イヴはキョロキョロと辺りを見回した後、俺の顔を見て自身の顔を歪ませた。クリスマス休暇前、俺がイヴを泣かせてしまった日の事を思い出す。俺は慌てて視線を逸らし、ジェームズの方を見た。


「やあ、エバンズ!君はとても美しい、聖母のような素晴らしい女性だ!なのに何故そんな薄汚いスニベルスを相手にするんだい?そいつは君と比べたら月とスッポン、いや宇宙と埃なのに!」

「彼に構わないで」


ジェームズはエバンズにギロリと睨みつけられ、わざとらしく肩を竦める。


「愛するエバンズの言葉でも、スニベルスの事は聞いてあげる事ができないんだ。ごめんね?」

「謝るくらいなら最初からやらないでちょうだい!」

「貴様らは何年こじらせてるんだ。そんなにセブルスが好きか。好きな子虐めか」


激昂するエバンズにイヴの追撃。「こじらせてる君には言われたくないね」とジェームズから反撃が入り、「ヴッ」とイヴは唸った。こじらせてる自覚はあったのかよ、と思わずツッコミを入れてしまいそうになる。


「エバンズが僕とデートしてくれるなら、スニベルスに何もしないと誓おうじゃないか」

「誰が貴方なんかとデートするもんですか!」

「ええ〜!君は何時になったら素直になるんだい?」

「貴方が視界から消えてくれたらね!」


本当はお前ら仲良いんじゃねえの、と言いたくなるような口論を何となく聞いていると、エバンズの背後でスニベルスが動く気配を感じた。あ、と思った時にはもう遅く、スニベルスの放った閃光がジェームズの頬を切り裂いた。赤い血がジェームズの頬を滴り落ちる。

ジェームズは無表情で杖を振った。スニベルスは空中に宙吊りとなり、土気色の足と灰色の汚れたパンツが剥き出しになった。見物人から囃し立てる声が上がり、ジェームズとピーターは大声で笑った。俺も笑いそうになったが、イヴが親の敵を見るような目でこちらを見ていたから舌を噛んで笑いを引っ込めた。


「いってえ!」

「何やってるんだいシリウス」


ジェームズが呆れた声を出して俺を見る。うるせえ、イヴに軽蔑されたくないんだよ。と心の中で反論する。軽蔑されるような事をしているというのは分かってるんだ。だけど、スニベルスを、スリザリン生に攻撃をする事で「自分はスリザリンとは違う」という事を証明したかったんだ。


「君、今日は変だよ?変な物でも食べたのかいワンちゃん」

「別に」

「ふーん、へえー」


エバンズに「下ろしなさい!」と叫ばれたジェームズは、杖を振ってスニベルスを落とした。また見物人が囃し立てる。イヴは俺達に杖を向けていたが、ヘンテコな呪文は打ってこなかった。ただひたすらじっと赤い瞳を俺に向けている。なんだよ、そんな目で俺を見るんじゃねえ。

落とされて地面に丸まっていたスニベルスがヨロヨロと立ち上がる。「ほーら」ジェームズが笑いながら言った。


「スニベルス!エバンズとアスターが居合わせてラッキーだったね!」

「あんな汚らしい「穢れた血」の助けなんか必要無い!」


シーン、と辺りが静まり返る。エバンズとイヴは目を瞬かせた。


「結構よ」


エバンズの冷たい声が響く。


「これからは邪魔しないわ。スニベルス、パンツは洗濯した方が良いわね」


イヴは何も言わなかった。走り去るエバンズを見つめた後、戸惑ったような顔をしながら再び俺達と向き合う。「違う、違うんだリリー」とうわ言のように繰り返すスニベルスを憐れむような目で見た後、「究極雷舞(アルティメットサンダー)」と呪文を唱えた。瞬間、俺達の身体は稲妻の如く走る閃光に貫かれ、ビリビリと身体中を痺れるような痛みが駆け巡った。


「いきなりなんて酷いじゃないか厨二病ちゃん!」

「では貴様がいきなりセブルスに攻撃を仕掛けるのは酷いと言わないのか?なあ、毛玉」

「でもそいつはエバンズと君に「穢れた血」って言ったんだぞ!?マグルを蔑む最悪の言葉だ!君だってそれを知ってるはずだ!」


ジェームズの言葉にキョトンとした表情を浮かべたイヴは、腰に手を当ててカーッカッカッカ!と笑った。


「「永久舞踏曲(エターナルロンド)」に狙われる我の血が穢れている訳が無いだろう?天使か悪魔の血が混ざってる高貴な存在だ。貴様ら人間とは次元が違うのだよ次元が!マグルとか純血とかで争ってるが貴様らは我から見れば「人間」という同じ括りなんだ、諦める事だな!!」


いや、何を諦めるんだよ。と心の中でツッコミをいれる。というか天使か悪魔ってどっちだよ!ハッキリしろよ!

唖然とする俺達をフン、と鼻で笑い、さあ行くぞ、とスニベルスの腕を掴み無理矢理立たせたイヴは、またカーッカッカッカ!と高笑いをした後、俺達の脇を何事も無かったかのように通り過ぎようとした。


「どうして」

「ん?」

「どうして僕を庇うんだ。酷い事を言ったのに」


スニベルスが俯いたままで呟いた。イヴは俺の脇で足を止めると、フッと微笑んで「友だからに決まってるだろう」と言った。その慈しむような顔を向けられるスニベルスに殺意が湧く。俺はそんな顔された事無いのに!

その場に居た誰ひとりとして言葉を発する事無く2人の様子を見ていた。あのジェームズでさえも言葉を発さずじっとイヴを見つめている。観衆は校舎へ戻ろうと歩く2人を避けて道を開けた。とうとうイヴは俺に何も言わずに立ち去ってしまったのだ。
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