21.お誕生日さんの言う事は絶対
「お誕生日おめでとうシリウス!!」

「お、サンキュー」


11月3日、今日はシリウスの誕生日である。朝、大広間前でシリウスを捕まえた私は、彼を愉快な仲間たちから引き取って少し離れた中庭へと向かった。持っていた袋をシリウスに押し付けると、彼は笑顔で受け取ってくれた。


「……なんだこれ?」

「星型クッキー。シリウスにちなんで」


「これが星だと?」と袋から取り出されたのは波打ち際で死にかけたヨレヨレのヒトデみたいな形をしたクッキー ー。型を使わなくても作れると横着した結果がこれだ。正直反省している。


「だって!!学生だから自由に外出れないんだもの!!大丈夫、形は酷くても愛はある」

「お前なぁ…」


よよよ、と両手を顔にやって泣き真似をする。やれやれ、と肩を竦めたシリウスは胡散臭そうな目をクッキーに向けた後、恐る恐る口に含んだ。


「うまい」

「でしょでしょ」

「形は散々だけどな」

「それは反省しています…」


まあ60点くらいじゃねえの、と評価を下したシリウス。形だけで40点も引かれるなんて恐ろしい。次はちゃんと型を用意して作ろう。


「で、まさかこれだけじゃないよな?」

「へ?これだけだけど」

「冗談はよせよ。俺は今日お誕生日さんなんだぜ?」


ニヤリと笑うシリウスを見て背筋に冷たいものが走る。
一体何が始まるんです?大惨事お誕生日大戦だ。





「なんでスリザリンがグリフィンドールの席にいるんだい?ってリーザじゃないか!!遂にスリザリンに嫌気がさしてグリフィンドールに入りたくなったのかい?僕は大賛成だけどだったらもうローブのカラーを変えた方が良いと思うね!紛らわしいし。早速ペンキか何かで染めようか!!それとも色を変える魔法とか!?僕図書館で探してくる!!」

「落ち着け」


首根っこを捕まえて慌てて席に座らせる。朝からとんでもないマシンガントークを食らわさせられて私のライフはもうゼロよ!周りからの奇怪な目がとても痛い。すみませんグリフィンドールの皆さん、文句は私の隣で私の為に料理を盛り付けてくれている可愛い弟に言ってください。


「どうしてこうなった」

「ほら、あーん」


差し出されたフォークに刺さったソーセージを齧る。肉汁がジュワッと口の中に広がって美味しい、って違うそうじゃないだろ!


「おかしくない?なんで私が食べさせられてるの?」

「良いだろ別に。今日は俺が兄貴の日なの!ほら口開けろ」

「分かった、分かったけど何かがおかしい気がするよお兄ちゃん…」


あーんと口を開けたらトーストが突っ込まれた。ザクッと小気味よい音を立てたトーストはバターが程よく味のアクセントになっていて美味しかった。
なんだろう、凄くいたたまれない。美少年に手ずから食べさせてもらう精神年齢三十路、痛い、痛過ぎる。
ぐるりと見渡すと奇怪な目は微笑ましいものを見つめる目に変わっていた。まあ見た目は11歳だからね、あ、もう互いに12歳か、母性本能が擽られたんだろうと思い込む事にしよう。

向かい側に座る私の中での常識人枠ことリーマスに悲壮感漂う顔(当社比)を向け、「助けてリーマス」と小声で助けを求めると、「頑張れ」と応援されてしまった。

ちくしょう、じゃあ頑張るしかないな!!

一体全体どうしてシリウスが兄の真似事をしようとしているのか分からないが、可愛い弟のリクエストに答えるのが姉の役目だろう。もう吹っ切れた、吹っ切れたぞ私は。やけくそとも言う。「お兄ちゃん、私イチゴとバニラのアイスクリームが食べた〜い」と甘えた声を出して両手を組みシナを作ると、シリウスには「うわっ似合わねえな」と引かれ、ジェームズには牛乳を噴き出された。





「あー、ミス・グレンフェル……君はスリザリンじゃ無かったかね?」

「察して下さい…ぐすっぐすっ」

「スラグホーン先生、今日はシリウスの誕生日なんです!!」

「だから今日一日リーザはグリフィンドールなんだよ」

「やめて、やめてジェームズ、シリウス!!私がいたたまれない!!」

「まあ、仲がいいのは良い事なので良しとしよう」

「認めないでください!!ちゃんとスリザリン席に戻れって言ってください!!」


逃げられないようシリウスにローブの首根っこを捕まれた私は、授業もスリザリン側では無くグリフィンドール側で受けなければならなかった。両脇をシリウスとジェームズに固められてしまったから目立つ目立つ。幸いスリザリンでは地位があるらしい為避難の視線は私ではなくシリウスの方へ向かっていた。それはそれで心が辛いんだけどね、こればっかりは私は悪くないからね。

私を見なかった事にすると決めたらしいスラグホーン先生は、いつも通り授業を始めてしまった。
おお神よ、救いは無いのか!


「私教科書無い」

「俺の見れば良いだろ」


寮に戻る事を許されなかった私は手ぶらだった。
君はいつ教科書を持ってきたんだい?ああピーターに、そうなの…
パシリお疲れ様、と生あたたかい目をピーターに向けると私の黒い電波を受信してしまったのか目を逸らされてしまった。苦手意識持たれちゃってるなあ、と心の中で苦笑する。仲良くなりたいんだが、さてどうしたものか。

とんとん、と机を叩く音がして意識をピーターから音源に向けると、シリウスはムスッとした顔で教科書を私の方へずいと動かした。見ろと言うことなのだろうか。ありがとうお兄ちゃん、と言うと満足そうに笑ったシリウスに頭を撫でられた。撫でると言うよりは犬相手によーしよしよしするような感じだった。





「もうすぐ消灯時間だよシリウス、ね、離して」

「やだ」

「可愛過ぎかよ…」


やだて、やだてお姉さん今キュンキュンしちゃったよもう1回言ってくれないかな!?

大広間に残っているのは悪戯仕掛け人のメンバーだけ。なぜかと言うとシリウスが私をだいしゅきホ…いや、抱きしめて離さないからだ。

慣れない集団生活でシリウスも色々疲れたのだろう。私がビタミン剤の代わりとして機能するというならそれほど嬉しい事はない。喜んでこの身を差し出そう。
だけどねシリウス、もうそろそろ理由を教えてくれても良いんじゃないかな?どうして急に兄貴になりたいって思ったの?

シリウスの背中をとんとんとあやす様に叩きながら聞くと、「だって…」と小さな声が聞こえた。


「だってリーザ、最近他の奴らとばっか仲良くしてるだろ?」


さすがに空気を読んだのかあのジェームズも黙っていて、シリウスの不満そうな、それでいて不安そうな声がはっきりと聞こえた。


シリウスは抱きしめるのをやめて私の肩に手を置いた。捨てられた子犬みたいな目で見つめられて「ヴッ」と罪悪感が刺激される。たしかにマグル大好き同盟の2人とキャッキャウフフと楽しい毎日を過ごしてシリウスの事をないがしろにしていたのは事実だ。ごめんシリウス、そりゃ豆粒みたいにちっちゃい時から毎日一緒にいた相手に急に離れられたら不安になるわ。


「ごめんねシリウス、寂しかったんだね」

「いや?別に寂しくはねえよ」


ツンを発揮するシリウスが可愛くてまた胸がキュンとした。衝動のままにシリウスをがばりと抱きしめる。そろそろジェームズの『いつまで茶番を続けるつもりなんだい?そろそろ僕達帰りたいんだけど』という冷たい視線を無視してぎゅうぎゅう力の限り抱きしめた。


「大丈夫大丈夫、私はシリウスが大好きだよ!!」

「は!?いきなり何言って」

「え?シリウスは私の事嫌い?…ってそれはないか。シリウス私の事大好きだもんね!!」

「……ああそうだよ、リーザの事が好きだ!!」

「きゃー嬉しい!!両思いよ!!」


ぷぷ、とふたり同時に吹き出す。おふざけだと分かっているから互いに腹がよじれるほど大爆笑した。


「ぷふ、あはははは!!ははははは!!あ、愛してるわシリウス!!ひーー!!あーお腹痛い!!」

「ひひ、ああ、俺もだぜリーザ、わはははは!!」


ピーターは「え、ええ!?」と狼狽え、リーマスは「仲良しで良いなあ」と微笑み、ジェームズは「これで付き合ってないとか冗談でしょ…」と遠い目をした事を私は知らない。
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