どうしてこうなった。

今日はクリスマス・イブ。遠くの方で古びたスピーカーからクリスマス・ソングが流されている。そんな中、俺はエバンズから渡された紙を頼りに1つの建物の前に立っていた。スピナーズエンドの外れにひっそりと隠れるようにして造られた教会。ところどころ壁にヒビが入っていて、修復や建て直しができる程裕福な環境じゃない事が伺える。

…ここにイヴが住んでいるらしい。

何度も教会の扉の前を行ったり来たり。ノックしようとしても、どんな顔をして会えば良いのか分からない。いっその事もう帰ってしまおうか、と思い教会に背を向けると。


「お?なんだここ」


生け垣の隙間に人ひとりが入れそうなくらいの穴が空いている。ここから入ったら、少しだけイヴの姿が見れるかもしれない。そう思った俺は、生け垣の隙間に身体を押し込めた。


「_は___だぞ!」

「わっ___や_」


生け垣を抜けた先には小さな広場みたいなのがあって、そこで子供達がキャーキャーと甲高い声をあげながら遊んでいた。5.6人ほどの子供の輪の中心に頭一つ分飛び出した子供がいる。太陽を浴びてキラキラ輝く黒髪を見て、ああ、あれがイヴなのか。と思った。

いつもの包帯は無く、白い腕が外にさらけ出されている。白いシャツに紺色のスカートを履いていて、スカートから見える脚にも包帯は巻かれて無かった。普通は包帯を巻いている方が違和感を感じるはずなのに、イヴが包帯を巻いてない姿に違和感を感じてしまう。それ程長い間過ごしてきた、という事なのだろうか。

このまま生け垣の前で立ち尽くしていてもただの不審者だ。子供達に囲まれて幸せそうに笑っているイヴだったら、この前の事を許してくれるかもしれない。
よし、と気合を入れるように両頬をパシンと叩く。行ってやる。と大きく1歩を踏み出した。


「よお、イヴ」

「な、なななんで!!」


ファーストコンタクトは失敗したようだ。俺の姿を見た瞬間イヴはひっくり返って地面に転がった。アクロバティックな動きを見せられて、思わず「おお〜」と感嘆の声をあげてしまう。
イヴはキッと俺を睨みつけると、「どうしたの?」「あの男の人誰?」と動揺する子供達の頭をぽんぽんと安心させるように撫でた後、子供達に自分の背中より後ろに回るよう指示を出した。


「イヴお姉ちゃん、あの男の人誰?」

「カーッカッカッカ!遂に現れたな!?「永久舞踏曲(エターナルロンド)」が幹部、黒犬男爵よ!!我がダークサイドドラゴンを手中に収めるなど一億光年早いわ!!出直すが良い!」

「一億光年って光の速さの事だろうが。って誰が黒犬男爵だ!!」

「グッ…ふ、不覚!!黒犬男爵は幹部クラス、言葉による攻撃をしてくるとは…!如何に我が闇の魔法使いを超える暗黒魔女だとしても、我ひとりでは戦えぬ…力を貸してくれる勇者は居るか!?」


はーい!と子供達が元気よく手を挙げる。まさかこれって。イヴを見ると、イヴもこちらを見ていた。視線だけでやり取りする。なるほど、こうやって子供とごっこ遊びをしようってわけか。


「ならば行け!勇敢な戦士達よ!!黒犬男爵を打つのだ!!」


イヴが俺を指さすと同時に、子供達が「かくごしろ!」とか「くろいぬだんしゃくめー!」とかバラバラに叫びながらこちらへ突進してきた。


「はかいしんパンチ!」

「しんえんキック!」

「あくまのかいてんぎり!!」


それぞれ必殺技を叫びながら俺の元へと突っ込んでくる子供達。所詮4.5歳児のパンチやキックなど痛くも痒くもない。


「ぐわぁぁやられたぁぁ!!」


喉元を抑えて呻き、そのまま地面に倒れる。見たかガキども、俺渾身の演技を!!と少しだけ顔を起こして子供達を見上げる。


「やったー!!くろいぬだんしゃくをたおしたぞ!」

「おれたちはさいきょーだ!!」


キャーキャー甲高い声で喜ぶ子供達と、穏やかな笑みを浮かべて微笑ましい様子を見守るイヴ。

それに、そんなイヴから何故か目を離す事ができない俺。


「くろいぬだんしゃく!高い高いしてー!」

「ぼくも!」 「わたしもー!」

「うわっ!」

「こらこら、黒犬男爵はひとりだけだ。順番こで並ぶんだぞ」

「はーい!」


日が暮れて教会のシスターが様子を見に来る時まで、俺は時を忘れてイヴと共に子供達と遊んでいた。

…イヴの態度がいつもと変わらなくて、少しだけホッとした。

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