今年もクリスマス休暇に残るグリフィンドール生は俺と厨二病女だけだった。昨年は気まずい気持ちで終えたクリスマス休暇だったが、今年は厨二病女と上手くコミュニケーションをとれるように頑張ろうと固く心に誓い、まずはディナーに誘おうと男子寮を出た。





談話室のソファに居た厨二病女は、俺に気づくと眉間に皺を寄せて「なんだ」と言った。


「ああ…一緒にディナーを食べに行かないか?」


厨二病女は一瞬ピクッと身体を揺らした後、「構わんぞ」と言ってソファから立ち上がり出口に向かった。
あっさり了承されて驚いた俺は、「本当に?」と口に出してしまう。厨二病女は振り返って「誘ったのはそっちだろう」と呆れた声で言った後、俺を置いて穴を降りてしまった。


「ちょっとおい、待てよ!!」


慌てて穴から飛び降りた俺は、着地し損ねて尻を強打した。厨二病女はそんな俺を見て爆笑した。ちくしょう、なんで俺は厨二病女の前だと上手くいかないんだろうな。





厨二病女が向かい側に座った状態での食事は初めてだ。色とりどりの料理を前に目を輝かせる厨二病女の顔を眺める。今年は一緒に食べれられるんだな、と思うとつい頬が緩んでしまった。


「締まりがない顔をしているぞ黒犬。そんなにクリスマスが楽しみか」

「うるせえ。チキンが独り占めできるから嬉しいんだよ」


まさかお前が居るから嬉しいとは言えず、適当に理由をでっち上げる。大好物なチキンをいつもの2倍の量を掴み皿に盛り付けると、厨二病女は目玉が落ちてしまうのではないかと心配になるくらい目を見開いて驚いていた。


「もしかして、鳥獣の肉が好みなのか?」

「は?知らなかったのか!?」


普段離れて食事をする俺達は、互いに好きなものや嫌いなものを知らない事に気づいた。俺はチキンが好きで、甘いものが苦手だ。そして厨二病女は甘いものが好きで、家で出される萎びた野菜のスープが苦手なんだそうだ。
そうか、こいつは甘いものが好きなのか。今度家に帰ったらババアが食器棚の裏に隠しては食べている焼き菓子のセットをこっそり厨二病女の為に持ってきてやろう、と心の中で計画を建てた。


美味しいディナーに舌鼓をうちながら、俺達は色々な話をした。相変わらず厨二病女の話はファンタジーファンタジーしていて何を言ってるのか分からなかったが、うん、うん、と適当に相槌を打ってやると、更に話がペースアップしてしまった。どうやら楽しんでもらえたようだ。この食事だけでも俺と厨二病女の心の距離は結構縮まったんじゃないか?

食事を終えた後2人で談笑しながら寮に戻り、「さらばだ黒犬、良い夢を」と挨拶もして貰えた。初めての対応に心臓がドクドクと煩い。
俺達こんなに仲良かったっけ?
その日は結局心臓の音が煩くて良く眠れなかった。クソ、厨二病女のせいだ。





「メリークリスマス、黒犬」

「メリークリスマス、厨二病女」

朝起きてすぐに談話室へ向かうと、先に起きていたらしい厨二病女がクリスマスツリーの根元に置かれたクリスマスプレゼントの分別をしていた。

もしかして去年も分別していたのか?俺宛のプレゼントの中に紛れ込んでいるかもしれないと厨二病女宛のプレゼントを探そうとした時に「時間の無駄だ」と止められた時の事を思い出す。

あの時は3つしか無かったが、今年は4つになっているはずだぜ。

プレゼントの宛名を見ては顔を曇らせる厨二病女を見てニヤッと笑う。その様子だとまだ発見できてないらしい。

実は今年、俺は厨二病女にクリスマスプレゼントを送ったのだ。匿名で。名前を書こうとしたがもし「黒犬からのなんぞ要らんわ」と言われてしまったらと思うと怖くて書けなかった。情けない話だ。


「あっ!」


厨二病女がある包みを持って立ち上がった。逆さまにしたり左右に振ったり、耳を当てて包みの中の音を聞いたり。包みに付いていたクリスマスカードと手元の包みを何度も目で往復した後、わぁぁと子供らしい歓声をあげてこちらを見た。


「リーマスからだ!」


その名前を聞いた瞬間、俺の心の温度は氷点下になった。コォォォ、と耳の奥で吹雪の音が聞こえる。良かったな、5つになったじゃねえか。おい。

多分物凄い形相になっているだろう俺の事は気にせず、厨二病女はリーマスからの包みをテーブルに置き、再びプレゼントの山を漁り始めた。
早く見つけてくれよ、と祈るような気持ちでその様子を見つめる。
暫く漁った後、「わあ!」と歓喜の声をあげて赤の包み紙と金のリボンとグリフィンドールカラーに包まれた箱を取り出した。


「ん?名前が書いてないぞ」


クリスマスカードにはイヴ・アスター様へとしか書いてないはずだ。通販で直接送るようお願いしたからどんな風になっているのか分からなかったが、無事届いたようで安心した。


「そうか…!この贈り物は我が信者からの貢ぎ物に違いない!黒犬よ見てくれ!我に貢ぎ物が届いたぞ!」


とんでもない誤解をされてしまったと頬が引きつる。翻訳すると「このプレゼントは私のファンからに違いないわ!」だ。俺はお前のファンじゃねえ、あまりにもプレゼントが届いてなくて可哀想だったから送ったんだ!と叫びそうになるのを何とか心の中に押し留め、「良かったな」とだけ返した。

ふんふーんふふんふんと微妙なリズムで鼻歌を歌い出した厨二病女は、両手に包みを5つ抱えて満足そうに部屋に戻っていった。

因みに俺が厨二病女にプレゼントしたのは小さな香水だ。奇抜な見た目で女っ気が全然無い厨二病女だが、香水を付ければ少しはマシになると思ってチョイスした。どうやらローズの香りがするらしい。俺は香水に詳しくないから適当に人気なやつを選んだ。

バタバタと女子寮の方から階段を駆け下りる音が聞こえる。再び談話室に現れた厨二病女は、満面の笑みを浮かべながら「黒犬よ!早く大広間に行くぞ!」と出口へ走った。

すれ違った時にフワッとローズの香りがして、俺は無性に叫びたい気持ちになった。今年のクリスマスは最高だ!とな。
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