雁字搦めに呪詛をかけて

あ、リドル。

教室に着いた時、廊下で声が聞こえた時、談話室に入った時。最近の私はいつも最初にリドルを探していた。





今日も魔法薬学の教室に着くなり彼の姿を探してしまう。あ、居た。純血のお友達という名の取り巻きに囲まれて、教室の一番前、しかも中央の席に着いていた。

優等生は真面目で偉いわね、なんて考えながら私達も、私とソフィー、マリーとエマに別れて出口付近の席を確保する。
「ここならミスター優等生が良く見えるわよ」と、どこで知ったのかリドルの事でマリーにからかわれ、私は思わず「マリィ!!!」と顔を真っ赤にしながら叫んでしまった。

バタンッとドアを開く音と共にスラグホーン先生が教室に入ってきて、ザワザワと騒がしかった教室が一瞬で静かになった。
スラグホーン先生を見ようとすると、自然とリドルが視界に入る訳で。


(こうして見るとかっこいいんだよなぁ)


リドルを見ると何故か心臓がギュッと鷲掴みされたような気持ちになる。
きっとリドルが無理矢理私の心臓を魔法で動かして、強制的に血液を身体に巡らせているんだ。そうに違いない。


「どうしたのエルザ?百面相して」

「いや、別に」

「ああ!またトムの事見てたのね?」

「違うわ!私リドルの事なんて」

「ソフィー、マリー!エルザはウブなんだから優しくしてあげないと」

「エマ!!」


授業が始まったというのに私の班は誰もスラグホーン先生の話を聞かず、リドルの話をして私をからかい楽しんでいる。恥ずかしさのあまり赤く染まった顔を冷やすように手で仰ぎながら、私はスラグホーン先生の話に耳を傾ける事にした。





「愛の妙薬、ねぇ…」


授業も終わり、私は一人さっきの授業で使った教科書やレポートを持ったまま図書館へと向かっていた。

今日の授業は教科書に載っていない魔法薬の効能や材料、作り方の解説だった。スラグホーン先生の解説はとても分かりやすくて面白い。その話の中に、やけに注目を集めた魔法薬があった。


『愛の妙薬。相手を一時的に魅了させる薬。効果を継続させるには定期的に飲ませる必要がある』


さすがに生徒に作り方を教える訳にはいかないと思ったのか、そこだけ話をうまく誤魔化されて知る事は出来なかったけど。

…図書館に行けば作り方、見つかるかしら。

そう考えた私の足は自然と図書館へ向かっていたのだ。

もし愛の妙薬が作れたら、私は誰に使うのだろう。
真っ先に頭に浮かんだのは、最近一緒に朝食を取るようになった彼の姿。


「いや無い無い、私ってば何を考えて」

「何が?」

「キャッ!」


突然背後から話しかけられて驚いた私は、ドサドサッと手に持っていた教科書を見事に落としてしまった。一体誰が、と振り返ればそこには私が一番会いたかった人。


「リドル、貴方どうしてここに…」

「図書館で勉強しようと思って。エルザは?」

「わ、私も同じよ」


リドルは落ちた教科書を全て拾い、丁寧に埃を払ってから私に差し出した。


「ありがとう。驚いてしまってごめんなさいね。今まで背後から驚かされた事が無くて」

「驚かせるつもりは無かったんだ」


せっかくだから一緒に図書館へ行こう、とお誘いを受けた。断る理由も無いので承諾し、並んで廊下を歩く。ちゃっかり私の荷物を持ったまま、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩くリドルは本当に紳士的だ。


「このレポート、さっきの授業についてよく纏めてある。とても分かりやすいよ」

「あら、おだてても何も出ないわよ?」

「本当に分かりやすいんだって」

「首席様に褒められるなんて光栄ね」


もう次の授業が始まったのか、リドルと私以外誰もいなかった。二人分の足音とレポートを捲る音だけが廊下に響く。


「っ…」


突然リドルが立ち止まった。何故かレポートの一点を凝視している。どうしたの、と尋ねるより早くリドルの口が動いた。


「ねえ、愛の妙薬について特に纏めてるみたいだけど興味あるの?」

「え」


リドルが愛の妙薬、と言った瞬間、彼の雰囲気が変わった。ピリッと肌を刺すような、そんな空気。


「痛っ!」


「興味無いわ」と返す前に思いきり肩を掴まれ、そのまま壁に突き飛ばされる。
視界の端で私の教科書が無残にも転がっている姿が見えた。無意識に抵抗するも所詮女の力じゃ逃れる事もできない。リドルの右手が私の顎を掴み、無理矢理顔を上げさせる。視線が、交わる。

そこにはいつもの茶色い瞳では無く、燃えるような赤い瞳があった。

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