10.Let's goダイアゴン横丁
買い物リストOK、お金もOK、ハンカチOK、とリュックサックの中の荷物をひとつひとつ丁寧に確認する。うん、忘れ物無し!とリュックサックを背負うと、「リーザ、これ忘れてるわよ!」とお母様に呼び止められた。「手を出して」と言われた通りに差し出すと、手のひらにコロンと小さな紐付きの機械が乗せられた。
「…これは?」
「防犯ブザー!!」
「マグル製品じゃねーか!!」
シリウスの分もあるわ!と私の隣に立つシリウスの手のひらに無理矢理防犯ブザーを握らせるお母様。魔法族のトップ、泣く子も黙るブラック家の息子にマグル製品を渡すなんて!!と目を見開き口をあんぐり開けて驚く私に「気をつけていってらっしゃい」と優しく微笑むお母様は多分魔法で操られている。
「えっ、お前の母さんって…」
「後で説明するからとりあえず買い物行こう」
「お、おう」
戸惑うシリウスの手を引き暖炉の前に立つ。フルーパウダーを一掴みし、炎に粉を振りかける。炎はゴォォ、と音を立てながらエメラルドグリーンに色を変えた。
「ダイアゴン横丁!」
失敗して焼け焦げたらどうしよう、とヒヤヒヤしながら私は炎の中に飛び込んだ。
*
夏になり、ホグワーツに入学するのもあと1ヶ月を切ったある日。シリウスから「2人でダイアゴン横丁に買い物に行こう」と誘われた。「ババアはうるせえから、リーザの家の暖炉から煙突飛行を使ってさ」と。それに聞き耳を立てていたレギュラスが「兄さんだけずるい!僕も行きます!」と怒り、「レギュラスは小さいから連れてかねえよ!」「こういう時だけ小さい子扱いしないで下さい!」と喧嘩を始めたが…まあ、シリウスの方が強かった、とだけ言っておこう。
結局レギュラスはお留守番、しかしきちんとブラック家とグレンフェル家双方の許可を取るという形に落ち着いた。勉強を頑張るという条件付きで許可をもらい、ダイアゴン横丁へ行く為にそれはもう頑張った。そして遂に、その日が訪れたのである!!
ポッタリアンならば1度は行ってみたいと思うであろうダイアゴン横丁。実は私も行った事が無かった。ドキドキしながら目を開く。そこは、街路を行き交うたくさんの人で溢れていた。ローブを羽織り、不思議なとんがり帽子をかぶった魔女や魔法使いが私の前を忙しなく通り過ぎていく。うわあ、と感嘆の声を上げると、ドンッと背中に衝撃が走った。
「ボーッとすんな!」
「ごめんシリウス」
火格子の前で立ち止まっていたせいで、後から来たシリウスとぶつかってしまったようだ。ごめんごめんと謝ると、「ん」と左手を差し出された。
「えっ、慰謝料?」
「な訳あるか!放っておいたら迷子になりそうだからな。俺から離れるなよ」
そのまま右手を掴まれ、ずんずん歩き出したシリウスに引き摺られるように足を進める。わお、私の弟マジイケメン。
まず私達が立ち寄ったのはマダムマルキンの洋装店だった。藤色の服を着た愛想の良いマダムと会話を交わしながら、質の良いローブを3着仕立ててもらった。
次にフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で教科書を買った。基本呪文集、魔法史、魔法論…教科書はどれも分厚くて重かったが、検知不可能拡大呪文がかけられたリュックサックに入れた途端重さを感じなくなった。魔法の力って凄いわ…とちょっと感動した。
その後もあちこち立ち寄って必要な物を買い、最後に杖を買いに行く事になった。
「紀元前382年創業…オリバンダーの店、ねぇ」
「ほら、入るぞ」
最後に訪れたのはオリバンダーの店。本当に紀元前から魔法使いが存在したのか、と疑ってしまうのは私が元マグルだったからか。シリウスに連れられ店内に足を踏み入れる。天井付近まで積み上げられたいくつもの細長い箱の山が、神秘的な魅力を放っていた。
「いらっしゃいませ」
奥から姿を現したオリバンダー老人は、私とシリウスの顔をじろじろと眺めた。頭のてっぺんからつま先まで見られているように感じて、不自然にならないようそっと視線を古びた窓枠の方へと向けた。
「ブラック家のご子息とグレンフェル家のご息女の方ですね。お待ちしておりました」
「えっ!どうして私がグレンフェル家の娘だと…」
「その髪色は珍しいからの。今でもお父さんが来た日の事を覚えておる。柊の杖、25センチ。よくしなる杖じゃ」
そっと自身の髪に触れる。サラサラと手からこぼれ落ちるシルバーブロンドは、確かにこの町に来ても誰ひとりとして見かけていない。そんなに珍しい色なのか?と首を捻る。
「さあ、杖を選びましょう。どちらから?」
「リーザからで良いぜ」
「あ、うん。分かったわ」
「お嬢さん、杖腕はどちらですかな?」
「右です」
そこからは長い戦いだった。オリバンダーさんが持ってくる杖を振っても振っても私には合わず、窓ガラスを割ったり店内に竜巻を起こして杖の箱を吹き飛ばしたり。30分は経っただろうか、シリウスは飽きたのか椅子に座って足をブラブラとさせて欠伸をしながらこちらを見た。顔にいい加減にしろと書いてある。ごめんねシリウス、まさかこんなに時間がかかるとは…!自分よりひと回りも幼い子に付き合わせてしまって申し訳ないと、日本人気質な私の胃がキリキリと痛む。もうなんでも良い、なんでも良いから私にあった杖よ来てくれ!
「これはいかがですかな。モミの木、ユニコーンの毛。26センチ。心地好くしなる」
渡された杖を握った瞬間、私の周りに穏やかな風が吹き、手のひらからじんわりと心地良い熱を感じた。今までの杖とは違った感覚に胸が高まる。そっと振ると、杖先から色とりどりの小さな花が現れた。
「リーザ!決まって良かったな!」
「やった!!やったよシリウス!!」
いつの間にか隣に移動していたシリウスと手を取り合ってピョンピョン飛び跳ねて喜んだ。ああ、遂に杖を手に入れた!!私は魔女になる為の第一歩を踏み出したんだ!!感動で涙ぐむ私の頭をグシャグシャと乱暴に撫でたシリウスは、「次は俺の番だな」と不敵に笑った。その姿にちょっとだけドキドキしたのは秘密だ。
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