学年が上がってから2ヶ月が経った。新入生も学校生活に慣れ、やっとまともに教室移動ができるようになったところだ。道に迷う新入生を教室に届けるのが上級生である俺達の任務だったが、もうその必要も無いだろう。久しぶりに悪戯仕掛け人のメンバーだけで廊下を歩いていると、反対側から物凄い勢いで厨二病女が走ってきた。
…パァァ、と効果音が付きそうなくらいの笑顔で。
「おーい!」と右手をぶんぶん左右に振られるが、生憎俺達は悪態を吐く事はあっても廊下で気さくに挨拶をするような仲では無いはずだ。
厨二病女とすれ違った新入生が、包帯まみれの姿にギョッとする。しかし、厨二病女は気にせず俺達の前で急停止すると、またにっこりと満面の笑みを浮かべた。
今まで厨二病女の笑顔なんか見た事の無かった俺はどうすれば良いのか分からず固まってしまう。なんだよ、これ。助けを求めるように右隣のジェームズを見るが、ジェームズも困惑していた。
とりあえず俺が何か言わないと。
「よお厨二病女、何の」
「リーマス!今時間は空いてるか!?」
俺の声は厨二病女のデカい声にかき消された。その事にイラっとする。って、今なんて言った?リーマスって言わなかったかこいつ。
俺の左隣のリーマスは、「今からマクゴナガル先生に変身学のレポートを提出しに行くところなんだ。その後でイヴが良いのなら」と親しい友のように答えた。
「分かった。では書物の間の例の場所で待ってる。また後でな、リーマス!…と毛玉と黒犬と子兎」
厨二病女は笑顔のままパタパタと走って行ってしまった。
「な、なんで僕って子兎なんだろう…」
ピーターの嘆くような声が聞こえたような気がしたが、俺はリーマスと厨二病女の関係を考えるのに必死になって周りを気にする余裕が無かった。なんでだよリーマス、何時から厨二病女と名前で呼ぶような仲になったんだ?何処で会った?俺の知らない所で?
「シリウス〜?おーい、シーリーウースー?ダメだこりゃ、厨二病ちゃんの事になると途端にポンコツになるからなぁシリウスは」
ジェームズが呆れたような声を出して肩をすくめる。別にポンコツになってねーし!
「で、リーマスは何時から厨二病ちゃんと親しげに会話するような仲になったんだい?」
ジェームズが俺の代わりにリーマスに質問してくれた。リーマスは斜め上を見上げながら「うーん」と唸る。
「あっ思い出した。2年生になってからすぐ図書館で出会ったんだよ。本棚の前でさ。高い所にある本が取れなくて大変そうだったから僕が取ってあげたんだ。その本、OWLレベルの呪文書だったから興味が湧いてさ。本の話をするうちに仲良くなったんだ」
いつの間にそんな出来事が。という事は俺が知らないうちにリーマスと厨二病女は何度も図書館に通っていたという事になる。
なんだよ、それ。
俺には見せてくれない笑顔をリーマスには簡単に見せる厨二病女に腹が立つ。クソ、俺の事は黒犬呼びで、俺を見る度に睨みつけてくる癖に。
まあ俺達が対面する時は俺が厨二病女に悪戯仕掛ける時か、スニベルスに悪戯をする時だけなんだが。
「なんでお前はリーマスって呼ばれてるんだよ」
思ってたより低くて掠れた声が出た。「ヒュー嫉妬か〜い?シリウス〜」と茶化してくるジェームズの鳩尾を「うるせ」と軽く殴って黙らせる。別に嫉妬じゃねえ。気に入らないだけだ。
「なんでって…当たり前の事をしたからだよ」
リーマスに「シリウスも早く気づけると良いね」と優しく言われたが、教える気は無いって事じゃないか、クソ。
「ほら、早くレポート出しに行こうよ。マクゴナガル先生に怒られてしまう」
話はこれでおしまい、とリーマスはさっさと先に進んでしまった。慌ててピーターが「ま、待ってよ〜!」と続く。ジェームズは「先を越されてしまったねシリウス!」と俺を見てニヤリと笑った後、走って2人の元へ行ってしまった。
その場に残された俺は、追いかける気力も無かった為ゆっくり歩き出す。
先を越されたってどういう意味だ?と考えてみるも全く分からない。
俺の頭の中に厨二病女の笑顔がちらつくのが不快だった。
そういえば、と思い出す。厨二病女は書物の間で待っていると言ってたな。…図書館か。
リーマスと厨二病女がどんな話をするのか気になった俺は、マクゴナガルにレポートを渡すついでに図書館に寄ってみる事にした。
別に、ついでに寄るだけだからな。ついでに。
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