クリスマス休暇は毎年ホグワーツに残る組だった俺と厨二病女だったが、今年の名簿に「イヴ・アスター」と厨二病女の名前は無かった。リーマスから渡された紙をひっくり返したり振ってみたりしたが何も起こらない。

入学してからずっとクリスマス休暇は残ってたじゃねえか。急に、なんで。

ああ、名前を書き忘れたのか。そう思った俺は、夜の談話室で1人ソファに座り、厨二病女とエバンズが大広間から戻ってくるのを待つ事にした。ジェームズ達と一緒に居る時に話しかけたら絶対からかわれるし。

時計の長針が半回転した頃、大広間から厨二病女とエバンズが戻ってきた。俺の方をチラッと見た後さっさと女子寮に戻ろうとする厨二病女にイラッとしながら、俺はソファから立ち上がり2人を引き止めた。


「おい、厨二病女。名簿に名前書き忘れてるぞ」

「…書き忘れてなど無いわ黒犬。今年は残らん」

「はあ?いつも残ってただろうが!なんでだよ」

「貴様には関係無い。リリー、行くぞ」

「おい待てよ!」


咄嗟に厨二病女の腕を掴もうと手を伸ばすが、俺が掴むよりも早く腕を引っ込められてしまう。伸ばされた腕だけが行き場を無くして空中に留まる。厨二病女はギロリ、と俺を冷たく睨みつけ、フン、と鼻を鳴らした後すぐに階段を駆け上ってしまった。呆然とする俺をエバンズが憐れむような目で見上げる。やめろ、そんな目で見るんじゃねえ。


「イヴ、今年は家に帰るのよ」


エバンズはそれだけ言うと厨二病女を追いかけて行ってしまった。入れ違うように男子寮からジェームズ達が降りてきて、棒立ちになっている俺を呼ぶ。


「おーいシリウス!…君、何かあったのかい?」

「なあ、ジェームズ。今年はお前ん家に行っても良いか?」

「えっ!ほんと!僕は別に良いけど…厨二病ちゃんの事は?」

「別に。知らねえよあんな奴」


あんな奴、と吐き捨てる俺にリーマスが顔を顰めた。誰とも目を合わせたくなくて地面を睨みつける。「とりあえず部屋に戻ろうか」と言ったジェームズは、俺が口を開く前に腕を掴んで「レッツゴー!」と意気揚々と歩き出してしまった。





「それで、シリウスが僕の家に来るとしたら厨二病ちゃんはどうするんだい?」

「…」

「イヴも今年は家に帰るんだって。弟達の面倒を見なきゃいけないらしいよ」

「へえ、そうなんだ」


部屋に着いて1番最初に口を開いたのはジェームズだった。地面を睨みつけたまま口を開かない俺に変わってリーマスが説明した。新情報に思わず顔を上げてリーマスを凝視してしまう。なんでお前がそんな事知ってるんだよ。弟が居るなんて初耳だぞ、俺。

リーマスは俺の心を読んだのか、「この間図書館でイヴから聞いたんだ。シリウスを1人にさせて申し訳ないって言ってたよ、イヴ」と俺を慰めるように言った。あの厨二病女!余計なお世話だ、クソ!


「ふーん、厨二病ちゃんシリウスの事心配してたんだ。へぇへぇ、なるほどね」


良かったね、脈アリじゃん。そう言ってニヤニヤしながら俺を小突くジェームズの手を叩き落としてやった。


「厨二病女が俺の事を心配だ?あるわけねえだろ、そんな事。リーマスへのポイント稼ぎに決まってる!あいつがホグワーツでエバンズとスニベルス以外に名前を呼ぶ奴なんてリーマスしか居ない。あいつが好きなのはリーマスだろ!」

「あのね、シリウス」

「なんだよ!」

「誤解されないよう言っておくけど僕は別にイヴに対して恋愛感情は持っていないし、彼女だって僕の事は良い友人くらいにしか思ってないよ」


激昂する俺に「まだ僕が名前で呼ばれてる理由が分からないの?」と冷たい視線を向けるリーマス。見た事無い親友の姿に息を呑んだ。


「君さ、イヴの事厨二病女、厨二病女って揶揄ってばかりでちゃんと名前呼んだ事無いでしょ。だから彼女からも名前で呼んでもらえない。君が厨二病女って言う度に反抗するように黒犬って言ってた事、気づいてた?」

「っ…」


全く気づいてなかった。なんだよ、それ。俺があいつの事名前で呼べばちゃんとあいつだって俺の事を名前で呼んでくれたのか。そんな簡単な事に気づけなかった自分にイラついて、イラつく理由が分からなくて気持ち悪くてムカムカして。ごちゃ混ぜになった感情を抑えようと唇を強く噛み締める。


「僕が毛玉って呼ばれるのも?」

「それが理由だよ」


「へー。じゃあ明日試しに名前呼んでみようっと!」と呑気な声を上げるジェームズ。俺はこれ以上話を聞きたくなくて自分のベッドに飛び込み、カーテンを閉めた。
「シリウス!」と俺を呼ぶ声が聞こえたが無視して布団を頭から被る。しかし、すぐにシャッとカーテンを開けられてしまった。ったく、誰だよ。鼻から上だけ布団から出してそちらに視線をやる。カーテンを開けた犯人はリーマスだった。


「シリウス、名簿が明日提出だから返して」


俺はリーマスの手に無言で名簿を叩きつけ、カーテンを目の前で閉めてやった。

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