おはようから始めよう
    おはようございます

    「おはよう名前。」

    扉の先に居たのはツナだけではなかった。朝から機嫌が悪そうに眉間にシワを寄せた隼人とそれとは正反対に朝から清々しく爽やかな笑顔を浮かべる武。

    「おはよ、みんな。」
    「おう…。」
    「はよっす!」

    ツナ曰く隼人はいつも家まで来るらしく、歩いていたら山本に会いそのまま俺の家まで来てくれたらしい。朝から賑やかでそれでいて和やかな登校は楽しくてあっという間だ。まだ見慣れぬ校門の前にはさらに見慣れない光景が広がっていた。

    「な、何あれ。」

    門の前に居たのは黒い集団。近づけばそれが学ランであることが分かるが頭はリーゼントで学ランは学ランでも長ランで見るからに不良。それが門番のように立って居た。そしてその門を通る普通の生徒たちは怯えた顔をしている。見渡してみれば離れたところに怪我をした人もいていよいよ混乱に陥る。助けを求めようと3人を振り返ると顔が強張っているものの他の生徒や俺よりも動揺はないようだ。

    「ゲッ、抜き打ちかよ今日。」
    「ぬ、抜き打ち?」

    一体何のだ。財布の中身か?

    「あ、そうか名前は初めてだもんね…。」
    「あれは風紀委員だぜ。」
    「あの人達をまとめてる委員長が雲雀さんって言ってすごく強い人なんだ…。あの人の前で風紀乱したり群れたりなんかしたら大変な事になるから気をつけてね…。」
    「雲雀のヤローなんか気にしなくていいっすよ10代目。」
    「無理だって…。」

    3人の言ってることがいまいち理解できずに立ち尽くす。そもそも風紀を乱しているのは彼らじゃないのか。そして見るからに強そうな彼らをまとめられるそのヒバリさんとやらはどれだけ屈強な男なんだ。

    「多分今日は持ち物と服装検査だよ。名前は…髪さえ地毛だってちゃんと言えば普通に通れると思うよ。変な物も持ってないでしょ。」
    「獄寺は確実に捕まるなー。」
    「能天気なんだよテメエは!」
    「……。」

    最早どこから突っ込めば良いのか分からず俺の口からは何も言葉が出てこなかった。そして説明したから大丈夫だと思ったのか3人の足は再び進み出す。待ってください、怖いんですが。凄く怖いんですが。けれど置いていかれる方がよっぽど怖い気がした。俺はすぐさま3人の後ろに追いつく。ピリピリとした謎の緊張感が門の前を漂って居た。門の横には口に葉を加えた人がぴったりと立っていて反対側にはもたれ掛かりながら欠伸を噛み締めている人。この人だけ何故か学ランの裾は短く何なら一番この人達の中で小柄ではないだろうか。しかし欠伸の後の目つきはナイフ以上に鋭い物だった。ツナと山本に続き俺も門を潜ろうとする。



    「お、おはようございます。」



    「……。」

    挨拶をするものの目を向けられただけで返答がなくだからと言って目線を外してくれないから自然と足が止まってしまう。

    「…おはよう。」

    体感的に凄く長い時間の間があったかのように感じた。だって凄く目が怖い。睨んでいるのかこの人にとってはこの目が普通なのか分からないけれど生まれて今までこんな鋭い目で見られた事なんて無い。そしてようやく返された言葉は俺の挨拶への返事であった。

    「名前…!?」
    「ど、度胸あんのな……。」

    少し前で何故かツナと山本が驚愕しているが未だに俺は外れない視線から逃げることができずに居た。

    「君、見ない顔だね。」
    「昨日転校してきて。」
    「あぁ、君が。その髪は、地毛?」
    「そうですけど…。」
    「なら良い。」

    そこまで言うと視線はフッと外され俺の後ろに向けられる。

    「獄寺隼人。」
    「んだよ。」
    「言わなきゃ分からないかい?服とアクセサリー、校則違反だ。」

    俺に向けられて居た視線よりも何倍も鋭くなっているように感じるそれにも動じず隼人は服装を正す気配がない。門を潜った俺はツナと山本と共にいるがツナと山本は少し焦った顔をしている。校則を破った程度でそれ程までに酷い罰があるのだろうか?

    「直さないなら…今すぐ咬み殺す。」

    そう言った彼の腕にはどこから出してきたのか鉄製の棒のようなもの。只ならぬ雰囲気を流石の俺も感じ後ろを振り向くと山本が苦笑いしながら口を開く。

    「あれは仕込みトンファーで雲雀の愛用してる武器だ。」
    「武器ってんな物騒な……ってあの人が雲雀さん!?」

    どうりで1人だけ服や雰囲気が違うわけだ。それにしても校則を破っただけで暴力沙汰とはなんてバイオレンスな人なんだ。そしていよいよ仕掛けようと構える雲雀さんにツナはワタワタと慌てだし山本も冷や汗を流している。それを見る限り隼人を助け出せるほど雲雀さんという人間は容易に止められないらしい。雲雀さんが足に力を入れるのが見える。隼人は片足を引いて応戦する体制だ。

    「待って!」
    「…!?」
    「名前!?」
    「な、何して…。」

    無意識だった。無意識のうちに俺は飛び出して居た。

    「退きなよ。退かないなら君も一緒に咬み殺す。」
    「それは遠慮します!」

    腕も広げて隼人の前に立つも雲雀さんはなかなか武器を降ろしてくれない。隼人がやられるのを黙って見過ごすのも嫌だし俺が雲雀さんにやられるのもごめんだ。しかし出て来てしまったものは仕方ないし対処法を探すが一般人極めてる俺が武器を持っている雲雀さんに勝てるとも思わない。武器が無くても勝てないだろうけど。俺に退く気も戦う気も無いのを察しているはずの雲雀さんは構えを解かずにジッと俺を見ている。少しして呟くように言葉を落とす。

    「…君は何故さっき僕に挨拶なんてしたんだい?」
    「えっ、…え?」
    「挨拶なんてされたのは初めてだ。誰も僕に近寄らないからね。一体何故君は僕に挨拶をした?」
    「だって挨拶するのは礼儀じゃないですか…。」

    俺がそう言うと2つの驚きの声と1つの笑い声が聞こえる。前者がツナと隼人の声で後者は恐らく山本だろう。雲雀さんは鋭かった目が見開いていた。俺は何かおかしなことを言っただろうか。周りの反応に首を傾げていると突然空気が緩んだのを感じる。それと同時に雲雀さんの腕からトンファーとやらが隠れた。

    「確かに君の言う通りだ。」

    妙に納得した風に言う雲雀さんに今度は俺が虚を突かれる番だった。武器も仕舞われたことから俺の警戒は解かれ腕も力なく垂れ下がる。他の3人もどうしたらいいか分からないようだった。どうしたものかと悩んでいると雲雀さんの緩んだ瞳に再び鋭さが宿り思わず肩を揺らす。

    「でも校則は校則だ。今すぐ直さないなら…。」
    「なっ直す、直します!」
    「うわっテメエ触んな!」

    無理矢理隼人の制服を正し素早くアクセ類も外してしまう。髪と顔のせいで優等生には見えないが服とかはこれで校則通りになったはずだ。恐る恐る雲雀さんを振り返ると少し満足そうな顔をして居た。

    「次見つけた時は…分かってるね?」
    「は、はい!」
    「知らねえよ。」
    「隼人っ!」
    「今日に関しては群れてることも見逃してあげるけど次からは気をつけるんだね。」
    「?」

    群れとは何のことだ。さっぱり意味がわからない雲雀さんの発言を考えていると雲雀さんはもう俺たちに興味がないのか学ランを翻し去っていった。

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