今日がクリスマスだからか、それとも昨日の出来事が原因か。いつもより早く起きてしまった俺は、二度寝する気分にはならなかった為、パジャマの上にカーディガンを羽織ってから部屋を出た。

男子寮の階段を降りて談話室に入る。そこには、昨日気まずい別れ方をした先人がクリスマスツリーの下にいた。


「よお厨二病女。メリークリスマス」

「…メリークリスマス、黒犬」


やっぱり厨二病女は俺の事を黒犬と呼ぶ。クリスマスくらい名前で呼んでくれれば良いのに。ブラックって呼ばれるの好きじゃないけどさ。それでも、いつも通り返事をしてくれた事にホッとした。

昨日は悪かったな、という言葉は喉を張り付いて出なかった。代わりに、厨二病女の手元に目をやる。そこには小さなプレゼントが3つだけ収まっていた。もしかして、とツリーの根元に山積みになっているプレゼントを見る。これ全部俺のか?


「お前のプレゼント、誰からなんだ?」

「我が盟友達と、あー…我が仮初めの住居から」

「なんだよ仮初めの住居って。それで全部か?」

「当たり前だろう」


何を言ってるんだ?こいつは、みたいな顔で俺を見上げる厨二病女。我が盟友とはスニベルスとエバンズの事だろう。仮初めの住居は家から。嘘だろ、と思わず目を見開いてしまう。


「お前友達居ないのかよ!」


グェッと厨二病女から変な声が漏れた。図星か。ご丁寧に白目を剥いて口から泡を吹いている。器用な顔だな、と妙な所に感心した。


「わ、我が体内にはダークサイドドラゴンが封印されているのだぞ!人間どもは迂闊に近づいてはいけないのだ!!」


厨二病女は、右手を左目の眼帯の上に添え、左手を右肘に添えるという謎のポーズをとりながらカーッカッカッカ!と高笑いをした。何を言ってるのか全く理解が出来ねえ。ただ1つだけ気になる点があった。


「スニベルスとエバンズは近づいても平気じゃないか。なんでだよ」

「そ、それは2人が選ばれし者だから。我が盟友は特別な存在、我に触れてもダークサイドドラゴンの障気に当てられないのだ」

「その我が盟友ってのはどうやったらなれるんだ?」

「貴様らみたいな平凡な人間は一生無理だな!」


カーッカッカッカ!とまたデカい声で笑われた。一生無理って言われた事に少しショックを受ける。なんでだよ、俺。別にこいつと友達になろうとか思った事無いだろ。

上手く誤魔化された気がするが、それはこいつにスニベルスとエバンズ以外の友達が居ないという事を認めたって事じゃねえか。

なんか可哀想だな、と思った俺は、厨二病女の傍に積んであるプレゼントの山からひとつひとつ包みを取り出し、名前を確認しては放った。


「黒犬、貴様何をしている」

「厨二病女宛のプレゼントが紛れてるかもしれないだろ。探してやってんだよ」


だからお前も手伝え、と言おうとしたが「そんな物ある訳無いだろう。時間の無駄だ、止めておけ」と止められてしまった。

なんでだよ、と厨二病女を見るが厨二病女はそっぽを向いて俺を見ないようにしている。


「それよりも我には食物が必要だ。大広間に献上されているはずだろう。我は先に行く、黒犬も後から来い」


「待てよ!」と引き留めようとしたが、厨二病女は談話室から出て行ってしまった。シーン、と部屋が静まり返る。何拗ねてんだあの厨二病女。仕方が無い、プレゼントを全て開封してから大広間に行こうと決めた俺は、大量の包みを片っ端から拾い上げた。
もしかしたら厨二病女宛の荷物も紛れ込んでるかもしれないしな。





結論から言うと厨二病女への包みは無かった。つまり、あいつの今年のクリスマスプレゼントは3つだけという事だ。
俺宛のプレゼントは、3回に分けて部屋に運ばないといけないくらいの数が届いていた。
ジェームズからはゾンコの悪戯グッズが、リーマスからは高そうな羽ペン、ピーターからはお菓子のセット、後は仲の良いグリフィンドール生から。あまり接点の無い他寮の女子からも届いていた。

一通り包みを開け終えた俺は、朝食を取る為に大広間へ向かったが、そこには厨二病女の姿は無かった。

先に食べ終えたのか。まあ良い、まだまだクリスマス休暇はあるし、1回くらいは一緒に食べる機会があるだろうと思った俺だったが、不思議な事にクリスマス休暇が終わるまで1度も厨二病女に会う事が出来なかった。


クリスマス休暇が明けてからも、厨二病女とは微妙な距離感を保ったままずるずると日々を消費した。期末試験の勉強をしたり、ジェームズと俺で厨二病女に悪戯を仕掛けようとしては玉砕するという日常。

そして、俺達は2年生になった。


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