Here is a turning point

シモンファミリーとの誤解が解け、D・スペードとの戦いも終えた束の間。戦いでの傷を癒し冷静になってようやく自分達の周りの事に目を向ける事が出来た。綱吉、獄寺、山本は集まり1つの問題について話し合う最中であった。

「…話すべきだと思う。苗字くんは白蘭を好きって言った。生きてるなら教えた方が安心できるんじゃないかな。」
「すみません10代目、俺は反対です。」
「獄寺君……。」
「アイツは10代目、ボンゴレに直接宣戦布告しやがった…生きててもボンゴレに捕まってんなら助けに行くかもしれません。それにもし白蘭と苗字が出会って何も企まないとも。」
「だからそれはもう大丈夫だって言ってんだろ?もう白蘭も変な事考えてねえって、あの顔はそういう奴の顔じゃねえよ。苗字もそんな事する奴じゃねえって!」
「お前の目なんか信用できっかよ!」
「おっ、落ち着いて獄寺君!」

水野薫によって重傷を負った山本の元に現れたのは正真正銘本物の白蘭であった。朦朧とした最中に一言会話しただけで、目が覚めた時にはもう姿はガラス越しでしか見れずその後すぐにボンゴレ関係者に連れられて去った為、会話をすることは叶わなかった。残ったボンゴレの人に話を聞いても特に詳しい事は教えてもらえずただ今白蘭の身元がボンゴレにあるという事実のみしか分からなかった。現在どれ程厳重に監視されてるかなど彼らは知らない。しかし確実に生きているならば自分達を憎んでると言った名前を一先ず安心させられるのでは、と綱吉は考えた。しかし会う事を約束出来ない上に安全が保障されてないなら教えないべきだと言うのが獄寺の考えであった。いつも通り綱吉の部屋に集まっていた彼等のこの話は何時間も行われているが一向に平行線を辿っていた。山本のみ終始どちらとも言えない答えを繰り返している。

「苗字は白蘭を探してる、白蘭だって同じだ。苗字は白蘭が生きてるのかさえ知らないから安心させた方が良いのかもしれない。」
「山本っ。」
「けど!……だけど、白蘭は俺に苗字を頼むって言った。今会えないからだ。変に期待させんのは酷じゃねえかとも思うんだよ。」
「でも…!」
「そこまでだ。」

終わりの見えない話し合いの中突如現れた声に3人は水を打ったように静かになる。彼らが思わず黙ってしまうような相手は1人しかいなかった。

「リボーン!」
「これ以上苗字名前と白蘭について深入りするな。」
「何で、クラスメイトなんだよ苗字くんは!」
「俺ら当事者だぜ?」
「お前らガキはじっとしてろ。これは大人の問題だ。」
「リボーンがそれ言うか!?」
「うるせえな、時期じゃねえって言ってんだ。今回の山本の件で上も現状を見直さざるを得なくなってんだ。でも直ぐって訳にも行かねえ、白蘭が今のまま大人しくしてる保証もねえ。変な期待を苗字名前にさせるな。」
「でも生きてるかぐらい…!」
「ボンゴレは苗字名前を少なからず気にしてる。俺にも一応見ては置けって言われてんだ。これ以上ややこしくはさせたくないだろ。」
「苗字くんが何かするとでも思ってるのかよ!」
「それは直接言われたお前が一番よく分かってんだろ。危害云々だけの話じゃねえんだこれは。」

矢継ぎ早に自分達の考えをリボーンは否定をする。けれどどれも事実であった。だからリボーンの言う通りにするのが正しいのだと頭では理解していた。けれど納得は出来ないのが綱吉と山本だった。

「10代目、ここはリボーンさんの言う通りにしましょう。」
「獄寺くんまで。」
「俺らにはどうする事も出来ないっすよ。10代目が望む未来の為には……あいつらを信じるしかねえんじゃないんすかね。」
「おっ、珍しくいい事言うなぁ!」
「茶化すな野球バカ!」
「……そうだね。」

直接言われた綱吉だけは分かっていた。確かにリボーンの言う通りだけれど、あの放課後教室で話した時。あの時からどうしても彼の顔を見ると不安に駆られたのだ。



「死ぬ気か?」
「……まさか。」

月の光しか頼りにできない朧げな夜の海に名前とリボーンは出会っていた。突然現れたリボーンに驚きもせずただ名前は海を見つめていた。

「海を自ら汚すなんて真似しないよ。……初めまして、だよね。アルコバレーノのリボーン。」
「そこまで調べたのか。」
「最大規模の組織やそこに関係する伝説級の話なんて調べれば直ぐだよ。人の口に蓋は出来ないからね。でもまさか本当に赤ん坊だとは。」

ゆっくりとこちらを向く姿に、日本に来る際に見たクラスメイト達の資料に写っていた穏やかさは見る影もなかった。

「死ぬ気だな、お前。敵討ちはいいのか?」
「沢田に脅されてさ、そんなことする僕を白蘭はどう思うんだ〜って。生きてないなら意味ないのにね、もしって思ったらどうにも出来ない。なら、僕はどうすればいい?白蘭を好きになる前の自分に戻れないんだよ。どうすればいいって言うの。」
「知らねえな。」

リボーンの突き放す言葉にも表情1つ変えず名前は再び視線を海に投げた。その瞳に映る海は深く暗くまるで深海の様だ。

「僕は海が好きでね、よく来るんだ。広くて深くて自分の小ささを思い知る。……でもね、光に反射する海はとても綺麗なんだよ。朝の眩い光も、昼の照った光も、夕方の色の付いた光も、この月の光も全部。世界はこんなにも美しいんだって思えるんだよ。」
「だから海では死ねねえのか。」
「そう、この海を汚すわけにはいかないからね。……でもね、少し疲れたんだ。」

言外に海以外では死ねると言う名前にリボーンは珍しく言葉を選んだ。突然裏社会に巻き込まれた名前を表に置いておく方法、そして綱吉達に良い影響を与える方法を。彼の死は誰にも成長を促さない。ましてや現状大人しい白蘭が万が一にも名前が死に、それを知るとその影響は計り知れないだろう。折角未来を救ったと言うのにまた振り出しに戻る。それどころか前回よりも酷い結果をもたらす可能性もある。今一番のベストは名前が生きたまま大人しくする事だった。

「死んだって良い事ねえぞ。」
「マフィアが綺麗事なんて言う?」
「まだ死ぬには早いって言ってんだ。掴めてねえんだろ、あいつが死んだかどうか。」
「君は知ってるんでしょ。」
「そもそもお前にマフィア云々を話したのもツナの独断なんだぞ。知ってたら止めていた。この件の多くは上が止めてる機密事項だからな。白蘭については特にだ。」
「生きてるかどうかぐらい良いだろ!」

名前の瞳に映る波は彼の激情と共に激しく揺らいでるように見える。そうまでして会いたいものかと、到底リボーンには理解出来ない。

「もう一回だけ言うぞ、死ぬには早え。未来の為に、大人しくしてろ。俺にはそれしか言えねえからな。」
「何を………。」
「これを希望と捉えるか絶望と捉えるかはお前次第だぞ。」
「っ……まさか、白蘭は……!」
「ここまでだな、チャオ。」

リボーンの去った砂浜で項垂れる名前には確かに僅かだが希望の光は見えていたのだ。確かに、海を照らしている月のような朧な光が。