あのトンデモ呪文エターナルなんとかブリザードを喰らった次の日から、俺達悪戯仕掛け人(というか俺とジェームズ)は、毎日のように厨二病女に呪文で攻撃し、上級生から譲り受けたクソ爆弾をぶつけ、と1年生の頭で考えられるありとあらゆる悪戯を試みた。


「デンソーシオ!」

「ナメクジ喰らえ!」

「またか貴様ら…灼熱の紅蓮弾(マキシマムファイア)!」


しかし、俺達が悪戯を仕掛ける度に厨二病女はトンデモ呪文を唱えては悪戯を回避した。俺達の杖から放たれた呪文は、いつも厨二病女に届く前に炎で焼き尽くされてしまう。
訳が分からない。なんでマグル出身の奴がポンポン呪文を作れるんだよ、クソ!

なんとか呪文を当てようと奮闘したものの、成果は得られないままクリスマス休暇を迎えてしまった。





家に帰ったとしても、ババアからグリフィンドールに入った事を毎日口うるさく責められるだけだと思った俺は、ホグワーツに残る事にした。
ジェームズは「うちに泊まりなよ!」と言ってくれたが、クリスマスは家族と楽しんでこいよ、と遠慮した。
リーマスもピーターも家に帰ってしまい、部屋に居るのは俺だけ。別に寂しく無いが、誰かと話したい気分になった俺は、まあ談話室には誰かいるだろうと思い、部屋から出た。
男子寮を出て談話室に入り、辺りを見渡す。しかし誰もいなかった。

ここで俺は、グリフィンドール生で自分以外に誰がホグワーツに残るのか確認していなかった事を思い出した。

…チッ、俺だけか。談話室に飾られたクリスマスツリーを一瞥した後、パチパチと音を立てて燃え上がる暖炉の脇に用意されたソファにどかりと座り込み、さて、今から何をするかと考えた。


「…そうだ」


ぐるっと室内を見渡す。当たり前だが誰もいない。もちろんいつも俺と一緒のジェームズも。
そっとホルダーから杖を取り出す。ゴホンッと咳払いをして呪文を唱えた。


「え、エタァナルフォスブリザード」


パチパチと薪が燃える音が聞こえるだけで、何も起こらない。氷の塊どころか水色の光さえ出なかった。

あ、当たり前だよな!あんなめちゃくちゃな呪文、まぐれに決まってる!

急に恥ずかしくなった俺は、急いで部屋に戻ろうと立ち上がった。


「発音が違うぞ黒犬。恒久の氷結はエターナルフォースブリザードだ。貴様のはエタァナルフォスブリザード」


突然背後から声が聞こえ、勢いよく振り返る。
そこには、何故か厨二病女が腕を組み、こちらを睨みながら所謂仁王立ちをしていた。


「な、なんで厨二病女がここに?」

「真名を記す紙を見ていなかったのか黒犬。獅子寮で残るのは貴様と我のみよ」


全く、なんでこんな愚民と…と呆れるような声が聞こえたが、俺は驚きのあまり動けなかった。
真名を記す紙…名簿か。名簿には俺とこいつの名前しかないと言ったのか?今。


「俺と厨二病女で2人きりのクリスマス休暇!?」

「戯けが。他寮生も居るわ」


しまった、思った事がうっかり口から出てしまったようだ。慌てて「りょ、寮でって事だバカ」と訂正を入れる。俺、なんで厨二病女と話す時にどもっちゃうんだろうな。間抜けな姿ばっか見られている気がする。…見られていた?

そうだ、俺がトンデモ呪文唱えている所をこいつ見てやがった!
恥ずかしさで熱を持った顔を誤魔化すように、厨二病とと正面から睨み合う。


「おい!いつから後ろに居たんだよ!」

「阿呆ぅ!声がデカいわ!女子寮から降りてきた所、黒犬が居たからまーた悪さを企んでるのでは無いのかと思ってな。近寄ったら我が呪文を唱えていたから驚いたぞ」

耳をわざとらしく塞ぎながら厨二病女が答えた。

ってほぼ最初からじゃねーか!

うわぁぁ、と恥ずかしさのあまり頭を抱えてしゃがみこむ。厨二病女に、よりによって厨二病女に呪文を練習している所を見られてしまった。あーあ、記憶を消す魔法が使えたら真っ先にこいつに使うのに。残念ながら俺はまだ習っていなかった。
勢いよく立ち上がり、厨二病女を睨みつけながら叫ぶ。


「勝手に見てんじゃねえよバカ!」

「は、はぁ!?自意識過剰めが、見たくて見た訳じゃないわ!駄犬風情が我に向かって生意気な口を…!」

「先に近づいてきたのはそっちだらうが!」

「なんだと!?」


カッと頭に血が上り、勢いよく厨二病女の胸ぐらを右手で掴み上げる。思っていたより軽くて驚いた。ちゃんと食ってんのか、こいつ。


「や、やめて…やめてぇぇ!!」


デカい悲鳴が聞こえた後、ドンっと厨二病女に突き飛ばされて後ろによろめいた。俺の右手が緩んだ隙に逃げ出した厨二病女がその場に蹲る。なにするんだよ、と厨二病女を見ると、異様なくらい顔を真っ青にしながらガタガタ震え、俺が掴んでいた胸ぐらをローブの袖で必死に擦っていた。

な、なんだよ、さっきまで普通に悪態ついてただろうが。いつもの姿とのギャップに戸惑ってしまう。


「えっと…大丈夫か?」


せっかく俺が心配してやったのに、厨二病女はなにも答えずふらりと立ち上がると、こちらを見ずに女子寮に駆け戻ってしまった。

なんだよ、なんなんだよ。後味の悪さだけが俺の心に残る。いくら厨二病女に悪戯を仕掛けようと、悪いと思った事は1度も無いのに。


結局、その後1回も顔を合わさないまま就寝時間が来てしまった。あいつは夕食にも顔を出さなかった。

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