が応接室を出入りしている中、雲雀だけは机の前から微動だにしない。体育祭や文化祭等、学内の行事に限らず並盛町全域の様々な書類がここに集まっていた。普段から少なくはない書類はここ最近は行事等が重なっているため数は膨大になっており多忙を極めていた。更には他の風紀委員達は脳筋と言っても過言ではなく書類整理には役立たず。まだ書類を扱える副委員長である草壁は書類を捌きつつも機嫌が悪い雲雀を刺激しないようお茶汲みなどの雑用もしており進みが悪かった。となるとただでさえ重要な物は必然的で、更に雲雀の元に殆どの書類が集まっていた。本来彼は頭がいいとは言え体を動かしていたいタイプの人間だ。いくら処理できるのが雲雀だけだとしてもフラストレーションは溜まりに溜まり今にも限界を迎えそうであった。傍でお茶の用意をしている草壁もヒヤヒヤとしている状況が続いている。

    「……。」
    「委員長?」
    「外出てくる。」
    「ま、待ってください!本日付けの書類がまだ……。」
    「なら君から噛み殺そうか。」
    「そっそれは!」

    とうとう限界を迎えた雲雀は外に出ようとしたがどれだけやっても減らない書類の山を前に草壁は見過ごすことは出来ない。けれどそれはあまりにも迂闊な行動だった。普段なら許容されることも限界まで我慢して居た雲雀には火に油を注ぐだけだ。慌てる草壁を他所にゆらりと動くと同時に雲雀は窓際に一つの気配を感じた。逆にここまで近づかれないと気付けない事に常々腹は立つがそれよりも興味が勝つ上に何より彼の強さは絶対的だった。

    「何の用だい、赤ん坊。」
    「随分と機嫌が悪いな。」
    「見て分からないかな。今忙しいんだ。君の相手もしてられないぐらいね。」
    「良い手伝いが居るぞ。」

    雲雀の嫌味を物ともせずにリボーンは告げた。しかし雲雀も、様子を見守って居る草壁も言っている意味が理解できなかった。

    「何、そんなに強いの?」

    そして思考が戦闘の事ばかりである雲雀が見当違いの事を言うのはリボーンの予想通りであった。

    「違うぞ、書類の処理だぞ。あいつ頭いーからな。殆ど予算や会計の書類だろ、多分それぐらい直ぐだぞ。」
    「ま、待ってください。いくら頭がいいと言っても俺が言える立場ではありませんが所詮中学生でしょう?それに風紀委員でもないのに…。」

    口を挟む草壁を余所に雲雀は珍しく思案顔であった。それ程までに今は危機的状況だった。勿論片付かない物ではないしやろうと思えば出来る。ただ雲雀にとってあまりにも面白くないのだ。そしてリボーンがそれほど認めているとなると恐らく所詮中学生という枠は超えているだろうし、委員長は雲雀であり絶対権力だ。風紀委員でないことなど些細なことで問題にもならない。

    「直ぐ来れるの?」
    「委員長っ!」
    「今日の放課後になら来れるんじゃねーか?」
    「じゃあ呼んでもいいよ。ただ使えなかった場合はソレどうなっても知らないけど。」
    「心配いらねーぞ。」

    それだけ言うとリボーンは窓の枠から飛び降りた。恐らく見下ろしても姿は見えないだろう。草壁は頭を抱えたい勢いであったが決めたのが委員長である雲雀の為に堂々と反対も出来ない。使えないやつであればサンドバッグになる、使えれば使えればで馬車馬の様に働かされる。どちらに転んでも悲惨な結末にしかならない。顔も名も知らない人物に草壁は同情した。しかし己とは逆に雲雀は放課後にあの赤ん坊が認めた人物に興味がある様で、もうこの部屋から出る気はなくしていた様だった。これでとりあえず今日付の書類だけはなんとかなるだろう。

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