09.味さえ良ければ無問題
「ヴァルブルガさん、どうでしょうか…?」

「…っ!美味しいわ!きちんと中までしっかり焼けたわね。リーザちゃんもどうぞ」

「…やった、焦げてない!無事完成しましたね!」


ヴァルブルガさんと2人で手を取り合ってクッキーの完成を喜んだ。形は歪で言われなきゃスニッチだと分からないが、味の方は問題ない、はず。砂糖と塩を間違えるなんて古典的なミスを犯す事も無かった。

クリーチャーに頼んで綺麗なお皿に飾り付けしてもらい、シリウスとレギュラスが外から帰ってくるのをヴァルブルガさんとドキドキしながらリビングで待つ。


「ただいまー」
「ただいま帰りました」


玄関から2人の声が聞こえ、ヴァルブルガさんと顔を見合わせた。パタパタと子供特有の足音と共に、泥だらけでリビングに飛び込んできたシリウス。手を洗ってきたのか、少し遅れてシリウスよりは綺麗なレギュラスが入ってきた。


「シリウス!帰ったらすぐ手を洗いなさいっていつも言ってるでしょう!」

「チッ」


ヴァルブルガさんに叱られ、シリウスは渋々手を洗いに行った。レギュラスはクリーチャーに汚れを魔法で落としてもらった後、私の方に笑顔で近づいてきた。


「姉さん!」

「なあに?レギュラス」


ぎゅっと抱き着かれたので「おかえりなさい」と頭を撫でてやる。ああ、食べちゃいたいくらい可愛い。すっかり弟バカになってしまった私は「落ち着け!落ち着け!」とドビーのように心の中の自分をグーパンチで罰した。

レギュラスとイチャイチャしていると、手を洗ったシリウスが戻ってきたので2人をテーブルに着かせる。そこには、私達の手作りクッキーが2枚のお皿に並べられていた。


「これ、リーザが?」

「私とヴァルブルガさんで作ったのよ!ね、ヴァルブルガさん!」

「え、ええ」

「…マジかよ」

「さあ、召し上がれ!」

「いただきます」


訝しげな表情を浮かべながら恐る恐るクッキーを口にしたシリウスと、疑う事無くお上品にクッキーを口に運んだレギュラスの対照的な反応に思わずフフッと笑ってしまう。


「…うまい」

「わあ!とても美味しいです!」


2人からお褒めの言葉を頂き、「やった!」と小さくガッツポーズをする。「喜んでもらえて良かったですね」とヴァルブルガさんの方を見れば、目を潤ませながら「リーザちゃんのお陰ね」と微笑まれた。

…良かったね、お母さん。息子に喜んでもらえて。


「味は悪くないけど形はまだまだだな。なんだこの不細工なひよこ」

「兄さん、これひよこじゃなくてスニッチですよ」

「えっレギュラス凄い!なんでスニッチって分かったの!?」

「ふふ、内緒です」

「はあ?これが!?」


ああ、そう言えばレギュラスって未来のシーカーだっけ。だから気づいたのか、と1人納得する。私だって不細工なひよこだと思っていたのに。さすが未来のシーカーは違うなあ、と感心した。





2人はあっという間にお皿のクッキーを全て平らげ、「美味しかった」「また作って欲しいです!」と言ってくれた。「次は箒型クッキーを作りましょうね」とヴァルブルガさんと約束し、暗くなってきたのでそろそろ帰ります、とブラック家を後にした。


「はぁ…」


家に帰ってすぐ自室のベッドに飛び込んだ私は、何も無い天井をボーッと眺めた。

もうそろそろホグワーツ生活が始まるんだ。未来の事を考えないと。

自分ルールでグリフィンドールには入らないとは決めたけれど、どの寮にするか未だ決めかねていた。両親はどの寮だって良いと言ってくれたけど、きっとスリザリンに入らなければブラック家との円満な関係は望めない。

…でも、シリウスには嫌われちゃうかもなあ。

家系を憎むシリウスは、スリザリンに対しても厳しい。私がスリザリンに入ったら二度と口を聞いてくれなくなるかもしれない。シリウスとレギュラス、どちらも私の大切な弟分だ。どちらかを選ぶ事なんて私にはできないだろう。


「あああああ!!駄目だ!!」


わざと大きな声を上げて深く考えないようにする。まだスリザリンに入るって決まった訳じゃないんだ。うだうだ考えたって仕方が無い!!ベッドから降りて勉強机に向かう。余計な事を考えてしまわないよう、私は積み上げられていた課題の山へ手を伸ばした。
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