Again to the world




始まりはいつも海だった。




日本の海だったり海外の海だったり、朝の海な事もあれば夜の海だったこともある。世界の流れが違っていても一人一人の本質は変わらない。沢田綱吉が大空みたいな人間であるのはボンゴレとは関係がなくどの世界でもそうな様に彼にとっての海がそれであった。

苗字名前と出会うのはどの世界でも海だった。少しずつ違うのにいつも僕は彼に一目惚れする。彼の目に映る海がこの世の何よりも綺麗なものに見えてしまう。それだけはどの世界でも不変だった。

彼だけが僕の味方だった。僕を赦してくれる存在だった。ミルフィオーレの一員だったこともボンゴレの一員だったことも、一般人だった事もある。でも何処でも彼は僕の側に居てくれた。自分自身でさえ僕でいいのかと思うし実際に聞いた事もある。けれどその度に名前は笑って「白蘭がいいんだよ。」と言うのだ。僕だって名前がいい。いつだって名前だけが居ればいい。

世界の次が名前だった。手に入れた世界で名前と笑えるのが幸せだった。それがまた僕の力の源だった。彼が他人と幸せそうにしているのも見ていられないし何より結局僕が彼のいない事に耐えられない。1つ、また1つ、僕と彼の幸せが約束された世界が形成されていく。

この世界の名前もある意味他と同じでいつもの名前で、ただ唯一他と違うところは僕がやっていることを何も知らない事だった。僕がやってる事を知らないながらに僕の側にいようとしてくれてミルフィオーレの下っ端の下っ端の会社。僕が表向きの会社をわざわざ作りファミリーと関係がないように見せたミルフィオーレが親元の会社で働いていた。そう仕向けた。真っ白なまま、綺麗なまま、ただの僕の恋人として普通の生活をしていた。1つイレギュラーがあるとすればボンゴレ10代目とその守護者達。正確には10年前の彼らだった。それのお陰でイレギュラーの連発。最早この世界は誰にも管理のできないものとなった。力づくで手に入れるしか無い。名前が近付かないよういつも使う「出張に行ってくるね」なんて嘘をついて。

それなのに、それなのに。


「びゃ、くらん!!」



「白蘭!!」



どうして君はここに居るんだ。


「困ったなぁ…。」

君の知ってる人達が居る中でも相変わらず僕のことしか見えてない君が、真っ直ぐに僕を見る君の瞳が愛しくて仕方ない。でも身体中の焼けるような痛みが君を抱きしめたいのに出来そうにないと告げる。僕が負けたらこの世界だけじゃ無い、全ての世界が変わってしまう。僕と君が居る世界が無くなってしまう。僕たちの軌跡が全て無くなってしまう。何よりもそれは、あまりにも。

「…ははっ、嫌だなぁ。」

ほら、笑ってよ。そんな泣きそうな顔しないでよ。そんな顔も凄く可愛いけれど君は笑ってた方がいいよ。だから笑ってよ。僕が居なくなっても、笑ってて。

「名前。」

いつも僕がこう呼ぶと名前が笑ってくれるから。いつもと変わらない、君に愛を囁くように。

ああでもやっぱり僕以外の人間が君の側に居るのは嫌かもしれない。何より許せない事かもしれない。君の笑顔を見れないのが何より辛い。君の側に居たい。そんな事に今更気付くなんて。結局、僕は世界よりも名前が愛しかったのだ。

最後に見たのは泣きながら必死にこちらに手を伸ばそうとする名前だった。その手を握ることは叶わなかったけれど。





「…世界が大事ですか?貴方が支配した世界が何よりも。」
「そう思ってたんだけどなぁ…そう思ってたのに、長く一緒に居過ぎたかな。僕は確かに彼が好きだったけど、でも優先したことなんて無かったんだよ。でも泣いたから。僕が居ない未来を嘆くから。例え僕が支配した世界でもし泣くことがあったら、そっちのが……僕が居る世界で、僕の側で笑ってて欲しい。僕の世界で泣くなら世界なんて要らないし僕以外の側で泣くのも笑われるのも嫌だ。ただ側に居て欲しいんだ。」
「素敵な人なんですね。私も会ってみたいです。」
「僕には勿体無いくらいにね。きっとユニチャンも気に入る……いや、ユニチャンでもそれは許せないな…。」
「…行きますか?」
「うん、きっと直ぐには会えないだろうけど。行くよ。…ありがとうユニチャン。」
「はい、また会いましょう白蘭。」



あぁ、長い長い夜が明ける。