不思議な先輩、アリスと図書館で出会ってから僕は毎日図書館で勉強するようになった。今日も図書館へと足を進めた僕は、とある一角に向かう。禁書の棚近く、窓際の端っこの席。そこに、アリスはいつも先に座っていた。


「こんにちは、アリス」

「やあ、リーマスくん」

「隣、良いかな?」

「どうぞ」


僕は隣の椅子に座ると、教科書と参考書をドサッと机に落とす。ちよっとした凶器だ。隣から「相変わらず凄い量だねぇ」と声が聞こえてきた。チラ、と隣を見ると、既にアリスはこちらに興味を失ったのか、本の世界に没頭していた。


必要以上に話す事も無く、心地良い沈黙が流れるこの空間が好きだ。


僕が行くと必ず居て、僕が帰ろうとすると先に席を立ってふらっと消えてしまうアリス。
大広間に行く度に姿を探すが、レイブンクロー生の中からピンクブロンドの髪を持つ女の子は見つからない。その事を彼女に尋ねると。


「生徒が大広間に行ってる時間は図書館が空くからフラフラして次の本の目星をつけたり、マダム・ピンスのお手伝いをしているよ。キッチン行ったらご飯出してもらえるし」


最後に行ったのは今年の組み分けの日だねぇ、と笑うアリスに僕も苦笑した。この人は僕の親友達とは方向性が違う問題児だ。
本来なら僕は監督生で彼女は問題児。僕が注意して授業に出席させないといけないのかもしれないけれど。
彼女は毎日沢山の蔵物を読み漁っていて知識が豊富だし、呪文の精度も完璧らしい。遊び歩いて勉強しない訳じゃ無いみたいだし、このままでも良いと思うんだ。


「どうした?リーマスくん」

「えっと…ここって分かるかい?」

「ああ、そこはね…」


読みかけの本を放り投げ、僕の方へ身体をぐい、と近づけてくるアリス。彼女の身体からふわっと甘いお菓子のような香りがして鼻腔をくすぐられる。女の子ってこういう香りをしているんだ、と少し動揺したが、その事を悟られないようにポーカーフェイスを貼り付けてアリスの解説に集中した。

参考書のどこに何が載っているか、どのページが関連しているか、という事も覚えているから本当にアリスの記憶力はすごい。「私という家庭教師が居たらリーマスくんは首席確定だね」と不敵な笑みを浮かべるアリスの言葉を聞いて、「もしかしたら今回の僕は首席を取れるかもしれない」という気持ちになった。

すぐにアリスと同じ顔をして笑うジェームズやシリウスの顔を思い出して、僕が首席だなんていう夢はしゅるしゅると萎んで消えてしまったけど。


その魔法の言葉ひとつ

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