17.姉としてできる事
「正直な話、最初部屋割りを見てグレンフェル家の娘と同じという所に絶望しましたのよ。古くからの根強い純血主義思想に支配された我儘女だと思っておりましたので」
全然違いましたわね、とニッコリ微笑むノエル。
おい、なんでそれ私に伝えたんだ。良いのか、これは喜んで良いのか。
「私も、親にもしスリザリンに入ったらブラック家とグレンフェル家には関わるな。混血だから良い未来は待ってないぞって言われてたから、リーザちゃん想像とは違ってびっくりしちゃったよ…」
「私は貴女がスリザリンな事に驚いてますわ。どちらかというとハッフルパフじゃなくて?」
「うん、私もそう思うよ…なんでだろう」
「落ち込まないでよケイト!きっとケイトにもスリザリンらしい陰湿さとか狡猾さとか闇パワーがあったんだよ!」
「リーザそれ全然フォローになってませんわ」
「あはは、喜んで良いのかなそれ」
初めての女子友2人と楽しくお喋りしながら大広間に向かう。マグル・トークでちょっぴり夜更かししてしまったけれど私は元気だ。若いって最高。
*
空いている席に座り、手頃な位置にあったプレートにサラダとこんがり焼かれたトースト、それにヨーグルトの小皿を乗せていただきます、と手を合わせた。
「ん?どうしたの」
「イタダキマスって何かの呪文ですか?」
不思議そうな顔をしたノエルに尋ねられ、ああそうか、英国圏はいただきます文化無いんだっけと思い出す。
家族の前でやってたらいつの間にか浸透してたから忘れてた。きっとグリフィンドール席でシリウスも言ってるだろう。
「食べ物に感謝する呪文かな。そうすると食べ物が美味しくなる」とドヤ顔で答えると、ノエルとケイトも「イタダキマス」と手を合わせた。
「ん、本当ですわ」
「感謝の気持ちって大事だよね…うん、美味しい」
嘘だろ、適当に言っただけなのに。呪文じゃなくて習慣みたいなもんだが薮蛇なので黙っておこう。
さて、組み分けが行われてから一度もシリウスと話していないが、彼は元気にやれているのだろうか。
グリフィンドール寮の方に目を向けシリウスを探す。
あ、いた。くしゃ髪が素敵なジェームズに肩を組まれ、うっとおしそうにジェームズの身体を押しているシリウスが。それを見て笑っている少年2人はピーター・ペティグリューとリーマス・ルーピンかな。
初代悪戯仕掛け人のメンバーが2日目で既に揃っているという事は、4人はルームメイトだったのかもしれない。
中々楽しそうなメンツじゃないか、良かった良かったと安心してトーストを食べる作業を再開すると、突然バサバサバサァ!!と鳥特有の音が大広間に響いた。
「ふくろう便だ!」と誰かが叫び、なんだなんだと顔を上げる。朝の光を背に受け神々しく登場した天の使い…ならぬ大量のふくろうが荷物を持ってそれぞれ届け先のテーブルに突っ込んで行った。
「わお、大丈夫?」
私の目の前のサラダボウルに頭から突っ込んだふくろうちゃんに声をかけると、大丈夫だと言葉の代わりにすくっと立ち上がってまた飛んでいってしまった。なんだ今の、クールイケメンか。言葉はいらねえってやつか。
「シリウス・ブラック!!!!」
突如、大広間に聞き覚えのある声が聞き覚えのある名前を大音量で叫んだ。
トーストを齧る作業を中止して音源へと目を向ける。
「シリウス・ブラック!!!!全く貴方って人は…スリザリンじゃなくてグリフィンドールですって!?何を考えているの!!ああブラック家として恥ずかしい…血を裏切るつもりですか!!私は貴方がグリフィンドールに入ったと聞いて眩暈がしました!!この恥晒しめ!!親戚中の笑い者よ!!帰ってきたらしっかり話を聞かせてもらいますからね!!」
広間全体に響き渡る怒号。ヴァルブルガさんが吠えメールをシリウスに送ったのだと気づくのに1秒もかからなかった。
(いやいやお母さんやり過ぎですって!!吠えメールはやり過ぎですって!!)
シーン、と静まり返る大広間。私は慌てて立ち上がってグリフィンドール寮のテーブルへ走った。
「シリウス!!」
「……リーザ」
私がたどり着いた時には吠えメールの欠片ひとつも残っておらず、呆然とした表情で佇むシリウスを、好奇心や嘲笑や侮蔑を孕んだ視線がたくさん貫いていた。
そんな視線が気に入らなくて、シリウスの腕を掴み無理矢理立たせて出口に向かう。「スリザリンの…」とか「グレンフェル家の…」とか聞こえてくる声は全て無視。聞いたってなーんにも良い事無いしね。
そのままシリウスを引きずるように歩き(ごめん)廊下の一角へ来ると、まあまあ座って座って、と丁度そこにあったベンチへと座らせた。
綺麗なお手手を私の両手で包み込み、しゃがんで下から見上げるような形になって「何があったの?」と尋ねる。
「ババアから吠えメールが来てたから、うるせぇって笑い飛ばしてやるつもりで開けた」
「うん」
「けどなんか…その…」
「うん」
「……なあ、俺は間違ってるのか?リーザだってスリザリンに入ったじゃねえか。なんだよ、俺と一緒にグリフィンドールに来てくれるんじゃ無かったのかよ」
「シリウスは間違ってないよ」
「ならなんでだよ!!」
ガタッと立ち上がられてビビった。反動で地面に尻もちを着いてしまう。
何をするだァー!と見上げると、潤んだ灰色の目と視線が交差した。
な、泣いてやがる…
可愛い弟の可愛い泣き顔だ、弱ったシリウスは珍しい保存保存永久保存と脳内でシャッターを切りまくる。うっわ可愛い…と萌えで高鳴る心臓を押さえつけ、『姉』としての役目を全うする為に立ち上がった。
「シリウスがグリフィンドールに入ってくれて私は嬉しいよ。朝見てたけど、もう友達たくさんできてたじゃない。ヴァルブルガさんはちょっと混乱してるだけだって!休暇になったら一緒にシリウスの家行くからさ。ね?」
多分、この子は親に否定されたのが悲しかったんじゃないだろうか。いくら映画でシリウスがかっこよかったからといって、この子はまだ11歳なんだ。なんだかんだ心の底で親を慕っているはず…だ。私が、姉がフォローしなくてどうする。
「ここだけの話なんだけどさ、私がスリザリンに入ったのはある野望があったからなんだ」
「は?野望?」
「小さい声でお願いね。私は、スリザリンの純血主義の坊ちゃん嬢ちゃんをマグル沼に引きずり込んで『マグル大好き同盟』を立ちあげるつもりなの。お父様にお願いされたらやるしかないじゃない?皆マグル大好きにして闇の勢力予備軍を減らそう大作戦。どう?面白そうじゃない?」
ニヤリと笑うと、シリウスも涙を拭ってニカッと笑顔を返してくれた。元気出たかな?
「そいつは面白そうだな!!」
「でしょう?だからさ、シリウスもグリフィンドールの仲間と皆が笑顔になれるような作戦考えてよ!シリウスは表から、私は裏からホグワーツを盛り上げていこう」
シリウスは少し考えるような素振りを見せると、「おう、分かった」と力強く頷いた。マジか、後半自分でも何言ってるのか分かんなかったんだけど。
まあシリウスの元気を取り戻せたみたいで何より。
「よし、じゃあ戻ろうか!」
「…ん」
「何?お腹空いたの?ごめん今飴持ってない」
「違うっつーの手だよ手!」
差し出された手を握るとシリウスは満足したようにフンと笑い、「ほら行くぞ」と歩き出した。
手から伝わる温もりが心地良い。思わず頬が緩んでしまった。
「シリウス!!」
「大声出さなくても聞こえてる」
「初めての授業頑張ろうね!!」
「そうだな」
5/17
prev next