おはようから始めよう
    また会いましょう

    「あ、えっと、こんにちは。」
    「…こんな時まで礼儀正しいんだね。」
    「は、はあ……。あのつかぬ事をお聞きしますが、ここって並盛ですか?」
    「そうだよ。」

    俺は元々ここに居たのかそれとも突然現れたのか。目の前にいる長身の男の表情は単調で読み取れない。けれど並盛ではあるようなので歩いていれば知ってるところに出れるだろう。

    「それじゃあ、ありがとうございました。」

    教えてくれた事にお礼を言って去ろうとする、が何かに引っ張られて動けなかった。よく見れば男に腕を掴まれて居た。何か用だろうか、それとも無礼なマネでもしただろうか。意味が分からず凝視していると男の眉間にシワが寄った。

    「どこ行くの。」
    「どこって…帰るんですけど…。」
    「君、この道がどこか分かってる訳?」
    「はははっ…。」

    見ず知らずの人間に自分の痴態を晒すのも嫌で笑って誤魔化そうとするがこの人には通用しなかったらしい。更にシワが濃くなった。

    「迷子になるだけだ。大人しくしてなよ。」
    「そういうわけにも…俺帰りたいですし。」

    それよりも腕を離してくれないだろうか。少しばかり痛い。と言えないのはこの人の迫力と目つきのせいだろう。腕を離されないまま歩くわけでもなくここに留まらせられているが一体どうしたものか。しかも何故かジロジロと見られて居て余計に居心地の悪さが襲う。

    「…もうそろそろ時間だ。」
    「え?」

    言葉の意味を訪ねるのを遮るように腕を引かれ気付いた時には暖かい何かに包まれて居た。目の前にあるのはさっきまでそばにいた男のスーツの黒であった。

    「っな!?」
    「またね。」

    抱き締められていると気づいた時には最初と同じ様に煙の中にいた。男の姿が見えなくなってもまだほんのりと暖かさが残っていた。

    「何だったんだ一体…。」

    一体何がどうしてあんなところに居て、あの男は誰で、何故抱き締められたのか。何一つ分からないまま煙が晴れると元々いたはずであるツナの部屋だった。

    「名前!」
    「…ツナ?」
    「あ、えーっと、何て説明すれば…。」
    「10年バズーカだぞ。」
    「リ、リボーン!」

    呆然としてる俺と何かに困ってるツナの間に現れたのはランボ達と歳が変わらなさそうな子供であった。流暢な言葉は落ち着いている。黒のスーツを着こなす姿は何故か様になっていて威厳がある。とここまで考えて相手は年端もいかない子供である事を思い出す。

    「リボーンって言うんだね、はじめまして。俺は名前だよ。」
    「よろしくな名前。」

    しゃがんで目線を合わせて挨拶をすると小さな手が差し出される。なんとも律儀な子供も居たものだ。

    「ところでリボーン、さっき言ってた10年バズーカって?」
    「余計なこと言うなよリボーン!」
    「まあ驚くかもしれねえがお前はさっき10年後の自分と入れ替わってたんだ。この部屋に入った時何かに当たっただろ?それが10年バズーカだ。」
    「……は?」
    「そんな説明で分かるわけないだろ!?突拍子無さすぎるよ!」
    「そうは言ってもこれ以上説明のしようがないだろうが。」
    「夢だったとか気絶してたとか誤魔化す方法もあっただろ!」
    「大分無茶な話だな。」

    リボーンとツナはなにやら言い争っているが内容が全く入ってこない。10年後やら入れ替わるやら何を言っているのやら。そんなことあってたまるか。けれど知らない間に並盛とは言え場所の移動をしたのは自覚している。

    「な、なあ、入れ替わるってことはこっちには10年後の俺が居たってこと?」
    「そうだぞ。」
    「大した話はしなかったけど『流石の俺もびっくりしてるだろうなあ。あいつも悪いやつじゃないけど何かされたらごめんな。』って。」
    「向こうで誰かに会ったのか?」

    そう聞かれ思い浮かぶのは長身でスーツの男。けれど名前も分からなければ誰かも全く見当がつかない。

    「なんか身長高いスーツの人。」
    「誰だろ…10年後ならみんなスーツだったし並盛の誰かとも限らないしなぁ…。」
    「てか待って本当に10年後に行ってたの俺、そしてここに10年後の俺が居たわけ?」
    「本当だぞ。」
    「巻き込んじゃってごめんね…。」

    ニヒルな笑みを浮かべるリボーンとは対照的にしょんぼりとしたツナの顔は暗い。けれど俺はツナにそんな顔をして欲しいわけではないし何よりも責める気はない。

    「す、凄いな!多分聞いても仕組みとか理解できないんだろうけどタイムスリップしたんだろ!」
    「名前?」
    「何が何やら分かんないけど凄いって事だけは分かった!」
    「呑気だ…!」
    「だって別に何か害がある訳じゃないしさ。それに俺順応性が高いのが取り柄だから。」

    別に死ぬ訳じゃないのだ。貴重な体験として片付けるのがいいだろう。だからと言って入れ替わって見知らぬ場所や人というのもあまり心臓に良くはないので、進んで行きたいとはあまり思わない。

    「でも流石に疲れたな…頭がパンクしそう。」
    「お詫びって訳じゃないけどさ、ご飯食べていってよ。」
    「いいの?」
    「うん、今更人数増えても変わんないからさ。」
    「歓迎するぞ名前。」
    「そ?じゃあご馳走になります。」

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