08.クッキーに愛を込めて
「クリーチャー先生、よろしくお願いします!」


可愛い弟の願いを叶えるべく(後はクリーチャーと仲良くなりたいという下心)、私はシリウスもレギュラスも外に遊びに出かけた頃を見計らって、クリーチャー先生と共にブラック家のキッチンをお借りしてクッキーを焼く事にした。
材料費は私の家で出しているから何回失敗しても大丈夫だ、多分。

実は私はお菓子作りだけは大の苦手だった。

フィーリングでも何とかなってしまう料理と違い、お菓子はきちんと量を計算して作る必要がある。面倒くさがりな私には相性が悪かったのだ。


「ああリーザお嬢様、卵黄と白身は一緒に入れてはいけません!」

「バターは直火で炙ってはいけないのです!」

「まだボウルに粉が残っています!」


クリーチャーに叱られつつ、ひーひー言いながらも何とかクッキー生地が完成した。冷えて固まったと思われる生地を恐る恐る冷蔵庫から取り出しクリーチャーに見せる。


「きちんと固まってますね。これなら綺麗に焼けるでしょう」


笑顔のクリーチャーにOKを貰い、私もつられて笑顔になった。やった!今回は最後まで作れそうな気がする!

取り出したクッキー生地をシートの上に置き、次は型抜きだ。クリーチャーに小さめのナイフを出してもらい、私は頭の中に完成図を思い浮かべながら生地を切った。


「リーザお嬢様、それは…」

「スニッチ!」


不細工なひよこみたいなスニッチ型をどんどん切り取り、魔法界のオーブントースターの台に並べていく。シリウスもレギュラスもクィディッチが大好きだから喜んでくれると思ったのだ。クリーチャーは困惑した表情を浮かべながらも、何も言わずに私の様子を見守ってくれた。


「リーザちゃん、クッキー作りは順調かしら?」


突然女の人の声が背後から聞こえ、反射的に声のする方へ振り返る。そこには、穏やかな表情で私達を見つめるヴァルブルガ夫人が居た。

ゲ、と顔を顰めそうになるのを堪えて完璧な笑みを浮かべる。私はヴァルブルガさんが苦手だった。グレンフェル家に来ては純血がいかに素晴らしいかを語り、ヴォルデモートを讃え、マグルを見下す話ばかり。元マグル出身の私も、熱狂的なマグルファンの両親にとっても辛い時間だ。映画でも肖像画になってなおギャーギャーと騒いでいたし。ヴァルブルガさんに対する良くない印象は何年経っても変わる事は無かった。


「はい、クリーチャーのお陰で上手に作れそうです!シリウスとレギュラスの口に合うと良いのですが…」

「まあ、貴女の作ったクッキーをあの子達が喜ばない訳が無いわ。2人とも貴女が大好きなんですもの!」


ヴァルブルガさんはずんずんとキッチンの奥へ進み、なぜか私の側に立った。オーブンの中に並べられた不恰好なスニッチ型のクッキーをジッと見つめられる。ああ、居心地が悪い。クリーチャーも「奥様?」とオロオロしている。ヴァルブルガさんがキッチンに立つ事自体が珍しいのかもしれない。


「…私も、一緒に作っても良いかしら?」


ぽつり、と呟かれた言葉に私は「はいい!?」と聞き返しそうになる。家事なんて言葉とは程遠い世界に住んでいたであろうヴァルブルガさんがクッキー作り!?

ヴァルブルガさんが変に強張った表情で私を見つめてくるもんだから、思わずコクコクと首を上下に振ってしまう。


「ありがとう。私もあの子達に何か母親らしい事をしてあげないと、って思っていたのよ。それでステラに尋ねたら「子供達の為にお菓子を作るのはどうでしょう?」って。丁度リーザちゃんがクッキーを作るって言っていたからご一緒させてもらおうと思ったの」


「一緒にあの子達の為に頑張りましょうね」と微笑まれ、私の中にあったヴァルブルガ像がガラガラと音を立てて崩れていった。

なんだ、ちょっと不器用な良いお母さんじゃないか。

シリウスとレギュラスを厳しく躾けるばかりで母親として赤点だわ、と思っていた自分が恥ずかしい。ヴァルブルガさんもきちんと考えていたのだ。2人の為に出来る事を。

「お店で売られている物より美味しいのを作りましょうね!」と答えれば、ヴァルブルガさんはニコッと笑ってくれた。クリーチャーは感動して泣いていた。

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