It can't be a child

「改めて白蘭、来てくださりありがとうございます。」
「他でもない、アルコバレーノのボスであるアリアさんに頼まれたら動かない訳にはいかないよね。」
「しかし脱走なんて手を使わせてしまい申し訳ありません。…この戦いが終わればアルコバレーノのボスとしてボンゴレとはお話しますので。」

日本に向かう移動中の車内、白蘭とユニは向かい合っていた。運転席と仕切りがあるこの車に2人きりで乗せることをγは最後まで反対していたが、ようやく会えたボスの命令ともなると無下には出来なかった。無論彼には彼でボスに話したい事や未来の事、自分たち自身の事の話をしたいことがある。その上あんな未来があった為そもそも会ってすぐ、少しと言えど離れたく無いのが心境だ。しかしそんなγの心境を知ってか知らずか白蘭はユニをエスコートするかの様に車に案内し、ユニは予定より早い母の引退で引き継ぎ、ボスとしての責任を感じていた。

「んー、いくら僕でも苦労すると思ったんだけど。ボンゴレにしては簡単だった気がするんだよね。君のお母さんが9代目に話を通してた可能性もあるかもよ。」
「お母さんが……。」
「それに君は僕を連れ出した責任があるんだから長生きしてもらわないとね。」

白蘭がそう言うとユニはさっきまでとは違い苦しげな笑顔を浮かべた。それには白蘭も怪訝な顔をせざるを得ない。

「この戦い、私達は優勝を目指しません。リボーン叔父様達のチームを勝たせる事に尽力します。」
「γクンを乗せなかった理由はこれ?ハハッ、ユニチャンってそんなに慈善的なんだ?僕ビックリだよ。」
「白蘭にも無関係ではないんです。」
「…どう言う事?」
「私にもまだ詳しくは分かりませんが、アルコバレーノが関わると言う事は7³に無関係では有りません。それはマフィア界全体に関わる話ですし、マフィアとも7³とも深く関わった貴方にも無関係では無くなる。具体的な物は見えませんでしたが、リボーン叔父様、ひいては沢田さんの勝利が一番良い未来だと見えるんです。」
「……それは、僕と名前にとっても?」
「はい。」

そうハッキリと断言するユニに思わず白蘭は溜息を零す。アリアの願いも白蘭の目的もユニを優勝させ延命させる事だったが当の本人は全くそのつもりが無いらしい。そうなれば白蘭のやる事は一つだ。

「ならリボーンチームと同盟を組むのが一番だね。」
「っ、白蘭…!苗字さんには……。」
「分かってる、会わないよ。まだ僕の命綱はボンゴレが握ってるからね。」

丁度よく停車中な車のドアを開く。ユニ達と飛行機で日本に向かうよりは白蘭が単身で先に向かう方が早い。白蘭は車から降りると白い翼を広げて飛び立った。



「……そう言うことだから、まあ後の判断は任せるよ。組む気があるならこっちの拠点を後でリボーンクンにでも教えるから来てね。僕も今忙しいから、またね。」
「まっ、待てよ白蘭!」
「…何かな綱吉クン。」

ユニに告げた通り、リボーンチームと同盟を結びに来た白蘭は綱吉達に用件を告げ去ろうとした。それを止めた綱吉は何かを言うか言うまいか悩んでいる様だった。その場にいたCEDEFの人間もリボーンも、白蘭本人を含めた全員が、彼が何を言いたいのかは分かっていた。大人は分かっている、彼にそれを聞くことが彼を苦しめる事を。綱吉だけがこの場で一番幼く、ただ真っ直ぐだった。

「苗字くんに…会わないのか?」
「会わないよ。」
「何でっ…!」

家光は白蘭の表情に見覚えがあった。あの真っ白な部屋で見たこの男の、人間らしい顔。一目会おうと思えば会える現状で、それを選ばない程、確実な未来のみを白蘭は求めていた。

「今会いに行けば君のお父さんに名前ごと捕まりかけないしね。」
「そんな!」
「まだまだ子供だねえ、綱吉クンは。」

この戦いで死ぬかもしれない。もし生きて戦い終えてもまたボンゴレに監視される生活に戻されるかもしれない。今会えば名前にも危害が加わる。そんな沢山の理由が白蘭と名前の距離を遠ざける。大人は分かっていた、そんな白蘭の思いを。

「それじゃ本当にそろそろ行くよ。ユニチャンを迎える準備もしないとだから。あ、僕の脱走の件は9代目に聞いてみてよ家光サン。」
「待て、白蘭!」

今度こそ白蘭は綱吉の制止を聞かなかった。飛び立つ白蘭の翼からは数枚の真っ白な羽が舞い散った。





普段の並盛は並中の風紀委員という存在が厳つくはあるが穏やかな町だ。しかし最近の並盛は随分と殺気立った雰囲気を出していた。町全体がヒリついていると感じるのもあるが、どう見ても堅気の人間に見えないのを見かけるようになった。僕はそういう人間が並盛に集まる理由の一つに心当たりがあった。恐らく沢田がボスであるボンゴレが関係してるのだろう。同級生の何人かが最近慌ただしくしたり謎の転校生が来たのが物語っている。

「巻き込まれなきゃいいんだけど。」

白蘭を知りアルコバレーノのリボーンに監視されたり沢田と同級生でボンゴレを知っているという立場上、全くの無関係とは言えないが僕は一般人だ。今のところ何かをした訳でもないし規制をかけられる所まで探ったつもりも無い。今並盛が危ないとしても首を突っ込まなければ問題はないだろう。

日曜日の朝、僕は図書館に向かうために歩いていた。粗方、ネットで得られる情報は得てしまったし、沢田やその周りに聞いてもこれ以上何の情報も得られないだろう。イタリアの情勢やマフィアについてなら本を見れば歴史が分かるだろう。図書館なら新聞も置いてるから今の向こうの事も何か分かるかもしれない。もし何か分かれば数年前に取ったパスポートが役に立つかもしれない。少しでも可能性があるならイタリアにだって、ボンゴレにだって乗り込んで手掛かりを見つけてみせる。リボーンの言い方なら、きっと生きているはずなんだ。なら僕は絶対に白蘭を見つけてみせる。

そう意気込みながら歩を進める。日曜日の朝ともなれば住宅街も閑静だ。強く吹く風の音がよく聞こえる。目が痛くないよう風が止むのを瞑って待つ。音が止んでようやく開くと目の前に白が散った。何事かと正体を探すと白い羽が地面に落ちていた。真っ白な羽。鳥の羽、にしては随分と綺麗だった。何故か惹かれるその羽を手に取る。ああ、やはり。僕はこの羽に不思議と見覚えがあった。何処かで見たのだこの真っ白な羽を。

「びゃく…らん………?」

その羽は、夢で見た白蘭の背に広がるものによく似ていた。