おはようから始めよう
    困りました

    「やば…。」

    と口に出してみたものの内心の焦りはあまりなくこういう所が俺のダメな所だろう。沈みかけた太陽で辺りは赤く染め上げられていた。

    「えー、どこだここ。」

    はっきりと暗く映る自分の影はどれだけ見つめても行き先を示してはくれない。小さく溜息を吐きどうするかと思案をし始める。しかし辺りを見渡しても全く見覚えがない。というか恐らく家の近くだとしても越して来て数日なせいで覚えがないが。

    なんとか転校初日を無事に終え愉快な友人ができたことに喜び浮かれていたらこれだ。自信がないのなら無理を言ってでも彼らの内の誰かに道案内を頼むべきだったのだ。しかしジッとしていたところで家に帰れるわけじゃない。なんならついでにに並盛を散策しようじゃないか。足取りは軽く鼻歌まで歌ってしまいそうだった。流石にいくら人通りが少なくても恥ずかしいから我慢はしたが。

    「君はだれだい、僕はランボ〜。」

    しばらく歩くと自分ではない誰かの歌が聞こえた。声と歌い方からして子供だろうが。

    「僕はだれだい、君はランボ〜。」

    次第に大きくなる歌声は存外近かったようで角を曲がった直ぐそばを歩いていた。近くに大人が居る様子はない。俺と同じ迷子か親が放任主義で遊んで居るだけか。どちらにしてもこの時間に子供1人は幾ら何でも危ないだろう。恐怖心を与えないように子供の前にしゃがみ笑いかける。

    「こんにちは。」
    「んんんだれだ〜?」
    「名前だよ。君の名前は?」
    「俺っちはランボだもんね!」
    「ランボ、お家どこ?暗くなったら帰らなきゃ危ないよ。」

    俺とはまた違う危機感のなさを持っているのだろう、キョトンとした顔は微塵も焦った様子がない。子供特有の可愛らしさに微笑ましくなるもののそんな場合ではない。

    「迷子?お家分かる?」
    「ツナのとこ!」
    「ん?ツナ?沢田綱吉?」
    「そうだよ〜。ダメツナの家だよ〜。ママンのご飯美味しいんだもんね。」

    どういうわけかランボはツナの家に住んでいるらしい。全くと言っていいほどツナに似る要素がないので兄弟ということはないだろう。とりあえずランボを送り届ける先が知っている人間であることと、ツナにお願いしてどうにか自分も家まで帰れるだろうという気持ちに安心する。小さな体のランボを抱き上げると普段と違い高い場所に居ることに心なしか嬉しそうだ。

    「それじゃあ案内よろしくね。」
    「こっちだもんねー!」

    元気よく指を指すランボに従って歩みを進める。その間もご機嫌なランボは俺を子分にすると言ったり(誤魔化しつつ断った)最近ハマっているのはマフィアごっこらしく凝った設定に最近の子供は進んでいると驚かされたり。そんなこんなでしばらく歩いていると前から見知った顔が走って来ていた。

    「ツナ!」

    俺が声をかけると俺の腕の中にいるランボに驚いたツナが先ほどより幾ばくか急いで駆け寄ってきた。

    「名前!?ランボ!?う、うわあもうなんか色々察したよ…ごめんねランボ迷惑かけて…。」
    「全然、いい子だねランボ。ちゃんと家までの道覚えてんだもん。」
    「そんなこと言うの名前ぐらいだよ…。」
    「ランボってツナの弟なの?」
    「えっ!いや、その、えーっと……居候というか預かっているというか…。」

    どこか遠くを見つめ疲れ切ったツナの表情にあまりこの話は掘り下げるべきでないと察する。余程ツナはランボに振り回されているらしい。俺にはランボがそんなやんちゃには見えないけれど。いや、この時間まで一人で外で遊んでるたりすることを考えると気苦労は絶えないのだろうか。

    「本当ありがとう。またお礼するね。」

    そう言って歩き出そうとするツナの後ろ姿をみて何故自分がこんな場所にいるか思い出す。

    「あ、待って待って!ツナ待って!」
    「な、何!?」

    背中に縋るように飛びつけばオーバーなくらいに驚くツナ。ランボはすっかり疲れたようで俺たちの騒ぎ声なんて聞こえないようでぐっすり寝ている。

    「帰り道分かんないんだ!」
    「…え?」
    「迷ってたらランボに会って危ないから送っただけで送ってほしいのは本来俺なんだよぉ……。」
    「名前って方向音痴…?朝は来れたんだよね?」
    「ほっ方向音痴なわけないだろ!?朝は、あれだよ…同じ制服の人が前歩いてたからそれに…。」

    ツナの、方向音痴じゃん…という視線が痛い。方向音痴なわけではないんだ。ちょっと道を覚えるのが遅いだけで。

    「引っ越したばかりだから、ね?仕方ないでしょ?」
    「う、うん、分かった。分かったから。とりあえずランボ一旦家に置いてきてもいいかな?」
    「ツナ〜ありがとう!」

    一度ランボを置きにツナの家に寄ると家の前に居るだけでも聞こえてくる騒がしい声。おそらく全て子供のようで流石のこれにはツナが疲れるのも仕方ないと思ってしまう。ランボを置いてくるだけだというのに出てきたツナは先程より疲れた顔をしていた。

    「大丈夫?」
    「もう慣れたよ…。」

    苦笑いをするツナの肩を軽く叩きながら労わる。

    「それで名前の家ってどの辺なの?」

    そう言ってくるツナに俺はおぼろげな記憶で家の周囲の様子を伝える。呆れた顔をされたもののなんとかツナは分かったようで歩き出す。他愛もない話をしながら歩くと案外ツナ家から遠くなかったようで直ぐに我が家に着くことができた。

    「本当ありがとう。一時はどうなることかと…。」
    「そんな大袈裟な…でも役に立てて良かったよ。」

    そう笑って言うツナに漠然といい子だなあと思う。俺はいい友達を持ったものだ。

    「けど明日大丈夫?朝ちゃんと迷わず来れる?」
    「…だ、大丈夫。」

    現にこうやって送ってもらっているし今日の朝も前に並中生が居なかったらと思うと自信満々に答えることは出来ない。そんな俺に何を思ったかツナは少し考える素振りを見せてから意を決したように口を開く。

    「あ、明日一緒に行く?」
    「えっいいの?」
    「うん…名前さえ良ければだけど…。」
    「本当助かるマジで、ありがとうツナ。」
    「良かった、じゃあ明日朝迎えにくるね。」
    「お待ちしてます!」

    思ってもみなかった誘いにテンションは上がりまくる。これで明日も無事に学校に行けるのだ。元気のいい俺の返事にツナは一度笑った。俺も一緒になって笑うとなんとも和やかな雰囲気が流れ、一言二言交わしたのちにツナは帰っていった。

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