07.可愛い犬は愛でろ
ペンを走らせる音と、たまに雑誌のページを捲る音だけが部屋に響く。珍しくシリウスは雑誌に集中していて私に話しかけてこないので、寂しいとは感じつつも私は課題を黙々とこなしていった。


「ねぇシリウス、ここ分かる?」

「あーそこはだな…」


私よりずっと年下なはずのシリウスだが、私よりも頭が良い。さすが未来で悪戯仕掛け人として活躍する男は違うなあ、と心の中で褒める。
きっとヴァルブルガさんの教育の賜物だろう。彼女の教師としての腕は一流だ。母としての腕は赤点だが。

雑誌を読むのを止め、わざわざ隣に座り直して私に勉強を教えるシリウスが可愛く思えてきて、思わずはねっ毛の多い黒髪を両手でわしゃわしゃしてやる。飼い犬にシャンプーしてる気分だ。犬飼った事無いけど。前世は金魚を飼っていたっけな。シリウスに「な、何だよ急に!」と怒られたが、わしゃわしゃするのを止めて普通に撫でてやったら大人しくなった。まったく、可愛い奴め。

普段はレギュラスの方が私に甘えてくる為、お兄ちゃんであるシリウスはレギュラスの前ではあまり私に甘えてこない。だからレギュラスが居ない時、私はこうやってシリウスに「私に甘えて良いんだよ」とサインを送る。


「勉強教えてくれてありがとうね、シリウス。お姉ちゃんに何かやってもらいたい事何かある?」

「弟扱いすんなよ!あー、んん…別に…」

「ほらほら、たまには我儘言ってみなって」

「うう…笑うなよ?リーザの作ったクッキーが食べたい」

手作りのお菓子貰える機会って全然無いから、と言い訳をするシリウス。貴族は屋敷しもべ妖精が料理もお菓子も用意してくれるもんね。


「分かった、次ブラック家来た時キッチン借りて良いかな?クリーチャーと一緒に作るよ」


そう言えば、シリウスは「やった!」と無邪気に笑った。





「ただいま姉さん!」


持ち込んだ分の課題が終わり、クリーチャーに入れてもらったミルクティーを1階の客間でシリウスと飲んでいると、扉が勢いよく開いてレギュラスが飛び込んできた。私の座っていたソファに体ごと飛び込んで、私の胸に頭をぐりぐりと押し付けてくる。幼馴染の美少年に頭ぐりぐりさせて何も思わない女が居るだろうか。いや、いない。

ああ可愛いほっぺたを食べちゃいたいモチモチしたい!

と込み上がる邪念という名の衝動を理性を総動員して抑えつけ、サラサラな黒髪を優しく撫で「おかえりなさい、レギュラス」と微笑んだ。

パーフェクト。完璧な笑顔を作れたわ、と心の中でほくそ笑む。

ふとシリウスに視線をやると、ブスッとふてくされた顔でミルクティーを煽っていた。ははーん、可愛い弟を幼馴染に盗られて嫉妬しているな?


「レギュラス、シリウスにも挨拶しようね」

「はい!ただいま兄さん」

「…おう」


兄さんにも挨拶しましたよ褒めて褒めて、と輝く瞳で私を見つめるレギュラスを「きちんと挨拶できて偉いねええ!」とギュウギュウ抱きしめる。シリウスは、釈然としない表情をしながらこちらをじっと見つめていた。私が羨ましいならレギュラスにちゃんと伝えれば良いのに。
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