I'd like to meet my friend


「……それは、無理だ。」
「ハハッ、やっぱり?」
「自分の立場をもう少し考えるんだな。」

窓も無く、とても硬そうな扉のみがある部屋。壁は無機質な白でコンクリートよりも物々しさを出すこの場所は部屋というよりもただの箱のようであった。その箱は重罪人を閉じ込める独房だ。

白蘭とボンゴレの門外顧問ボスである家光は和やかとはとてもじゃないが言えない雰囲気で向かい合っていた。

「監視付きで出すのでさえ俺の一存で出せるものじゃない。そもそも生かされてる事自体が不思議なくらいだ。分かるだろ。いくら全て無かったことにされたからと言って許されるわけじゃない。今お前が安全である保証も確証も無いんだ。」

一定の間隔で行われる経過観察、及び事情聴取を行うのは実力的にも立場的にも殆どが家光によって行われていた。体調、精神面の調査をしながら思考を探るための世間話。幾度繰り返しても代わり映えの無い行為がこの日はどうにも違っていた。

そもそも家光の言う通り白蘭が生かされて居るのは異例のことだった。事実ボンゴレの幹部の多くは白蘭を発見後、直ぐに殺害するべきだと提言していた。またアルコバレーノの多くも彼の生存を良しとしない者ばかりであった。しかしボンゴレ9代目であるティモッテオは、マーレリング消失により7*ポリシーの脅威が無い今白蘭を殺すことは無意味だと告げた。けれど不穏分子を残す事への反対は消えない。更には苗字名前も捕まえるべきだと言う者さえいた。そんな事態を沈静化させたのはアルコバレーノであるリボーンとユニであった。リボーンとしては綱吉の成長や性格を考えて生かしていた方が良いと考えていた。また未来で最後に見た綱吉の同級生だと言う青年、苗字名前の事を考えてだった。

「白蘭を殺す事によって要らぬ憎しみを生みかねねぇからな、苗字名前の監視は俺がする。」

ユニはただ白蘭の安全性を説いた。

「彼はもう大丈夫です、私が保証します。ただ一人を愛しているだけの人間です。苗字さんも心配する事はありません。彼はとても優しい人です。」

発言権の強い三人にこうも言われては幹部も押し切れなくなり苦肉の索が取られた。白蘭は安全性の確認が出来るまで監禁による経過観察。そして名前は様子見としてリボーンが監視することとなる。それでは意味がないと最後までユニは反対していたがボンゴレとの関係を考えると強く出れず頷くことしか出来なかった。



「並盛に行きたい…しかも苗字名前に会いたいなんて、許されるわけが無いだろうそんな事。」
「うーんダメかぁ…もう何もするつもり無いんだけどな。でもさ、信頼だとか安心だとかそんな目に見えないもの証明の仕様が無い。そこんとこ、どうするつもりなの?永遠にこのままなんて無意味な事するつもりはないでしょ、ボンゴレも。そのつもりが無いならさっさと殺してるハズだ。」
「それこそ時間をかけるしかない事だ。お前が長い間大人しく何もしなければそれが信頼に繋がるだろう。」

白蘭は声に出さずにそりゃそうだ、と思う。ただいくら長期戦を覚悟していても早いことに越したことはない。いつだって会いたいと思ってる。早く名前の元へ、目覚めた時から白蘭の心中はそればかりだ。

「そもそも会ってどうする。苗字名前を誑かしてツナに近付くつもりか?ボンゴレ10代目候補はもうツナぐらいしか居ないからあいつが消えればそりゃやりやすいか?」

家光は鋭い目つきで白蘭を見ていた。白蘭の真意を探るように、何処か落とし穴が無いか探すように。家光もまた白蘭の生存を良しとしない者だった。それを隠すことも無く糾弾するが白蘭はただ目を見開き何かに驚いたようだった。

「…何かおかしいと思ったんだ。君達の誰に名前の事聞いてもみんな同じような事を言うから。監視なり色々調べてるんだろうけど名前を調べても何も出てこない。何も出てこないから焦ってるんだ。けど無駄だよ。だって名前はマフィアなんかと関係ない、ただの中学生だ。僕が彼に会いたいのは引き込みたいだとかそんな汚いもんじゃない。ただ会いたいだけだ。ただ好きだから、会いたいんだ。」

今度は家光が驚く番だった。いつも飄々とし掴み所がなくこちらに不信感を募らせるばかりの男が初めて人間らしく思えた。息子より数個しか変わらない年の男の初めて垣間見る人間らしさと逆に年相応ではない表情は、普段の顔より幾分か信頼出来るものだった。

「…なら尚更だ。いつか来るべき時が来るのを待つしかない。お前が不用意に苗字名前に近付けばそれもまた彼の不信感を増す材料にしかならん。」

いつかっていつ?そう言えたらどんなに楽だろうか。あんなにも世界を征服していた時は無限の時間もあっという間に感じたのに。ユニと話していた長い筈の時間もあんなに早く感じたのに。一度恋しく焦がれてしまえば短い時間が永遠にも感じられる。白蘭はきつく瞼を閉じ、いつか見た海を思い浮かべる。それも、もうとっくに色褪せてしまったけれど。

「じゃあ、海がいい……何処でもいいから海に行きたい。鎖なり何なり好きなだけ着けて良いから、海を、一目でいいから見たいんだ…。」

家光は苦しげにそう言う白蘭をどう扱えばいいか分からず、ただ黙って部屋を出て行った。残された白蘭はベッドの薄いシーツを手繰り寄せ頼りないか細い声で名前の名を零すがそれは誰の耳にも届かない小さなものだった。