夢を見る。
眠る度にあの日の夢を見る。
何週間かぶりに帰ってきた彼はいつもと変わらなくて、ただ、また何日か出張に行くと言って次の日には出て行った。笑った白蘭を僕も笑って見送った。
いつも通りな筈なのに何故か不安で、きっと直ぐに帰ってくるのに我慢出来ずに僕は家を飛び出して白蘭を探して。
見つけて。
白蘭は笑って僕の名前を呼ぶから。
手を伸ばしたのに。
届かなくて。
そしてまた目が覚める。
嫌になる程毎日毎日繰り返されるその夢。憂鬱になる程なのにそれでも寝るのを拒めないのは最後の白蘭の顔を忘れたくないからだ。何度苦しくても忘れるぐらいなら毎朝涙を流しながらでも僕はその夢を望む。
与えられた部屋で何をするでもなくただ天井を見つめる。沢田が指輪を返しに来てくれてそのまま僕は再び、沢田曰くボンゴレの基地に戻ってきた。家に戻る前に居た病室みたいな所ではなく、今度はただの個室のような生活感のある部屋を与えられた。以前と違って部屋の出入りは制限されていない。基地からさえ出ず、立入禁止区域さえ守ればそれなりに自由にしても良いらしい。と言っても用があるような場所は食堂や医務室、書庫ぐらいしかない。それでも僕が行けば気まずい顔や敵意が向くばかりで結局食事や本は部屋に持ち込んで籠りきりであった。
いつまでこの生活は続くのだろうか。住んでた家は解約してしまった。押収された物は結果として全て残っているが一度空っぽになってしまった部屋に戻そうと思えなかった。何よりあの部屋には思い出が詰まり過ぎて、いつ戻れるか分からないあの部屋に無駄な希望を持ってしまう。実は家に帰れば会えるんじゃないかなんて馬鹿みたいな希望だ。段ボールに詰められた思い出達は借りているこの部屋に積まれてそのまま、開ける気も起きない。仕事を失い、家も失くした。何かを沢田達に強いられる事も無ければ自分に欲も無かった。
僕はどうすればいいのだろうか。
「10代目に会いたい、だぁ?」
「う、ん…そう、じゅうだ…いやそう沢田………、入江さんでも良いんだけど。」
「言っておくが、俺はお前を信用してねえ。」
「知ってるよ…。」
ああ、これは相談する相手を間違えたかもしれない。獄寺は眉間に皺を寄せて訝しげに僕を見る。何日も部屋に籠って何をしたら良いかも分からず過ごすにも限度があった。時間があればある程白蘭の事を考えてしまう。思い出に縋り付いて苦しくなる。持たなくて良い恨みを持ちそうになる。悲しくて仕方なくても踏み込んでは行けない暗い思考に持っていかれそうになる。
だからどうにかやる事を見つけて時間を過ごす術を誰かに相談したかった。僕は外に出るにも何もするにも沢田の許可がいる身だ。新しい部屋を探すのも仕事を見つけるのも。
「だからっていつまでも世話になる訳にはいかないし。」
「……。10代目は、お前がいつまで居ても良いと思ってる。俺らがお前を信用してないだとか疑ってる事を関係なく、お前が…同級生だから。10代目はそういうお方だ。それに……。」
「…それに?」
「責任が、ある。」
「…は?」
「お前が、実際に白蘭のした事に関わってるかどうか関係なく、事実お前の………恋人、である白蘭を殺したのは俺たちだ。その責任は、ある。」
「っふ、ざけるな!」
我慢できずに叫ぶと同時に衝動に駆られた拳が壁を殴る。拳の痛みが気にならない程頭は焼ける様に熱い。
「何が、何が責任だ!マフィア如きが!ならお前らは毎回人が死ぬ度に残された家族を保護するのか!?善人ぶるな!僕にお前達の偽善を押し付けるな!同級生?関係ないだろうそんなもの。僕らが関わった事なんて殆どないだろう。そんなので僕を知った気になるな。勝手に繋がりなんて感じるな。僕とお前らは他人だ。お前らが感じてるのは責任なんかじゃないだろう!それは罪悪感だ!エゴだ!迷惑以外の何物でもない!!ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!」
疑われているだけなら許せた。白蘭への恨みが僕に向いてるのなら許せた。僕が白蘭の事を知らなかったのは自分で選んだ事だ。だから今この状態だとしても納得できた。なのに、こんな勝手な理由を許せるわけが無い。
「声、響いてるわよ。」
腹が立ってまだ何かしでかしてしまいそうな僕と、二の句が継げなくなってる獄寺の前に現れたのは長髪の女性だった。確か、彼女は獄寺の姉だったろうか。
「ゲッ、姉貴…。」
「隼人も貴方も落ち着きなさい。悲しみを紛らわしたい貴方の気持ちは分かるけどもう少し休んでからでもいいでしょう。」
「っあんたに!何が分かる!!?」
「…分かるわ、大切な人が居なくなる辛さは、」
「分かるわけないだろ!!」
「分かるわけが無い!だって、…だって、貴方の大切な人は帰って来たんだろう!?」
「っ、」
「苗字、」
これは言ってはいけない言葉だ。でももう口から出てしまった。頭では冷静に分かっているけどそれでも、僕だけが悪いのだろうか。そうして僕はそこから逃げ出した。獄寺が僕を呼ぶ声は聞こえていたけれど止まれなかった。これ以上余計な事を言いたくなかった。
「…ハッ、」
焼けた様な脳と叫んだ後の肺活量ではそんなに遠くまで行けない。しばらく進んだ先で獄寺達の声も届かなく、人気がなくなるとだらしなくも立っていられなかった。壁にもたれながらズルズルとしゃがみ込むと気持ちも一緒に落ち込んでいく。
僕は一体何をしているのだろうか。情けない。馬鹿みたいだ。僕が何をしたっていうんだ。何をすればいいんだ。どうすれば。
「っ……。」
口から溢れそうになる前に手で自分の口を抑えた。それは呼びたくて仕方なくて、けれど呼んでももう応えが返ってこない名前で。ああ、駄目だ、呼んじゃ駄目だ。今呼ぶと駄目になる。
「苗字さん…?ど、どうかしたんですか!?体調悪いんですか!?」
「……入江さん。」
「大丈夫ですか?動けますか?」
僕の目を覗き込む入江さんの目は心配の一色だった。僕と一緒にしゃがみ込んでどうしたら良いか分からずに落ち着きなく手は宙を彷徨っていた。そんな入江さんを見てると先程までの怒りは落ち着き途端に疲労に襲われる。
「大丈夫、です。すみません。」
「僕の研究室そこなので休んで行ってください。」
「いや、そんな…。」
「そんな顔色悪い人放って置けないです。戻るにしても休んでからにして下さい。」
そう力強く言いながら手を握られては流石の僕にも逃げれない。言われるがまま誘われるがまま僕は入江さんに連れて行かれた。