満月の日を仲間と共に過ごすようになってから、医務室に1日泊まれば次の日はいつも通りの生活を送れるようになった。マダム・ポンフリーに貼られた湿布を指でなぞる。身体の傷が減ったのも彼らのおかげだろう。
一晩中付き合ってくれた親友達に心から感謝した。





「あ、リーマスくんだ」


医務室から出ると、何故かばったりアリスと遭遇してしまった。いつも通り自信満々な顔をしているが、どこか焦っているようにも見える。また授業をサボった事がバレてマクゴナガル先生にでも追いかけ回されているんだろう。額にはじんわり汗が滲んでいた。


「リーマスくん体調不良?」

「うん、まあそんなところかな」

「OWL近いもんね。体調管理はしっかりするんだぞ〜」

「待ちなさいアリス・シークマン!!!!」

「ゲッもう見つかった!じゃあね〜」


アリスは手をヒラヒラさせながら医務室脇の曲がり角へ飛び込んでいった。すぐに追いかけて角を覗き込んだが、そこには誰の姿も無かった。

アリスにしか分からない隠しルートが沢山あるのかもしれないな。それこそ、僕達悪戯仕掛け人が作った忍びの地図にも載っていない、秘密の道が。

そう思い、正規ルートで自寮へと戻ろうと廊下を歩く。
途中で顔を真っ赤にしながら走るマクゴナガル先生とすれ違った。お疲れ様です、と心の中で労いの言葉をかける。


「痛っ」


ピリッとした痛みが頬を伝った。ああ、顔を動かすと傷が開くのか。面倒な場所に傷を作ってしまった…って、あれ?頬に大きな絆創膏が貼ってあるのに、彼女は特に何も聞いてこなかったな。今まで会った人間は、初めて僕の傷を見た時は何らかの反応を示したんだけど。


「まあ、良いか」


一瞬、アリスはもう既に僕が人狼だって事を知っているんじゃないかと思って背筋が冷たくなったけど、出会ってまだ半月くらいの人間の素性なんて分かるはずが無いよな、と自分を納得させた。

きっと面倒臭がりで図書館の蔵書にしか興味が無い彼女の事だ、僕自身の事なんか興味が無いに違いない。

チクッと胸に針を刺されたような痛みを感じたけど、それが事実なんだ。僕から彼女について尋ねる事はあるのに、彼女から僕自身の話を尋ねられた事は1度も無い。
今は流れで僕専用教師みたいな役割を担ってくれているが、もしOWLが終わったら?一体僕達の関係はどうなってしまうのだろう。

そんな事を考えながら歩いていると、グリフィンドール寮の前に辿り着いた。モヤモヤする気持ちを心の底にグッと押し込める。今は部屋に戻って、一晩を共にしてくれた親友達にお礼を言わないと。太った婦人に合言葉を告げ、僕は中へと足を踏み入れた。



柔らかい傷跡にオブラート

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