26.百合と図書館と私
学年末の試験に向けて1週間を切ってしまい、そろそろ勉強しないとまずいなと(既に遅い気もするが)机に向かってみたもののどうにもやる気が出ない。うんうん唸ってたらノエルに「うるさいですわ!!勉強する気が無いなら遊びに行っててくださいな!!」と部屋を追い出されてしまった。邪魔してしまった事に申し訳なさを感じつつ、さて、どこに行こうかと頭を捻る。いつも悪戯仕掛け人の皆と一緒にいる訳にもいかないし、ノエルとケイトは机とお友達状態だ。…お友達、お友達ねぇ。悲しい事に1年生が終わろうとしているのにも関わらず、私は恐ろしいほどに友達が少なかった。ノエルにケイト、ジェームズにリーマスにピーター、あとセブルス。

そうだ、セブルスがいたじゃないか!!

暇だしちょっかいでもかけてやるかとルンルンで談話室へ向かう。セブルスーどこだーセブルスーと椅子の下や戸棚の後ろを探すがいない。当たり前だ。セブルスは床下の小人じゃないだろ、と自分にツッコむ。試験前だからちょっとふわふわしてるんだよ!いつもふわふわしてるだろって?うるさい、今悪口言った奴は減点だ減点。

試験前の談話室は激混みで、上級生がみっちり席に座って皆羽根ペンをガリガリと走らせている。しかし1年生の姿は無い。座席戦争に負けてしまったのだろう。だから当然セブルスの姿も無い。うーん、談話室にいないとなると図書館だろうか。図書館にいなかったら諦めて読書に励む事にしよう、と決意して私は談話室を出た。





図書館に行ってみると、思った通りセブルスがいた。やっほーセブちゃんと近づこうとするが、セブルスの向かい側に見慣れない赤色が見え、慌てて本棚の影に身を隠す。やっば、あれって。


「どうしたのセブルス?」

「い、いやなんでもない。ちょっと幻聴がしたんだ」

「そう?変なの」


リリー・エバンズじゃねーか!!

驚きのあまり勢いよく頭を本棚に打ち付けてしまいゴンッと鈍い音が響いた。逢い引き現場に遭遇してしまいどうすれば良いのか分からずとにかく見つからないようにしなければと体を縮こませて息を潜める。
うわぁ生リリーだ…!!
今まで何度か姿を見た事はあったけど、こんなに近づいたのは初めてだ(傍から見るとストーカーみたいだという事には目を瞑って欲しい)。愛の魔法でハリーを危機から救い、諸悪の根源ヴォルデモートを打ち負かした最強で最高な女性。まだ小さな子供だが、綺麗なグリーンの瞳には強い意志と勇気が宿っている。かっこいい。めちゃんこかっこいい。魔法を学び始めてから知ったのだが、愛の魔法というのは魔法界でも最強クラスの超魔法らしく、それを使える魔法使いや魔女もまた素晴らしい逸材なのだとか。映画を観てた時は愛の魔法ってスゲー!レベルの感想しか持たなかったが、そんな超魔法をマグル出身の女の子が使っちゃうとかそれなんて魔法少女?いやリリーはその時少女じゃないんだけど。とにかく、まるで道端でばったり長年推していたアイドルに出会ってしまったファンのように、私は感動と興奮で震えていた。ひゃーかっこいい!語彙力溶けちゃいそう。


「何やってるんだ?」

「観察観察ゥ…ってうわぁぁぁ!!セブルス!?な、なっ、なんで分かったの!?」

「姿が丸見えだからだマヌケ」

「えっ、うそーん」


どうやら興奮し過ぎて前のめりになってたらしく、自分の身体はすっかり本棚の影からはみ出してしまっていた。慌てて逃げようとするもセブルスに首根っこを捕まれ逃亡を阻止されてしまう。無念。セブルスは私の肩を本棚に押しつけた。うわっ壁ドンじゃん!!!セブルスに壁ドンされてる。ウケる。図書館だから声を抑えて笑うと「何がおかしい」とマジギレトーンで怒られてしまった。ごめん、私の頭が愉快なせいだ。


「彼女に何をする気だ」

「えっ、いや何も…話した事無いし…」

「彼女に手を出すつもりなら僕が許さないからな。もう二度とペアにならないぞ」

「それは困るけど、別に意地悪しようとして近づいた訳じゃなくて、セブルスがいつも見てる可愛い女の子と逢い引きしてるから面白いなって思って観察してただけ」

「なんだと!?」


別に逢い引きじゃなくてただ一緒に勉強をしてただけだと真っ赤になって慌てふためくセブルス。お前ほんとリリーの事になると途端にポンコツになるなこの純情ちゃんめ。可愛すぎか。早口で言い訳をするセブルスの隙をついて壁ドンから抜け出すと、リリーが心配そうな顔をしてこちらを見ていた。ヒッ、目が合った。


「ええっと…貴女ってあのリーザ・グレンフェル?」

「初めまして!あの、がどのか分からないけどリーザ・グレンフェルだよ。よろしくね!良かったら名前を教えてくれる?」

「リリー、エバンズ…」

うん、知ってる。ちゃんと知ってるけどいきなりよろしくリリーなんて言ったらストーカー認定されちゃうでしょ!なんで私の名前知ってるのってなっちゃうヤバイヤバイ。あ、ジェームズから聞いた事にすれば良いのか?でもまだジェームズそこまでエバンズ狂じゃないし。うーん、名前の聞き方不自然だったかなぁ。少し不安そうな顔をしてこちらを見つめるリリーに違和感。なんだ、取って食ったりしないぞ。スリザリンだけど。ああ、そうか。スリザリンだからかぁ…


「えっと、もしかして私がスリザリンだから警戒してる…?」

「……」


沈黙は肯定だ。ちくしょうスリザリンめ、リリーに意地悪して良いのは彼女に恋をした男の子だけだぞ!大丈夫だよ、何もしないよ〜と手をひらひらさせてほら怖くない怖くないと繰り返しながらゆっくり近づく。そっとリリーの左手を取り、ギュッと結ばれた手のひらを撫でる。あまり警戒しないでね悲しくなるから!!
ぶんぶんと上下に振り「仲良くしてね!」と笑うと、リリーはギョッと目を見開いた。


「良いの…?私は、その……マグルなのよ」

「なんで?友達になるのにマグルとか別に関係無くない?なんか特別な儀式必要だった?」

「いいえ、そういう訳じゃないけど…でも、どうして?」


まだ不安そうな瞳をしているリリーを見て首を傾げる。難しいなぁ。理由、理由か。特に無いけど、それをそのまま伝えたらちょっとカッコ悪いだろう。お姉さんはカッコつけたいのだ。だから「友達になるのに理由なんてないさ」とドヤ顔した。


「貴女、変わってるのね…ふふ、ふふふ」

「えっ、なんで笑われてるの…今のスベった!?」

「ふふふふ、ごめんなさい、貴女は悪くないわ、ふふ」

「そ、そうなら良いんだけど…」


肩を震わせて小さく笑うリリーを見て頭にハテナを浮かべる。何がツボったんだろう。ドヤ顔じゃなくて変顔だったのかもしれない。リリーは口を抑えて肩を震わせふふふと笑うと、ニコッと素敵な笑顔を浮かべて私の手を取った。


「これからよろしくね、リーザ!」

「ッ…!!うん!!よろしくリリー!!」


リリーの花のような笑顔が可愛すぎてつい見とれてしまった。こりゃジェームズやセブルスが骨抜きになるのも仕方がない。
そういえばこれで親世代コンプか。数年後キツくなるのは自分だぞ。良いのか?大丈夫だ、問題ないと空の彼方から声が聞こえた。じゃあ大丈夫だろう。
そういえばさっきからやけに静かだけどセブルスは一体どこへ消えてしまったんだろう?キョロキョロと周りを見渡すも何処にも姿は無い。


「リリー、セブちゃん消えちゃったんだけど」

「あっ、リーザ…」


リリーが目を丸く見開いて私の背後を見た。肩をトントン、と叩かれたので振り向く。そこには、禿鷲のような見た目の鬼司書マダム・ピンスとねっとりと嫌らしく勝ち誇ったような笑みを浮かべたセブルスがいた。こいつ…!!!


「ミス・グレンフェル。貴女の1ヶ月図書館への利用を禁じます」

「アー、マダム…これには訳が…」

「言い訳は無用。早く出ていきなさい!」

「はい…」


いそいそと荷物を纏めると心配そうにこちらを見つめるリリーと目が合った。だ、い、じょ、う、ぶと口パクで伝えてウインク(できないから両目を閉じた)すると、リリーはまた優しく笑ってくれた。全く、スリザリン生は揃いも揃って狡猾で嫌になるぜ。リリーには一切お咎めなく邪魔者の私だけを追い出すなんて、セブルスって凄い奴なんだなぁと何故か関心してしまい、セブルスにもウインク(もちろん失敗)すると、とうとう痺れを切らしたマダム・ピンスが「グレンフェル!!!!!!」と叫んだ。





バタン!!と勢いよくドアが閉まり、外に放り出された私はイタタタと尻餅をつく。1ヶ月出禁か。まあそんな図書館利用しないし良いか…と、そこで気づいてはいけない事実に気づいてしまいサッと血の気が引いた。


「試験勉強できないじゃん!!!セブルスのバカヤロウーー!!!!」


慌てて寮に戻り、ノエルとケイトに事情を話して図書館の本を貸してくれるよう頼み込むと、ノエルはハァとため息をひとつ吐いて「やっぱりリーザは馬鹿ですわ」と呆れたように言った。返す言葉もございません。
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