「最近どんどん賢くなってないかい?リーマス」
闇の魔術に対する防衛術の授業の後、ぶぅと口を尖らせながら話しかけてきたのはジェームズだった。
「実技は僕の方が上だけど、座学は負けちゃうかもしれないな。一体どんな勉強してるの?」
「どんなって…普通に勉強してるだけだよ」
「ええ〜!?絶対嘘だ!」
教えて教えてと後ろをカルガモの雛のように着いてくるジェームズを無視して図書館の前を通る。
「今日は図書館に寄らないの?」
「…今日はやめておくよ。今夜はあの日だから、せめて今は部屋でゆっくり休みたいんだ」
「あっ、そうだったね!でも心配しないで、今回も僕達悪戯仕掛け人が付いてるからさ!」
「ふふ、ありがとう」
今夜は大嫌いな満月だ。本当は部屋で休まずに誰かと……アリスと話をしたかった。だけど、憔悴している自分の姿をアリスに見られたくなかった。だから僕は図書館を素通りした。
もうひとつ素通りした理由がある。それは、親友達とアリスを合わせたくない、という思いから。天才肌のジェームズとシリウス、アリスはとても良く似てる。波長が合って、僕以上に仲良くなってしまうかもしれない。それが妙に嫌だった。
…そんな、まるで独占欲が強い子供みたいじゃないか。
仲間達と別れ、ひとり寂しく自室のベッドに眠る。今夜は眠れないから、せめて今だけは人間らしく眠りたかった。
*
「にゃおん」
猫の鳴き声が聞こえた気がしてゆっくり身体を起こす。閉めたはずの部屋の扉が開いていた。
「にゃん!」
鳴き声とともに僕の掛け布団の上に飛び乗ってきたのは、ピンクとスミレの縞々な毛を持った、金色の瞳の猫だった。
「君は…」
どこかで見た事があるような、と記憶の引き出しをひとつずつ開いていく。確か最近読んだ本の中に出てきたような…マグルの児童書の中に、目の前の猫と全く同じ色をした不思議な猫が登場したっけ。確か名前は…。
「チェシャ猫?」
「にゃおん!」
呼んだつもりは無かったのに、目の前の猫はまるで自分が「チェシャ猫」だとでも言うように「にゃー、にゃー」と鳴いた。何度も何度も鳴いた後、チェシャ猫は自分の頭をぐりぐりと僕の掌に擦り付けて甘えてきた。
しかし、僕はこの子と会うのは初めてだった。もちろん懐かれるような事をした覚えも無かった。
「君はどこから来たんだい?」
チェシャ猫の喉を撫でながら尋ねると、ビクリッと震えた後「なぁなぁ」と鳴いてベッドの下に降り、そのまま扉の隙間から外へ出て行ってしまった。
「…へ?」
今のはなんだったのだろう。まさか、誤魔化された?
チェシャ猫の謎は残ったが、夜が更ける前に僕は叫びの屋敷へ向かわなくてはならない。ガヤガヤと遠くの廊下から生徒達の声が聞こえる。鉢合わせしないよう注意しながら、僕は鉛のように重い足を引きずり暴れ柳へと向かった。
その後ろから、キラリと光る金の双眸がこちらを覗いていた事にも気付かずに。
不思議の国に誘う