「あと5分!」
フリットウィックのキーキー声が試験会場に響き渡る。「闇の魔術に対する防衛術−普通魔法レベル」の問題を早々に解き終えた俺は、椅子を反り返らせて2本脚で支え、大欠伸をしながら辺りを見渡した。
あ、ジェームズ。
ジェームズも欠伸をして髪をくしゃくしゃにすると、くるりと振り返って俺の方を見た後、ニヤリと笑った。どうやら無事問題を解けたらしい。俺もジェームズに親指を上げて合図をする。ジェームズも親指を上げた後、前を向いて座り直した。俺はジェームズの右斜め後ろに座って居るイヴの方に視線を移す。あいつは両手を頭の上で合わせてブツブツと謎の呪文を小声で唱えていた。多分答えが分からないから神にでも祈ってるんだろうな、とイヴの後ろ姿をぼんやりと見つめる。
「はい、羽根ペンを置いて!」
パタパタと一斉に羽根ペンを置く音が響く。アクシオで飛んでいった羊皮紙を目で追った後、荷物を持って大広間を後にした。
「お〜い、リーマス!どこへ行くんだい?」
「ちょっとそこまで!」
慌てた様子のリーマスが急いだ様子で大広間を飛び出して行った。声をかけたジェームズが呆然とリーマスの後ろ姿を見つめている。
「…あいつ、そんなに第10問が気に触ったのか?」
「う〜ん。リーマスは一刻も早く図書館に行きたかったんじゃないかなぁ」
「は?なんでだよ」
「春が来たって事さ」
「さ、最近リーマスってレイブンクローの人と2人で勉強してたよね」
走り去ったリーマスについて話しながら、俺達は校庭に出て湖の方へと歩いていた。湖の端にあるブナの木陰まで行き、芝生に身体を投げ出す。そよ風が頬を撫でていくのを楽しみながら、試験から解放された喜びではしゃぐ生徒達を眺めた。…なんかつまんねえな。
「ジェームズ、何か面白い事は無いのか?」
「ええ〜何かって言われても…あっ!シリウス、あそこにいる奴を見ろよ」
「スニベルスじゃないか」
ジェームズと顔を見合わせてニヤリと笑う。木の根元で相変わらず陰気臭い顔をしたスニベルスが、試験用紙であろう紙をカバンに閉まっていた。立ち上がり、歩き出したのを見て俺達も動く。
「やあスニベルス!試験の調子はどうだい?」
「やめてやれよジェームズ!こいつが得意なのは闇の魔術に対する防衛術じゃなくて闇の魔術の方だろ!」
「っ…!ステュー」
「おっと、エクスペリアームス!」
俺達がスニベルスに話しかけると、スニベルスはいきなりローブから杖を取り出して攻撃しようとしてきた。ジェームズが素早く武装解除呪文をぶつける。スニベルスの杖はクルクルと宙を舞って背後の芝生に落ちた。
「インペディメンダ!」
奴が落ちた杖に飛びつく前に妨害呪文を打つ。スニベルスははね飛ばされ、背後の木に身体を打ち付けて小さく呻いた。
「ヒュー!容赦無いねシリウス」
「こいつに容赦なんて必要無いだろ」
「そうだったそうだった」
なんだなんだと見物人が集まりだし、辺りがザワザワと騒がしくなる。余計な奴…ジェームズの恋焦がれる赤毛の幼馴染に見つかると面倒だ。「おい、ジェームズ」場所を変えないかと言おうとすると、凛とした声が2つ響いた。
「やめなさい!」
「やめんか愚かな人間ども!」
見物人をかき分けて現れたのは、やはりスニベルスの幼馴染2人だった。スニベルスを守るように俺達と向かい合うエバンズとイヴの姿にチッと舌打ちをする。
…ああ、面倒な事になった。
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