女の名前をうっかり聞きそびれた俺だったが、すぐに知る事ができた。

イヴ・アスター。入学してから1週間も経てば、その名前を知らない者はいないと言える程有名になったからだ。悪い意味でな。


まず見た目。全身包帯で巻かれているし、ホグワーツを探しても黒い眼帯をつけている奴はどこにも居ないからとても目立つ。しかもそれが、怪我が理由では無く身体に『封印されし魔物』を飼っているかららしい。
よく左手を抑えて「くっ、静まれダークサイドドラゴン!」とかなんとか叫んでる。

次に行動。入学してから4日目、誰も近づかない3階の女子トイレを根城にし、オリジナル呪文で水を黒色に変えたあげく増量させて、学校中の水道から黒い水が噴射する事件を起こした。
ダンブルドアは「入学早々呪文を編み出すとはやるのう、ミス・アスター。グリフィンドールに50点」と褒めていたが。生徒は誰もが違う、そうじゃないだろと心の中でツッコミを入れたに違いない。

闇の魔法使いに心酔した奴かと思ったけど、ああいうヤバい奴は「厨二病」という別ジャンルの人間だと、極東の小国から来たマグル生まれの上級生が言っていた。
それから瞬く間に「厨二病女」というあだ名が広まり、今ではすっかりあいつを名前で呼ぶ奴は居なくなった。幼馴染の2人を除いて。





魔法薬学の時間、3人ひと組になっておできを治す薬を調合するよう言われた俺達は、それぞれ組を作るべく立ち上がった。


「やあエバンズ、よかったら僕達と」

「我が盟友リリー!セブルス!共におできを治す薬を調合するぞ!」


ジェームズがエバンズに声をかけようとしたが、厨二病女のデカい声に遮られてしまう。そのまま2人でスニベルスの元に行き、調合を始めてしまった。


「くそぅ、厨二病ちゃんに邪魔された」

「また振られてやんの」

「うるさいな!なんで厨二病ちゃんとスニベルスがエバンズの幼馴染なんだ…」


ガックリと肩を落とすジェームズを慰めながら、同じグリフィンドール生を仲間に入れて調合を始める。
コンパートメントでは一緒にいなかったが、厨二病女はあのスニベルスとエバンズの幼馴染だったようだ。
毎日エバンズと共に行動しているし、スリザリンとの合同授業の時は真っ先にスニベルスの元へ向かっている。


「イヴ、蛇の牙は砕き終わったか?」

「勿論だとも!ほら、受け取るが良い」


おい、スニベルスと距離が近くないか。思わず顔を顰めた。グリフィンドール生なのにスリザリン生と仲良くするなんて。まあ、それを言ったらエバンズもだが。


「シリウス、角ナメクジ茹で終わったよ〜?…シリウス?」

「っ…!ああ、次は」


「シリウスまた厨二病ちゃんの事見てたね」とジェームズにニヤついた顔で指摘され、思わず「見てねえよ!」と反論してしまう。ふーん、と意味ありげな視線を向けられるが、お前が考えてるような事は何一つない。平常心平常心、と心の中で唱えながら鍋を掻き混ぜる事に集中する。


「エロイムエッサイム!エロイムエッサイム!我は求め訴えたり!!」


教室中に厨二病女の謎の呪文を唱える声が響き渡る。「あいつ悪魔召喚する気だぞ!」とどこからか声が上がった。ああもう、うるせえ。完璧に調合し終えた薬を詰めた瓶をスラグホーンの元へ提出した俺は、厨二病女から離れるべく、「ちょっとシリウス!どこに行くんだい?」と俺を呼び止めるジェームズを無視して足早に教室から立ち去った。
前へ次へ